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2009(平成21)年7月29日
広島弁護士会
会 長  山 下 哲 夫
 昨日、大阪拘置所において2名、東京拘置所において1名、計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
 昨年は1年間で、合計15名に対し死刑が執行されており、昨年9月に森英介法務大臣が就任して以来3度目、本年では1月29日の執行に続き2度目の執行がされたこととなる。とりわけ、今回は、足利事件において、無期懲役判決の決め手となったDNA鑑定が精度の低いものであることが明らかとなり再審公判が始まろうとしている状況で、同種のDNA鑑定により死刑判決が確定して昨年10月に死刑が執行された飯塚事件に関心が集まる中での執行である。
 さらに、今月21日には衆議院が解散され、来る8月30日には総選挙が予定されており、死刑制度のあり方も総選挙の争点のひとつになりうる問題である。この問題に関する国民の判断を待つことなく死刑を執行することは、死刑制度に関する国民的な議論を軽視するものであり、批判を免れない。
 我が国の死刑制度については、昨年来、国際社会においてかつてないほどの注目を集め、死刑執行の増加傾向に対し警鐘が鳴らされてきた。すなわち、昨年6月の国連の人権理事会は、日本の人権状況に対する普遍的定期的審査の報告書を採択し、その中で死刑執行の増加に懸念を示したうえで、死刑執行の停止が勧告された。また、昨年10月には、国連の自由権規約委員会の第5回日本政府報告書審査の総括所見においても、委員会は死刑制度の廃止を前向きに検討するよう、日本政府に勧告している。
 さらに、昨年12月8日の国連総会本会議において、死刑執行の停止を求める決議が一昨年を上回る圧倒的多数の賛成で採択されたことは、世界では死刑制度の廃止が潮流となっていることを示しており、我が国をはじめとする死刑存置国に対して、死刑の執行を停止し、あるいは死刑適用の制限を求める動きがますます強まっている。
 前記のような国連機関による度重なる勧告は、死刑が最も基本的な人権である生命に対する権利を否定する究極の刑罰であり、死刑制度は人権にかかわる重大な問題であるという認識のもとになされている。本年5月から裁判員裁判制度が実施され、死刑制度とその運用に対し、社会の関心が高まっている中、現行の死刑制度が抱える問題点を広く社会が共有し、改革の方向性を探るべきである。
 当会は、死刑をめぐる情報が的確に開示された上、死刑の存廃についての国民的な議論が尽くされるまで、一定期間、死刑の執行を停止するよう要請してきているところ、昨日の死刑確定者に対する死刑執行について遺憾の意を表明するとともに、前記の国連総会決議が採択されたことを受け、日本政府が速やかに死刑の執行を一時停止し、制度の見直しを行う作業に着手すべきことを求めるものである。
以上
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2009(平成21)年7月8日
広島弁護士会
会 長  山 下 哲 夫
 政府は、本年3月13日、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案を閣議決定し、同法案は、同日、第171回通常国会に提出され、6月19日に衆議院で再可決されたことから法律として成立した。海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律は、海賊行為の具体的内容を定義した上で同行為を犯罪として処罰する旨規定し、海上保安庁による海賊行為への対処措置を定めるとともに、防衛大臣が自衛隊の部隊に対する海賊対処行動の実施を命ずることができるものとしている。加えて、同自衛隊による海賊対処行動に際しては、一定条件の下に武器使用が認められている。
 同法律は、憲法9条1項が禁止する武力による威嚇又は武力の行使を招くおそれがあるというべきである。同法律では、航行中の船舶を強取する等の目的で他の船舶につきまとい、又は、その進行を妨げる行為(同法律第2条第6号)等を「海賊行為」と定義して、その犯人の逮捕、逃走防止等のために必要と認められるに武器を使用することを認めている(同法律第8条第2項、警察官職務執行法第7条)。同武器使用は原則的に威嚇射撃等を想定しているとはいえ、かかる武器使用は先制攻撃を認めることにもつながりうるものであって、憲法上禁止されている武力の行使を招来することにもなりかねない。また、自衛隊による同武器使用は、武力による威嚇にまで拡大する可能性が否定できない。
 ましてや、ソマリア沖海域では、その武力の行使又は武力による威嚇に至る可能性が高い状態にあるというべきである。国際連合安全保障理事会は、安保理決議第1838号ソマリア情勢に関する決議によって、関連諸国に対し、海軍艦艇・軍用機の展開によるソマリア領海内及び同国沖公海上における海賊行為に対する戦いに積極的に参加することを要請しており、同決議第1851号ソマリア情勢に関する決議は、暫定連邦政府と協力する各国に対し、海上における海賊行為及び武装強盗を制圧するために、同国内であらゆる必要な措置を行うことができることを決定している。かかる要請、及び決定がされている同国領海内及び同国沖公海上における自衛隊の海賊対処行動は、他国の軍隊と共同した武力行使になる可能性が高いと考えられ、同海域における自衛隊の武器使用を認めることは、憲法上禁止されている武力による威嚇又は武力の行使となる可能性が高い。
 加えて、自衛隊の海賊対処行動は、内閣総理大臣の承認を得て防衛大臣が命ずるものとされており、国会の関与は事後的報告のみとされていることから、自衛隊による海賊対処行動に対する国会の民主的コントロールにも問題があるというべきである。
 海賊行為が海上輸送の用に供する船舶その他の海上を航行する船舶の航行の安全に対する極めて重大な加害行為であって、深刻な国際問題であることは論を待たない。しかし、かかる海賊行為に対する対処行動として海上保安庁による海賊行為への対処に加えて、自衛隊による海賊対処行動まで認めることは、警察比例の原則を逸脱するに留まらず、上記のような憲法違反を生じさせるおそれがあるものであって、極めて問題性が高いというべきである。
 よって、当会は、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律の成立に対して抗議する。
以上
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2009(平成21)年4月8日
広島弁護士会
会 長  山 下 哲 夫
 当会では、2009年(平成21年)5月21日から施行される裁判員制度について、全ての会員がその刑事弁護活動を積極的に担っていく予定であるが、裁判員裁判における国選弁護人を原則として複数とすることを強く求めるものである。
 裁判員裁判においては、公判手続に先立って行われる公判前整理手続において、証拠開示請求や予定主張明示などの諸手続を短期間のうちに対応しなければならず、さらに公判手続では連日的開廷が行われ、何人もの証人尋問等証拠調べが集中的に実施され、最終弁論も証拠調べ終了後直ちに行わなければならない。そのため、弁護人は、短期間に集中して精力的な弁護活動を強いられ、従前とは比較にならない非常に重い負担を負うことになる。
 すなわち、裁判員裁判を担当する弁護人は、その公判期間中はもちろん、その日の公判終了後も被告人との接見・打合せなど翌日の公判に備えて訴訟活動の準備に追われ、そのために他の業務を行うことが極めて困難になることも想定される。具体的には、いわゆる否認事件であれば、3日以上に及ぶ連日的開廷期日が必要な事件となり、また、いわゆる自白事件においても従前の量刑基準が当然の前提となるわけではないことなどから、これまでの弁護活動自体を一から再検討することを迫られている。
 このように、弁護人が多様な重い負担を背負うことは、ひいては被告人にとって十分な防御活動ができなくなる危険があり、また訴訟の円滑な進行にも支障をきたすことになりかねない。
 したがって、これまで比較的容易と考えられていた自白事件においても、選任される被告人国選弁護人は最低2名を原則とすべきである。また、3日以上の連日的開廷が予想される否認事件においては、被告人国選弁護人の人数は3名以上とされるべきである。
 また、迅速かつ充実した裁判員裁判を実現するためには、弁護人が早期に事実関係を把握して被告人との信頼関係を築くことが不可欠であるから、できるだけ早い段階での弁護人選任が望ましいことは言うまでもないので、被疑者段階から公判を担当することになる複数の弁護人が選任されることが望ましい。
 刑事訴訟法37条の5では、被疑者段階でも裁判官の裁量により、法定刑が死刑または無期懲役または禁固事件では1名追加しての被疑者国選弁護人の選任が可能とされているところ、裁判員裁判対象事件の多くはこれに該当するのであるから,積極的に被疑者国選弁護人の複数選任が実現されるべきである。
以上
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2008(平成20)年10月9日
広島弁護士会
会 長  石 口 俊 一
 去る10月2日、広島地方裁判所民事第2部(橋本良成裁判長)は、いわゆる「光市母子殺害事件」の差戻し裁判において弁護人を務めた当会所属の弁護士らが原告となり、テレビ番組での発言をめぐり大阪弁護士会所属の弁護士に対して損害賠償を請求した訴訟において、原告の主張をほぼ全面的に認容する判決を言い渡した。当会は、この判決に接し、刑事弁護人の地位と役割及び弁護士懲戒制度の趣旨について、改めて広く市民に理解されることを期待するとともに、今後も刑事弁護に携わる全ての弁護士がその職責を全うできるよう最大限支援していくことを表明するために、本声明を発表するものである。
 弁護人依頼権は、人類が過去の刑事裁判の歴史の中から、その叡智をもって生み出した被告人にとって極めて重要な権利である。憲法第34条は、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない」と規定し、また憲法第37条3項は、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」と規定しており、弁護人依頼権は憲法の明文で認められている。
 また、被告人の弁護人依頼権の保障は、被告人に適正な裁判を受ける権利を保障するうえでも不可欠なものである。さらに、弁護人依頼権を十分に保障することは、@裁判所による真実の発見(冤罪の防止)、A罪刑の均衡の実現、B被告人の更生、C社会安全の維持といった重要な社会的利益の確保にも資するものである。
 このような被告人の弁護人依頼権の重要性から、弁護人の刑事訴訟手続における弁護活動(主張・立証活動)については、その自由な活動が最大限保障されなければならない。
 本判決は、『弁護士は議会制民主主義の下において、そこに反映されない少数派の基本的人権を保護すべき使命をも有しているのであって、そのような職責を全うすべき弁護士の活動が多数派に属する民衆の意向に沿わない場合がありうる。』、『被告人は有罪判決が確定するまでは無罪の推定を受け、弁護人はそのような被告人の保護者としてその基本的人権の擁護に努めなければならないのであって、その活動が違法なものではない限り、多数の者から批判されたことのみをもって当該刑事事件における弁護人の活動が制限されたり、あるいは弁護人が懲戒されることなどあってはならないことであるし、ありえないことである。』と述べ、刑事弁護活動の重要性を明確にしたものであり、高く評価できるものである。
 過去にも刑事弁護活動に対する理解が不十分なことから非難が寄せられたこともあったが、今回の訴訟で問題とされたテレビ番組における発言は、本判決も指摘するとおり、これまで述べてきたような重要な役割を担う弁護人の使命や職責を正しく理解しないものであり、市民に誤解を与え、さらには助長するものであった。そして、弁護士自治の根幹たる懲戒制度についても、市民に対してその趣旨を外れた誤解を引き起こしたため、刑事弁護活動に対する一種の抗議活動の手段のように用いられたことも極めて遺憾である。
 このような誤解は、結果として、弁護人による刑事弁護活動に対する様々な圧迫、制約を生み出すだけでなく、ひいては裁判所による真実の発見、冤罪の防止、罪刑の均衡の実現、被告人の更生、社会安全の維持などの重要な社会的利益をも損なうものである。
 当会は、本判決が、刑事弁護人の使命及び職責に対する正しい理解の一助となることを期待して、本声明を発表する。
以上
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2008(平成20)年5月28日
広島弁護士会
会 長  石 口 俊 一
 文部科学省は、2008(平成20)年4月22日、前年度に引き続き全国の小学校6年生、中学校3年生の全児童・生徒を対象に、全国学力・学習状況調査(以下「全国学力調査」という)を実施した。
 全国学力調査は、学校の設置管理責任者(教育委員会・学校法人等)の協力を得て、実施することとされているが、前年度に引き続き本年度についても、全国の殆どの公立学校が参加し、広島県内についても、全ての公立学校がこれに参加した。しかも本会が事前に広島県内の各教育委員会にアンケートを実施したところ、学力調査への参加の是非について、特に議論をすることのなかった教育委員会や、文科省が求める調査だからという理由だけで参加を決定した教育委員会が多数みられた。
 かつて最高裁は、旭川学力テスト事件判決(1976(昭和51)年5月21日)において、当時実施された全国学力テストについて、その調査方法が、文部大臣(当時)が直接教育そのものに介入するという要素を含み、また、調査の必要性によっては正当化することができないほどに教育に対して大きな影響力を及ぼし、文部大臣の教育に対する「不当な支配」(旧教育基本法10条1項)となるものではないか、という観点から慎重に検討している。同判決は、結論としては、当時の学力テストは試験問題が平易であったことや調査結果を公表しないこと等を指摘し、教育に対する強い影響力、支配力はないとして違法性を否定したものの、全国学力テストが与える影響力について、「各クラス間、各学校間、更に市町村又は都道府県間における試験成績の比較が行われ、それがはねかえってこれらのものの間の成績競争の風潮を生み、教育上必ずしも好ましくない状況をもたらし、また、教師の真に自由で創造的な教育活動を萎縮させるおそれが絶無であるとはいえない」との懸念を示している。
 また、2004(平成16)年、子どもの権利条約第44条に基づいて、締約国である日本政府の提出した報告書を審査した国連子どもの権利委員会は、日本の「教育制度が過度に競争的であるため、子どもの肉体的精神的健康に悪影響を与え、子どもの能力を全面的に発達させることを阻害している」と述べ、日本の子ども達が成績重視の過当競争に晒されていることを指摘している。
 ところで、文科省は、前年度の全国学力調査の調査結果について、都道府県教育委員会に個々の市町村名及び学校名を明らかにした公表は行わないこと、市町村教育委員会に、個々の学校名を明らかにした公表は行わないことを配慮事項として掲げてはいるが、実際には、公表している学校が多数あり、さらに、報道によれば、広島県内には、各学校に公表するよう指導している教育委員会さえある。また、教育委員会が積極的に公表しなくとも、現在では、殆どの自治体において情報公開条例が制定されており、調査結果の公表は避けられないことが懸念される。
 調査結果の公表により、各学校間、地域間の成績が比較され、その結果、子ども達は過当な成績競争に晒されることになる。
 実際、全国学力調査が行われることにより、教育現場において、成績重視の風潮、教師の自由で創造的な教育活動を妨げる状況をもたらしている。
 例えば、前年度において、広島県北広島町教育委員会は、点数の向上を図るため、独自に問題集を作って配布し、事前に対象の児童・生徒に解かせ、各学校から正答率などの報告を受けていたことが報道により判明した。また、このような弊害が前年度においてあったにもかかわらず、本年度においても、滋賀県教育委員会において、実施日直前に域内の市町教育委員会に対し、前年度の出題傾向をもとに作成した類似問題の活用を促していたことが報道された。このように、教育現場においては、全国学力調査での点数を上げることだけを目的とした教育が強いられるという不正常な事態が、依然として発生している。
 このような事態に鑑みると、全国学力調査は、同最高裁判決が指摘するような教育に対して大きな影響力をもたらしているというべきであり、「不当な支配」(教育基本法16条1項)に該当するおそれがある。
 さらに、東京都が実施した学力調査ではあるが、足立区内の学校で、障害のある子どもたちの結果を集計から外すという不正が行われていたことが報道により判明した。このように、障害のある子どもに対する差別、学習権を侵害する事態が実際に発生しており、全国学力調査においても同様の事態が発生する危険性がある。
 文科省は、前年度も本年度も学力調査の目的として全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の施策を掲げているが、それならば、全国の該当学年の児童・生徒全員に対して行う必要はなく、調査対象を抽出するいわゆる抽出調査で足りるものと考える。
 よって、当会は、全国学力調査は、「不当な支配」(教育基本法16条1項)に該当するおそれがあるほか、子どもの全人格的な発達を阻害し、障害のある子どもに対する差別を招くなど、子ども一人ひとりの個性に応じた弾力的な教育を受ける権利(憲法26条,子どもの権利条約28条,29条)を侵害するおそれが大きいことを懸念し、文科省には,次年度以降、悉皆調査による全国学力調査を実施しないよう求める。また、広島県下の各教育委員会には、悉皆調査による全国学力調査に参加したことに抗議し、今後は,参加しないよう求める。
以上
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2008(平成20)年4月15日
広島弁護士会
会 長  石 口 俊 一
 本日、最高裁判所は、広島刑務所の受刑者が当会に行った人権救済の申立てに関し、当会の人権擁護委員会に所属する会員が申立人の主張する事実を目撃したとされる他の受刑者との面会調査を申し入れたところ、刑務所長が監獄法45条2項を根拠として面会を拒否したことから、当会らが国に対して国家賠償請求訴訟を提起した事案につき、請求を一部認容して国に対して損害賠償の支払いを命じた広島高裁判決を破棄し、当会の請求を棄却する判決(以下「本判決」という)を言い渡した。
 本判決は、当時の監獄法45条2項が受刑者の面会を許可制にしているのは、面会の対象となる受刑者の利益と規律秩序の維持を調整するためであって、刑務所長には、刑務所の外部から面会を求めた者の利益に配慮すべき法的義務はなく、国家賠償法上の違法性は認められないとして、当会の請求を全面的に棄却した。
 本判決は、一方で、受刑者との面会にあたり、面会を求めている者にも固有の利益がありうることを認めたこと、弁護士や弁護士会の行う基本的人権の擁護活動が弁護士法1条1項及び弁護士法全体に根拠を有するものであり、その調査活動に法的正当性を認めていること、それが法的保護に値することを認めてる。
 にもかかわらず、旧監獄法45条2項を受刑者の利益と刑務所内の規律及び秩序維持を確保するための規定と狭く解釈して、接見を求めた者の利益に配慮すべき法的義務がないとしている。この点は、接見を求めた者に固有の利益がある場合のあること認めていながら、この利益を無視するという矛盾した判断であり、外部の者との面会の意義を著しく軽視し、その結果として刑務所長にきわめて広範な裁量権を認めたことは、時代錯誤的な判決であり、明らかに不当である。
 なお、本判決は、人権救済を申し立てた受刑者本人と弁護士との面会は実現していることから、目撃者との面会ができなかったとしても、弁護士会の社会的評価は低下していないとしたが、人権救済を申し立てた受刑者との面会を認める法的必要性を是認しながら、その救済に必要な他の受刑者との接見を拒否したことを違法ではないとした点についても矛盾する判断であり、最高裁が真に受刑者の人権救済の申し立てを実質的に保障しようと考えているとは到底理解できない。
 当会は、本判決で示された最高裁の判断に強く抗議する。
 2002年10月に名古屋刑務所での死傷事件が発覚したことを契機として、刑務所の改革が強く求められるようになった。
 その結果、旧来の監獄法は全面的に改められ、2006年5月からは、受刑者処遇法が施行され、さらに翌2007年5月には、刑事被拘禁者処遇法が施行された。これらの法律のもとでは、各行刑施設に刑事施設視察委員会が置かれ、刑務所の状況を外部から監視できる体制が一応は整えられた。
 また、受刑者と第三者の面会についても、これまでのような制限的な規定は改められた。
 しかしながら、視察委員会は受刑者が受けた個別の人権侵害からの調査・救済を対象とする組織ではない。また、徳島刑務所においては、同刑務所の視察委員会が指摘した医療上の問題点が刑務所当局や法務省によって真摯に検討されることなく放置され、昨年11月には受刑者が暴動を起こすという前代未聞の事態に発展するなど、いまだその改革の理念が実現しているとはいえない状況が続いている。
 受刑者と第三者との面会についても、いったんは広く認められつつあったものが、運用によって次第に制限的に改められつつあり、当初の理念が後退していることへの強い懸念を抱かざるを得ない。
 弁護士会による人権救済の活動は、そうした状況の中でいささかも重要性を失っておらず、当会への広島刑務所の受刑者からの人権救済申し立ても、途絶えることなく続いているのが現状である。
 当会は、本判決に屈することなく、今後とも被収容者をはじめとする人権侵害を受けた者の救済活動に邁進することを表明する。
以上
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2008年(平成20年)2月13日
広島弁護士会
会 長 武 井 康 年
 法制審議会少年法(犯罪被害者関係)部会は、2008年(平成20年)1月25日、少年法「改正」要綱(骨子)(以下、当該要綱という。)を採択した。当該要綱は、犯罪被害者等の記録の閲覧・謄写を認める要件を緩和されていることは評価できるものの、以下のような問題点がある。当会は、当該要綱に関し、慎重かつ十分な審議を行い、あるべき要綱に修正されるよう強く求める。
 第1に、犯罪被害者等による少年審判の傍聴を認める制度を新設している点である。少年は、成長発達の途上にあり、精神的に未熟であって、社会的な経験にも乏しいから、犯罪被害者等が審判を傍聴すると、精神的に萎縮し、心情を素直に述べたり、事実関係について正直に発言することができなくなるおそれがある。それでは、少年の真の反省が得られなくなるのみならず、その弁解を封じ込め、誤った事実認定がなされるおそれをも生じさせる。これは、少年が成長発達の途上にあり、可塑性に富むことから、少年の非行に関しては、可能な限り教育による改善更生をはかることが再犯防止にも有効であるとともに、少年の成長を支援することにもつながるとした少年法の理念に反するものである。犯罪被害者等が審判廷に在廷することが、少年の内省を深め、少年の健全育成に資するような場合には、現行の少年審判規則29条を活用することにより、犯罪被害者等の審判への出席を認めることが可能なのであり、そのような範囲にとどめるのが少年法の理念に適うと言うべきである。
 第2に、記録の閲覧・謄写の対象範囲を広げる余地を残している点である。すなわち、法律記録の少年の身上経歴(出生にまつわる秘密や家族関係、身体や精神面における障害や医学的所見)など、プライバシーに極めて深く関わる情報が多く含まれている。これらの情報が犯罪被害者等にも開示されることになれば、少年やその家族等のプライバシーを侵害するだけでなく、ひいては適切な処分決定をするために必要な情報について、裁判所が少年やその家族等から収集することが困難となる可能性もある。したがって、少年の身上経歴などプライバシーに関する部分については、閲覧・謄写の対象範囲から除外すべきである。
 当会は、上記のような問題点を踏まえ、当該要綱について、慎重かつ十分な審議を行い、あるべき要綱に修正されるよう強く求めるものである。
以上
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2008年(平成20年)2月13日
広島弁護士会
会 長  武 井 康 年
 法務省は、裁判所が関与しない不動産競売手続(以下「非司法競売手続」という。)の導入を検討しており、関係団体への意見聴取が最終段階に来ている。
 しかし、同手続には以下述べるような多くの問題点があり、当会は、その導入に強く反対する。
 法務省の案には四案あり、その中には、現況調査報告書、評価書、物件明細書のいわゆる三点セットを必要としない案も含まれている。しかし、上記三点セットは、買い受け人に対し情報を提供するものとして重要かつ必要なものであり、これを不要とする手続は、買い受け人の保護に欠ける手続となる。
 また、最低売却価格を設けない案では、物件が不当に低額で落札され、残債務の負担を余儀なくされる債務者や保証人の利益を害することになる。しかも、非司法競売手続の主催者として参入する業者について選定の基準が曖昧になれば、不適切な業者の参入を招くことになりかねない。そして市民が不適切な業者を見破ることは極めて困難であり、選定業者によって買い受け人や債務者等が思わぬ不利益を被る恐れがある。
 さらに、暴力団等の反社会的勢力が自らの利益を生み出す手段として非司 法競売手続を利用するおそれが十分にある。近年、暴力団等への取締強化により、株取引や企業買収が新たな資金源となっていることは周知の事実である。
 以上のように非司法競売手続には多くの問題点が存在するが、一方で現在の競売手続において、売却に要する期間は短縮され、売却率も改善してきており、敢えて非司法競売手続導入しなければならない社会的要請も存在しない。
 当会は、以上のような問題点を有する非司法競売手続の導入には強く反対するものである。
以上
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2008年(平成20年)2月13日
広島弁護士会
会 長 武 井 康 年
 2007年(平成19年)12月18日(日本時間19日)、国連総会本会議において、すべての死刑存置国に対して、死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の一時停止を求めることなどを内容とする決議が採択された。
 当会は、日本政府が前記総会決議を真摯に受け止め、速やかに死刑の執行を一時停止し、制度の見直し作業に着手することを求める。
 国連総会において市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)が採択された1966年(昭和41年)以降、ヨーロッパを中心に死刑廃止の潮流は強まり、ヨーロッパは事実上の死刑廃止地域となった。死刑廃止の流れはヨーロッパにとどまらず、ラテンアメリカ、更にはアフリカにも及んでおり、1989年(平成元年)には自由権規約第二選択議定書(死刑廃止条約)が採択された。いまや、世界で死刑を廃止した国は133か国であり(事実上のものを含めて)、存置国の64を大きく上回っている。
 今回の総会決議は、こうした死刑廃止へ向かう国際社会の潮流を反映したものである。
 前記総会決議は、死刑存置国に対し、即時の死刑廃止を求めるのではなく、現実的な改善を求めている。すなわち、(1)死刑に直面する者に対する権利保障を規定した国際基準を尊重すること、(2)死刑の適用、及び、上記国際基準の遵守に関する情報を国連事務総長に提供すること、(3)死刑の適用を徐々に制限し、死刑の適用が可能な犯罪の数を削減すること、(4)死刑廃止を視野に入れ、死刑執行に関するモラトリアムを確立すること、である。これらの多くは、これまで国際人権(自由権)規約委員会や拷問禁止委員会によって改善を迫られてきた事項であり、我が国が早急に取り組まなければならない課題である。
 ところが、我が国においては、2006年(平成18年)12月25日から本年2月1日までの間に16名もの死刑確定者に対する執行がなされ、特に近時、高齢者や心身に重大な疾患を持つ者への死刑が執行されるなど、国際基準に照らし大いに問題のある執行が繰り返されていることは到底看過できない。
 さらに、昨年11月に、広島地裁で死刑求刑事件に対し無罪判決が下されたことは、誤った訴追により死刑求刑がなされ、誤判によって死刑が確定する可能性を否定できないことを明確に示している。
 当会は、死刑確定者に対する死刑が執行されたことについて遺憾の意を表明し、死刑をめぐる情報が開示された上、死刑の存廃についての国民的な議論が尽くされるまで、一定期間、死刑の執行を停止するよう要請しているが、前記総会決議が採択されたことを受けて、日本政府が速やかに死刑の執行を一時停止し、制度の見直しを行う作業に着手すべきことを改めて求めるものである。
以上
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生活扶助基準の引き下げに反対する声明
2008年(平成20年)1月21日
広島弁護士会
会 長  武 井 康 年
 厚生労働省内の有識者会議「生活扶助基準に関する検討会」(以下「検討会」という。)は、平成19年11月30日、生活扶助基準の引き下げを容認する報告書を出し、これを受け、同年12月20日、再来年度予算編成で対応すると発表した。
 当会は、かかる安易な生活扶助基準の引き下げに断固として反対するとともに、厚生労働省に対して、生活保護受給者や市民の声を十分に聴取し、慎重な検討を行うことを強く求める。
 生活扶助基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、国民の生存権保障の水準を決する極めて重要な基準である。
 また、生活扶助基準は、地方税の非課税基準、介護保険の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準、また、自治体によっては国民健康保険料の減免基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動している。したがって、生活扶助基準の引下げは、現に生活保護を受けている人の生活レベルを低下させるだけでなく、所得の低い市民の生活全体にも大きな影響を与える。
 このような生活扶助基準の重要性に鑑みれば、その引き下げに関する議論は、国民の生活及び消費実態等も十分に調査した上で、その調査結果に基づいて慎重に行われるべきである。また、こうした議論は、公開の場で広く市民に意見を求めた上、生活保護受給者の声を十分に聴取してなされるべきである。
 ところが検討会は、わずか1ヶ月半足らずの間の5回の開催をもって、市民等からの意見を聴取することもなく報告書をまとめた。また、報告書は、低い方から1割の低所得者層の消費支出統計よりも現行生活扶助基準のほうが高いことを扶助基準切り下げ容認の根拠として挙げている。
 しかし、もともとわが国の生活保護の「捕捉率」(制度を利用する資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)が極めて低く(この点については、平成16年12月15日、生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書においても指摘されている。)、生活扶助基準以下の生活を余儀なくされている低所得者が多数存在する現状において、現実の低所得者層の収入や支出を根拠に生活扶助基準を引き下げることを許せば、生存権保障水準を際限なく引き下げていくこととなる。「ワーキングプア」が多数存在する中で、生存権保障水準を上記のようなことを根拠として切り下げることは、格差と貧困の固定化をより一層強化し、努力しても報われることのない、希望のない社会を招来することにつながりかねない。
 厚生労働省が、来年度における基準引き下げは見送ったとはいえ、今後、十分な議論・検討を欠いたまま、検討会報告書をもとにした基準引き下げの方針を維持するとすれば、手続的にも不十分であり極めて不当である。
 よって、当会は、冒頭に記載したとおり、安易な生活扶助基準の引き下げに反対するとともに、慎重な検討を求めて、本声明を発する。
以上
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死刑執行に関する鳩山法相発言に抗議する会長声明
2007年(平成19年)10月17日
広島弁護士会
会 長  武 井 康 年
 マスコミ報道によれば、鳩山法務大臣(以下、鳩山法相という。)は、2007年(平成19年)9月25日、内閣総辞職後の記者会見で、死刑執行の現状について「法改正が必要かもしれないが、法相が絡まなくても自動的に執行が進むような方法があればと思うことがある。」と述べ、法務大臣が死刑執行命令書に署名する現行制度の見直しを提案した。また、その中で、「判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。」という刑事訴訟法475条第2項の規定につき、「法律通り守られるべきだ。」との見解を示し、執行の順番の決め方についても、機械的に決めることなどの発言をした。さらに、その後、鳩山法相は、再任後の記者会見で、死刑執行のあり方について「『この大臣はバンバン執行した、この大臣はしないタイプ』などと分かれるのはおかしい。」と述べ、改善も視野に入れた勉強会を省内で設けたい意向を示した。
 そして、鳩山法相は、前同年10月5日、法務省内で死刑執行手続の見直しに関する初めての勉強会を開き、今後も勉強会を続けて前記見直しの検討を続ける意向を示している。
 しかし、鳩山法相の一連の発言(以下、鳩山発言という。)は、死刑執行の重大性を考慮し特に慎重を期する必要があることから、それを裁判所の判断とは別に法務大臣に委ねた法の趣旨を蔑ろにするものである。
 また、我が国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっており、このような誤判を生じるに至った制度上、運用上の問題点について、抜本的な改善が図られておらず、誤まった死刑の危険性は依然存在する。
 このような中での鳩山発言は、法務大臣としての資格や適格性を疑わせるものと言わざるを得ない。
 そこで、当会は、鳩山発言に厳重に抗議するため、本声明を発するものである。
以上
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公平な司法試験と充実した法科大学院教育の確保を求める会長声明
2007年(平成19年)8月22日
広島弁護士会
会 長 武 井 康 年
 司法試験考査委員を兼任していた法科大学院の教授が、本年度の司法試験前の答案練習会などの機会に、実際の問題に類似した論点などを学生に説明していたことが明らかになった。
 法務省の調査結果などによると、法科大学院において教育に従事するとともに、司法試験(法科大学院を修了した学生のみが受験するいわゆる「新司法試験」)考査委員(以下「考査委員」という)を兼任していた教授が、本年の司法試験に向けた答案練習会を当該法科大学院で7回開催し、メールで学生からの受験相談に応じ、検討しておくべき論点や判例などを指摘していた。それらのメールにおいて紹介された判例が、司法試験の短答式試験に出題され、論文式試験においてもメールや答案練習会で取り扱うなどした判例及び法律に関連した問題が出題されていた、とのことである(以下「本件事件」という)。
 当該教授は考査委員を解任され、当該法科大学院を依願退職しているが、司法試験委員会は、すでに、本件事件が当該法科大学院の学生に有利な結果をもたらしたとは認められないとして、得点調整などの措置を行わないと発表している。さらに、他の考査委員に対する調査も行われたが、その調査は不適切な受験指導を行ったかどうかを申告させる形で実施され、特に不適切な受験指導はなかったと結論づけている。
 考査委員による本件事件のような行為は、一部の司法試験受験者のみに有利な情報を与えるものであり、以下のような影響を生じる。
 司法試験は、いうまでもなく法曹たる能力及び素養を判断するための資格試験である。その公正さが保たれなければ、市民の権利義務を擁護する法曹の資質を疑わせることになり、ひいては社会の法曹に対する信頼が損なわれる結果を生じかねない。
 また、本件事件及びこれと同様の事件によって司法試験の公平性に疑念が生じれば、他の法科大学院を修了して不合格とされた司法試験受験生は試験の結果に納得しがたく、問題となった当該法科大学院を修了して合格した者はその法曹としての資質に疑念を向けられるおそれがある。
 考査委員から直接に試験対策指導を受けることができる状況が放置されれば、考査委員を兼任する教員の有無によって、法科大学院の間に大きな情報格差が生じるだけでなく、考査委員が首都圏の法科大学院に多数在籍していることを考えれば、首都圏の法科大学院で学ぶ学生と地方の法科大学院で学ぶ学生との間に地理的要因を超えた情報格差を生むおそれがある。
 そこで、当会は以下のような対策を求める。
(1)  司法試験と法科大学院の信頼性を維持・回復するため、法務省及び文部科学省は、本件事件についてさらに徹底した調査を行うとともに、過年度・当該法科大学院以外の法科大学院・当該科目以外の科目についても、広く網羅的な調査を行うべきである。
(2)  本件事件と同様の問題の再発防止と、同様の疑念を抱かせる事態の防止のため、考査委員が法科大学院において、法科大学院主催であるか、関係する別団体主催であるか否かにかかわらず、学生の答案練習に関与したり、直接的な受験指導を担当したりすることは厳に禁じられるべきである。学生が司法試験対策を望むのは当然であるが、その希望に漫然と応じて試験対策が横行すれば、法科大学院は単なる受験準備のための機関となり、本来の設立理念が失われることになる。
(3)  考査委員は、自己の所属する法科大学院の利益や私情に流されてはならず、守秘義務を厳守しなければならない。法務省及び司法試験委員会は、考査委員の人選や守秘義務の徹底について、格段の配慮を行うべきである。
(4)  新聞の報道によれば、本件事件を起こした教授は、「合格者数を維持したかった」と答えているとのことであり、法科大学院間の過剰な競争がこのような事態を招いた面は否定できない。法科大学院が、単なる受験対策に傾倒することなく、基礎的な法曹養成機関としての実体を備えられるよう、法科大学院の数、各法科大学院の定員、司法試験合格者の人数等について、法曹人口問題と併行した総合的な再検討を行うべきである。
 当会は、本件事件を受けて、法曹たる能力及び素養を的確に判断できるように公平な司法試験が行われ、かつ、法科大学院における基礎的な教育がその設立理念に則った形で充実したものとなるような抜本的な対策を関係諸機関に求めるため、本声明を発表する。
以上
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光市母子殺害事件弁護人への脅迫行為に対する会長声明
2007年(平成19年)6月25日
広島弁護士会
会 長 武 井 康 年
 2007年(平成19年)年5月29日、日本弁護士連合会に脅迫文書が銃弾の模造品とともに郵送された。山口県光市において当時18歳であった元少年により主婦とその長女が殺害されたとされる、いわゆる「光市母子殺害事件」の裁判に関連し、元少年を死刑にできないならば弁護人らを銃で処刑するなどというものであった。当会はこのような脅迫行為に対し厳重に抗議するため本声明を発表するものである。
 この事件は、母親と幼い子供の命が失われた大変痛ましいものであり、亡くなられたお二人のご冥福を衷心よりお祈りする。また、遺族の方の心情も察するに余りあるものである。さらには社会的に大きな影響を与えており、広く関心が集まっている。
 しかしながら、このような遺族の方の心情や社会的な影響と関心の大きさがどのようなものであるかには関わりなく、被告人の弁護人依頼権の保障は十分になされなければならず、その権利実現のための弁護人の活動に対し脅迫的な妨害行為がなされることは断じて許すことができない。
 弁護人依頼権は、人類が過去の刑事裁判の歴史の中からその叡智をもって生み出した被告人の最も重要な権利である。
 憲法第34条は「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない」と規定し、また憲法第37条3項は「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」と規定しており、弁護人依頼権が憲法の明文で認められている。
 また、被告人の弁護人依頼権の保障は被告人に適正な裁判を受ける権利を保障するうえでも不可欠なものである。さらに、弁護人依頼権を十分に保障することは、@裁判所による真実の発見(冤罪の防止)、A罪刑の均衡の実現、B被告人の更生、C社会安全の維持といった重要な社会的利益の確保にも資するものである。
 このような被告人の弁護人依頼権の重要性から、弁護人の刑事訴訟手続における弁護活動(主張・立証活動)については、その自由な活動が最大限保障されなければならない。
 上記のような弁護人の地位・役割から、弁護人の弁護活動は時に被害者や遺族の感情を害し、世間の批判に晒されることが少なくない。しかし、そのような場合でもなお、弁護人は被告人の援護者として敢然とその職責を全うし、ひいては上記@ないしCの社会的利益の実現を図ることが求められているのである。
 こうした弁護人の職責に鑑み、国際連合の「弁護士の役割に関する基本原則」は、第1条において、「すべて人は、自己の権利を保護、確立し、刑事手続のあらゆる段階で自己を防禦するために、自ら選任した弁護士の援助を受ける権利を有する」とした上で、弁護士の活動に関して、第16条において、「政府は、弁護士が脅迫、妨害、困惑あるいは不当な干渉を受けることなく、その専門的職務をすべて果たしうること、確立された職務上の義務、基準、倫理に則った行為について、弁護士が、起訴、あるいは行政的、経済的その他制裁を受けたり、そのような脅威にさらされないことを保障するものとする」と規定し、「弁護士が、その職務を果たしたことにより、弁護士の安全が脅かされるときには、弁護士は、当局により十分に保護されるものとする」としている。
 然るに、今回の脅迫行為は、これまで述べてきたような重要な種々の役割を担う弁護人の弁護活動を、暴力によって威嚇し、その結果、被告人の弁護人依頼権及び適正な裁判を受ける権利を踏みにじろうとする極めて卑劣なものであって、断じて許されない。同時にこのような脅迫行為は、上記のような裁判所による真実の発見(冤罪の防止)、罪刑の均衡の実現、被告人の更生、社会安全の維持といった重要な社会的利益をも損なうものであり、我が国の刑事訴訟手続制度、ひいては我が国の憲法をも無視する反社会的行為であって、とうてい容認できない。
 当会は、今回の脅迫行為に対し厳重に抗議するとともに、今後も刑事弁護に携わる全ての弁護士がこのような卑劣な行為に決して屈することなく、その職責をまっとうできるよう、最大限支援していくことをここに表明する。
以上
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死刑執行停止を求める会長声明
2007(平成19)年6月18日
広島弁護士会
会 長  武 井 康 年
 新聞報道によれば、昨年12月25日、東京拘置所において2名、大阪拘置所において1名、広島拘置所において1名の死刑確定受刑者に対し、また、本年4月27日、東京拘置所において1名、大阪拘置所において1名、福岡拘置所において1名の死刑確定受刑者に対して死刑が執行され、わずか4か月間に合わせて7名の命が奪われた。これほど短期間の間に死刑が執行されたことは近年では極めて異例な事態であると言わざるを得ない。
 現在、国際社会において、国連加盟国が191カ国となっているが、合計128カ国が死刑を法律上または事実上廃止しており、死刑廃止は国際的な潮流となっている。
 我が国の現行の死刑制度に対しては、1980年代に4名の死刑確定受刑者に対する再審無罪判決がなされたことに見られるように誤判の場合に取り返しがつかないこと、死刑判決と無期懲役判決との間に明確な量刑基準があるとは言えないこと、死刑判決がなされたときに被告人の意思で上訴せず、一審判決のみで死刑が確定する場合があること,死刑が残虐な刑罰であること,犯罪抑止効果がないこと,死刑執行に関する情報が十分に開示されていないこと,などの問題点が指摘されている。
 日本弁護士連合会は、2002年11月、死刑執行を停止して、死刑制度の存廃についての国民的議論を尽くし、制度の改善を行うことを求め、その間は、死刑確定受刑者に対する死刑執行を停止することを求める立場を明らかにしてきている。当会においても、2004年8月28日に、「死刑執行停止を考える」シンポジウムを開催し、死刑制度の存廃問題と死刑執行停止についての議論を行ってきたところである。この議論の中でも,死刑制度の存廃問題について国民的議論を十分行うととともに,その議論が尽くされるまで死刑執行を停止すべきであるとの意見が多数を占めた。
 冒頭に指摘した2度にわたる死刑執行は、国会の閉会中や、開会中の大型連休前になされており、いずれも、死刑執行についての国会での論議を避けようとする意図が窺われる。
 当会は、これらの確定受刑者に対する死刑が執行されたことについて抗議するとともに、死刑をめぐる情報が開示された上、死刑の存廃についての国民的な議論が尽くされるまで、一定期間、死刑の執行を停止するよう改めて要請する。 
以上
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少年法「改正」法案の参議院での慎重審議を求める会長声明
2007年(平成19年)5月24日
広島弁護士会
会 長  武 井 康 年
 衆議院は去る4月19日、「少年法等の一部を改正する法律案」(以下,本法案という。)を採決し、参議院に送付した。当会においては,平成17年6月30日に本法案に関する会長声明を発し、意見を述べたところであるが、今回衆議院を通過した本法案において、「ぐ犯少年である疑いのある者」に対する警察の調査権限を認める規定が削除され、また少年に対する観護措置が取り消された場合に国選付添人の選任を取り消すとの規定も削除されたことは評価できるものの、なお以下のような重大な問題点が残されている。
 第一に、本法案は、現行の少年院収容年齢を引き下げ、概ね12歳以上としている。しかし、低年齢で重大事件を犯す少年ほど、複雑な生育歴を有していることが多く、そのため人格形成が未熟で規範を理解し受け入れるレベルまで育っていないことが多い現実がある。従って、再非行防止のためには、擬似的な家庭環境での生活を経験させるなどの福祉的対応がより一層必要とされるのであって、集団的規律により規範を遵守する精神を育むことを目的とする少年院収容では実効性が期待できないばかりか、かえってその弊害だけが助長されるのではないかとの懸念がある。
 第二に、本法案は、触法少年に係る事件について、警察官の強制調査権限を認めている。しかし、触法少年には、児童虐待や家庭の機能不全といった問題が潜在していることが多いのであり、そのような少年に対しては何よりも福祉的観点からの対応が求められることから、警察官ではなく子どもの心理に通じた専門家が、非行に至った背景を探りながらその少年の特性に配慮した対応を行うべきである。さらに、少年の未熟さや被暗示性、迎合性の強さなども考えれば、虚偽の自白がなされる危険性も著しく高いのであるから、仮に触法少年の強制調査権限を認める場合には、弁護士の立会いやビデオ録画などによる捜査の可視化が保障されるべきである。
 第三に、本法案は、保護観察中の遵守事項違反を理由に少年院送致を可能としている。しかし、これは本来保護司と少年の信頼関係によって維持されるべき保護観察制度を、監視と心理的強制によって実効あらしめようとするものであって、真に少年の更生を図る機会を喪失させることに他ならない。
 当会は、本法案が抱える上記のような問題点について、参議院において慎重かつ十分な審議を行うことを求めるものである。
 
以上
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憲法改正国民投票法の制定に厳重に抗議する会長声明
2007年(平成19年)5月24日
広島弁護士会
会 長 武 井 康 年
 
 去る5月14日、参議院本会議において、憲法改正国民投票法案が野党の反対を押し切り、与党のみの賛成多数で可決された(以下,本法という。)。当会は、既に4月11日の会長声明(以下,前声明という。)により、この法案の根本に関わる問題点を指摘したが,それらの問題点について何ら解決されないまま本法案が可決されたことに対して厳重に抗議する。
 日本国憲法は、憲法改正についての規定(第96条)により、「国会の発議」と「国民の過半数の賛成」の双方を必要として、硬性憲法としての性格を明らかにするとともに、前文及びこの規定においては徹底した民主主義が採られていて、法律の制定等とは異なり、憲法改正権はあくまで国民の直接的な意思に基づくという原則が示されている。しかし、本法には、こうした憲法改正に関する規定の趣旨が十分に反映されておらず、国民主権という憲法上の大原則に関わる様々な問題点が残されたままになっている。
 また,本法には、参議院での委員会採決において、18項目にも及ぶ附帯決議が付されているが、このように多数の附帯決議が付されていること自体、この法律が多くの欠陥を抱えたまま制定されたことの証しである。そして、附帯決議の中には、前声明で指摘した問題点、すなわち、最低投票率を決めていないこと、改正の発議から投票までの期間が短期間であること、国民投票運動に対する制約、国会に設置される「国民投票広報協議会」の運営、テレビ等の有料意見広告のあり方、投票を求める事項をどのように決めるかなどの問題点が指摘されている。その他にも、成人年齢について他の法律との整合性をどのように図るのかなど、今後に残された課題も多い。
 以上のとおり、本法について、十分な審議を尽くすことなく、また極めて多くの問題点を残したまま与党のみで可決成立させたことに対して、厳重に抗議するため、本声明を発するものである。
 
以上
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犯罪被害者の刑事手続参加制度の安易な導入に反対する会長声明
2007年(平成19年)5月14日
広島弁護士会
会 長 武 井 康 年
 
 本年3月13日,犯罪被害者の刑事手続参加制度の新設(以下,新制度という。)を含む「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され,国会に上程された。新制度は,裁判員裁判の対象事件や業務上過失致死傷等の事件について,犯罪被害者に,「被害者参加人」という法的地位を付与し,被害者参加人としての公判期日への出席,被告人質問,情状事項についての証人尋問,求刑を含む意見陳述等を認めるものである。
 しかし,以下に述べるように,このような刑事手続への被害者の参加を認める制度は,刑事訴訟の構造を根底から変容させ,被告人の防御権を危うくするものであり,当会は,その創設に強く反対する。
 確かに,犯罪被害者および遺族(以下,犯罪被害者等という。)に対する精神的・経済的な支援体制を構築し,充実させることが必要であることはもちろんである。しかし,今回の立法の動きは,犯罪被害者に対する刑事手続への参加以外の面における十分な支援制度を構築することなく,犯罪被害者等の刑事手続参加という新制度の創設のみで対応しようとするものであり,極めて不十分なものである。しかも,新制度は,以下のとおり,基本的な点において問題が多くかつ法制審議会での審議も不十分であり,安易な導入には反対せざるを得ない。
 第1に,新制度の実施により刑事法廷が復讐の場と化すおそれがある。新制度の下で,犯罪被害者等は被害者参加人として,検察官の活動から独立した訴訟活動を認められることになる。しかし,このことは,現行の刑事訴訟における当事者主義構造を変容させ,刑事法廷を個人的な復讐の場とし,同時に被告人・弁護人の防御の負担を過大なものとする。近代刑事法は,私的復讐を公的刑罰に昇華させ,加害者を国家が処罰することにより,被害者と加害者との報復の連鎖を防いで社会秩序の安定を図ろうとした。このために現行刑事訴訟制度は,被害者を,事件の当事者ではあるものの刑事訴訟の当事者とすることなく,被害者等の意見や処罰感情等は,公益的立場にある検察官を通じて理性的に訴訟手続に反映させることとしたものである。ところが,新制度が創設されると,刑事手続の場に私的復讐を持ち込まれ,近代刑事司法が断ち切ろうとした報復の連鎖を復活させる事態を招く危険性が高いのである。
 第2に,被告人の防御権の行使が困難になる。被害者参加人が被告人の視界に入る状況で法廷内に存在することにより,被告人は,犯罪被害者の落ち度などの重要な争点について,これを主張することが心理的に困難な状況に置かれる。被害が重大であればあるほどこの傾向は強まると考えられる。検察官の厳しい追及に加えて,犯罪被害者等から直接質問されるようになれば,被告人は沈黙せざるを得なくなり,防御権を十全に行使できなくなる。その結果,真実発見が歪められ,正当な事実認定と量刑の実現が阻害されるおそれがある。
 第3に,裁判員裁判に悪影響を与える結果をもたらすおそれがある。2009年5月までに実施が予定されている裁判員裁判において,新制度が導入された場合には,この裁判に与える悪影響は甚大である。新制度の導入により,裁判員の前で犯罪被害者等の応報感情を前面に押し出したアピールが繰り広げられることになれば,市民たる裁判員は目の前の犯罪被害者等の感情的な訴訟活動に混乱させられ,過度に影響を受けて冷静かつ理性的な事実認定が困難になり,かつ,量刑においても過度の重罰化に傾くことは容易に予想される。また,犯罪被害者等の手続参加によって争点の拡大や訴訟遅延を来たすような事態も考えられ,公判前整理手続による適切な争点および証拠の整理と連日的開廷による充実した迅速な審理の理想に反する結果ともなりかねない。
 さらに,犯罪被害者等の中にも,新制度が犯罪被害者等に新たな負担を課すことになる等の理由により新制度の導入には慎重な立場もあり,また,犯罪被害者のみならず,国民各層にも新制度について,不安と疑義が幅広く生じている実態もある。新制度の導入は,刑事手続の基本原則に大きな変容をもたらすものであり,将来に禍根を残さないためにも,幅広く犯罪被害者等の声に耳を傾けるとともに,広く国民の議論を尽くすべきである。
 そこで,当会は,上記の被害者刑事手続参加制度の新設に強く反対するとともに,被告人の防禦権を不当に制限することのない真に実効性のある犯罪被害者等に対する精神的・経済的な支援体制を構築し,充実させることを求めるため,本声明を発する。
以上
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伊藤前長崎市長銃弾事件に厳重抗議する会長声明
2007年(平成19年)5月14日
広島弁護士会
会 長 武 井 康 年
 
 本年4月17日、伊藤一長前長崎市長が銃撃され殺害されるという痛ましい事件が発生した。
 伊藤前市長は被爆地長崎市の市長として核兵器廃絶運動の先頭にも立って活動されていたもので、そのような人物が今回のような凶行に倒れたことは、誠に痛恨の極みであり、かつ強い憤怒の念を禁じ得ないものであって、当会は今回の凶行に対し厳重抗議する声明を発表するものである。
 今回の事件は、その動機・目的等がいかなるものであれ、酌量の余地のない極めて身勝手な反社会的行為であり、断じて許すことはできない。
 そして、今回の事件が一部に報道されているような暴力団幹部による行政の対応に対する不満を原因とした報復行為(行政対象暴力)であるならば、それによって暴力団を始めとする暴力的組織・勢力に対する行政の対応が萎縮することがあってはならず、関係機関により同種事件の再発防止のための可能な限りの対策がとられることを強く希望するとともに、今回の事件をきっかけとして暴力を背景とする不当要求行為に対し厳然と立ち向かう社会的機運がより一層高まることを切に願う。
 当会は、基本的人権の尊重と社会正義の実現という弁護士の使命に照らし、これまでも広島県警察本部その他関係機関と連携して、暴力的組織・勢力による不当要求行為を排除する活動やそのような活動に対する支援を行ってきたが、今後より一層そのような活動・支援を強固に進めて行くことを決意するものである。
 最後に、志半ばで凶弾に倒れた伊藤前長崎市長のご冥福を心よりお祈りし、本声明の結びとする。
以上
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鹿児島選挙違反事件判決についての会長声明
2007年(平成19年)4月16日
広島弁護士会
会 長  武 井 康 年
 
 平成19年2月23日、鹿児島地方裁判所は、平成15年4月に施行された鹿児島県議会議員選挙に関して、公職選挙法違反として起訴されていた被告人12人全員に対し、「他の被告人らの供述と辻褄を合わせるために、押し付け的、誘導的な取調べが行われたことが顕著にうかがわれる」、「被告人らの自白の中に、あるはずもない事実がさもあったかのように具体的かつ迫真的に表現されていることは、自白の成立過程で、自白した被告人らの主張するような追及的・強圧的な取調べがあったことをうかがわせる」などとして、捜査段階における被告人らの自白の信用性をいずれも否定し無罪判決(以下「本判決」という)を言い渡し、平成19年3月8日、鹿児島地方検察庁は、控訴を断念して、本判決は確定した。
 本判決は、無罪判決を言い渡した理由において、連日のように極めて長時間の取調べが行われ、被疑者の1人は取調べ中に警察医の診察や点滴治療を受けた事実や、別の被疑者は座っての取調べに耐えられなくなり、簡易ベッドに横になりながら約7時間にわたって取調べを受けた事実などを認定している。加えて、本事件に関連して、本判決に先立ち、鹿児島地方裁判所は、平成19年1月18日、取調官が任意の取調中の被疑者に対して、取調室で親族の名前等を書いた紙を踏むよう強要し、その紙を男性に踏ませた行為について、「取調べ手法が常軌を逸し、公権力を笠に着て被疑者を侮辱する」と激しく断罪している。
 このように、本事件は、連日長時間にわたる取調べを行い、捜査機関が、取調べの中で自白を獲得維持するために常軌を逸した取調べ手法を繰り返しており、捜査機関の取調べ手法の違法性、異常性は明らかである。
 そこで、当会は、鹿児島地方検察庁および鹿児島県警察本部に対し、本事件の捜査過程を調査、検証して、常軌を逸した違法な取調べ手法を行うに至った原因を究明するとともに、捜査機関に対し、自白強要、自白偏重への根強い姿勢を改善し、違法な取調べを防止する措置を早急にとることを強く求める。
 ところで、本判決は、捜査段階における被告人らの自白調書について、任意性を否定することなく、証拠採用した上で、自白調書の信用性を否定した。
しかし、そもそも刑事訴訟法319条第1項が「任意にされたものでない疑のある自白」を証拠とすることができない旨規定しているのは、捜査機関の自白強要を防止し、もって捜査段階を含めた刑事手続全体の適正手続を確保し被疑者の人権侵害を防止するためである。そうであるならば、捜査機関の常軌を逸した違法な取調べ手法により自白が獲得維持された本件では、当然に、本事件の自白調書は任意性が否定されなければならない。
 それ故、当会は、鹿児島地方裁判所のみならず全ての刑事事件担当裁判所に対し、最後の人権の砦として適正手続を確保し、捜査機関による被疑者(被告人)に対する人権侵害行為を防止するため、任意性に疑いがないことについて検察官が立証できないときには直裁に任意性を否定する等して、刑事訴訟法の趣旨を実際の刑事裁判に十分に反映した上、より適切な刑事司法の実現を図るよう求める。
 さらに、本判決は、「本件においては、被告人らの自白の任意性及び信用性が激しく争われ、その関係で、取調べ状況に関する事実関係が重要な争点となり、これを解明するため、膨大な時間を費やして、多数の取調官の証人尋問と自白した6名の被告人質問を実施し、さらに、自白した6名の被告人の供述調書等、膨大な量の証拠書類を取り調べた。しかしながら。このような証拠調べを実施したにもかかわらず、取調べ状況を明らかにする明確かつ客観的な証拠がなく、その真偽を判明するに足りる証拠を欠いたことから、被告人らと取調官との言い分の対立点について、結局、『疑わしきは被告人の利益に』との観点から、被告人らに有利に判断するよりほかなかった」と判示している。
 これは、職業裁判官により、膨大な時間を費やし、多数の証人尋問や被告人質問を実施し、膨大な量の供述証拠をもってしても、取調べの状況を判断することが不可能であることを実証するものであって、本判決は、間接的にではあるが、裁判所自ら、現状のままでは、取調べ状況を判断することを放棄せざるを得ず、取調べ状況を判断するためには、全取調べ過程を録画・録音することにより取調べを可視化することが必要不可欠であることを表明するものといえる。
 近く裁判員制度が開始されるが、職業裁判官ですら取調べ状況を判断することが不可能である以上、一般市民が参加する裁判員裁判の下では、尚更であり、裁判員裁判の下で、捜査段階における自白の任意性や信用性の判断を誤り、冤罪を生み出す危険を払拭するためにも、全取調べ過程を録画・録音することにより取調べを可視化することが必要不可欠である。
 そこで、当会は、改めて、全件について録画・録音することによる取調べの全過程の可視化を早急に実現することを強く求めるものである。
以上
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憲法改正国民投票法案の慎重審議を求める会長声明
2007年(平成19年)4月11日
広島弁護士会
会 長 武 井 康 年
 
 本年1月に始まった通常国会において、憲法改正国民投票法案が審議され、重要法案として会期中の成立が目指されていたが、この間に開催された地方、中央公聴会での反対意見を受けて、3月27日には同法案の修正案が提出された。この修正により法案の問題点が解決されたかのような報道もなされているが、次の通りこの修正によっても本法案の持つ本質的な問題点の多くはまだ解決されていない。
 日本国憲法は、第9章に憲法改正についての規定(第96条)を設けている。前文及びこの規定においては徹底した民主主義が採られ、「国会の発議」と「国民の過半数の賛成」とが必要とされて、他の立法とは異なり、憲法改正権があくまで国民の直接的な意思を基礎とするという国民主権原理が示されている。
 しかしながら、本法案では、この「国民の過半数の賛成」について、『有権者総数の過半数』ではなくて有権者の『有効投票の過半数』とされており、且つ最低投票率の定めもない。これでは、有権者の多くが国民投票の際に憲法改正の是非を判断できないまま棄権などすれば、国民全体から見ればごく少数の賛成者によって憲法が改正されかねない事態を招くこととなる。
 また、改正の発議から投票までの期間は、60日以後180日以内とされているが、広く国民に改正の内容が周知され、十分な国民的議論が尽くされるためには極めて不十分な期間であり、短すぎると言わざるを得ない。
 かつ、憲法改正問題については、広く国民の意見を求めること、国民の間の自由で活発な討論を最大限に保障することが強く求められる。ところが、本法案は、国民投票運動を規制し、公務員及び教育者の地位を利用しての運動を禁止している。当初、罰則によっていた規制を外したことは評価できるとしても、なお禁止を全面的になくしたわけではなく、違反したとみなされれば公務員法制上の行政処分の対象となりうるため、およそ500万人の公務員らによる自由な討論を萎縮させてしまうことは必至である。
 さらに、本法案によれば、国会が憲法改正を発議すると、国会に「国民投票広報協議会」が設置されるが,この「広報協議会」は、原則として各会派の所属議員数の比率によって構成することとされているため、少数意見が十分に反映されず、国民が中立公正で十分な情報を受け取ることができないおそれがある。
 また、本法案がテレビ等の有料意見広告について、投票日前の2週間しか禁止していないことは、国民に十分な情報提供とそれをふまえた自由な議論を保障する上で重大な問題があると言わざるを得ない。なぜならば、テレビ、新聞等の有料意見広告が投票日2週間以前には自由に行えるとすれば、資金力を持つ者が国民に対して圧倒的に大量の情報を提供することが可能となり、自由な判断を阻害する危険性があるからである。このことは、税金による公的な意見広告が、改正の賛成、反対を問わず、全く平等に行われることとしている法案の基本的な趣旨にも反することにもなる。
 加えて、投票は、「内容において関連する議案ごとに」行われると規定されているが、条文ごとに賛否を問うのでなければ、自らが改正について是としない部分のみに反対するという選択肢を奪い、改正案に対し賛成・反対のいずれの態度を取るべきか決められないまま棄権せざるを得ない場合が予想され、前記で指摘した問題点と相まって、国民の意思が正確・公平・公正に反映されないおそれが大きい。
 その他にも、本法案にある国会法の一部改正についても、両院に常設の憲法審査会を設置して国会閉会中の改憲案の審議を行わせることや、両院合同協議会の設置を認めることは、審議の公開性や各議院の独自性などからみて疑義がある。
 そして、日本国憲法第96条が厳格な改正要件を定めている硬性憲法であることを考えれば、国民投票法案それ自体についても、国民に広くその内容を知らせ、十分に審議すべきである。未だもって法案・修正案の内容が国民の間に広く知らされているとは言えず、当会は、その審議の不十分さを深く憂慮する。

 以上のように、本法案には、国民主権など憲法の原則に関わる様々な問題点が残されており、その内容につき、現時点での制定の必要性の有無を含め、いっそう慎重に審議することを求めて、本声明を発するものである。 
 
以上
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踏み字事件判決についての会長声明
2007年(平成19年)2月23日
広島弁護士会
会 長 大 本 和 則
1   平成19年1月18日、鹿児島地方裁判所は、鹿児島県警察本部の警部補が取調中の志布志市在住の男性に対して、取調室で男性の親族の名前等を書いた紙を踏むよう強要し、その紙を男性に踏ませた行為(以下、「本件踏み字」という。)について、取調中に少なくとも3回踏みつけさせたと認定し、本件踏み字は、任意捜査による取調べであるか、強制捜査による取調べであるかにかかわらず、違法な有形力の行使であることは明らかであって、鹿児島県が主張する本件踏み字をした理由によっても、全く正当化できないとするとともに、尚書きで、仮に1回でも、また、足先のみを紙に乗せたとしても違法性は十分認められるとした上、慰謝料算定にあたり、違法行為、特に本件踏み字は、その取調手法が常軌を逸し、公権力を笠に着て男性や男性の関係者を侮辱するものであって、踏み字により被った男性の屈辱感など精神的苦痛は甚大といわざるを得ないことや刑事手続きにおける保護を無視した違法行為による男性の精神的苦痛を考慮した上、慰謝料50万円の支払いを命じるとの判決(以下、「本件判決」という。)を言渡した。
 本件判決は、上記のとおり、踏み字が常軌を逸した取調手法であることを明言するとともに、仮に踏み字行為が1回であったとしても違法性は十分に認められるとして、本件踏み字を厳しく非難した。また、踏み字という取調手法に対する裁判所の厳しい非難の姿勢は、慰謝料の高さ、鹿児島県の求めた仮執行宣言の免脱を認めなかった点にも現れており、裁判所は、最後の人権の砦として、密室における捜査機関の人権蹂躙行為を厳しく断罪しており、本件判決は、極めて妥当な判決といえる。
 ところで、本事件において鹿児島県は違法性はないと主張したが、注目すべきは、その理由付けの内容である。鹿児島県は、本件踏み字の紙に書かれた内容が男性や男性の関係者を侮辱するものではないことや、被疑者取調べが取調担当者と被疑者のコミュニケーションを通じて、被疑者に犯罪行為に対する自戒の念を生じさせ、被疑者に真実を述べさせるものであって、本件踏み字も、取調べに真摯に向き合ってほしいと願って行った行為であり、原告に暴力を加えたり、精神的・肉体的苦痛を与えるものではないと主張した。踏み字という前近代的な取調手法が常軌を逸した取調手法であることは、現代の一般市民の感覚に照らせば明白であるにもかかわらず、捜査機関は、踏み字の紙に書かれた内容が侮辱するものでなければ、「真実を述べさせる」ため、つまり、被疑者に自白をさせるためには許されると認識しているのである。この認識は、何としてでも被疑者の自白を獲得したい、獲得するためには常軌を逸した違法な取調べも許されるという捜査機関の自白強要、自白偏重の姿勢の根深さを示すものといえる。
 近時、富山県では、約2年間服役した男性の冤罪が発覚したが、冤罪の原因は、被疑者の自白を獲得したことのみを偏重し、自白の裏付けや客観的証拠の収集を怠った点にあった。このような冤罪事件も捜査機関の自白強要、自白偏重の姿勢が招いた事件であって、後を絶たない。
 捜査機関の自制により自白強要、自白偏重への姿勢を改善することが期待できないことは、捜査機関が違法な取調べを繰り返してきた歴史、今日においても本件踏み字のような常軌を逸した違法な取調べを行い、その上、本件踏み字を正当化しようとする捜査機関の姿勢を見れば明らかである。このような捜査機関の自白強要、自白偏重の姿勢を改善させ、捜査の適正化を図り不当な人権蹂躙行為を防止するためには、取調べを監視するとともに事後的に取調べを検証することができるよう、取調べの全過程を録画・録音することにより取調べを可視化することが必要不可欠である。
 近く裁判員制度が開始されるが、裁判員として参加する一般市民の多くは、事実認定に参加することへの不安を感じている。その不安を除去するためにも、取調べを可視化し、どのような取調べを経てどのような状況下で供述がなされたかを吟味することは必要不可欠であって、取調べの可視化は裁判員制度が適正に実施される大前提でもある。
 そこで、広島弁護士会は、捜査機関が、本件踏み字事件判決を真摯に受け止め、自白強要、自白偏重への根強い姿勢を改善し、本件踏み字のような違法な取調べを防止する措置を早急にとること、取調べの全過程の可視化を早急に実現することを強く求めるものである。
 
以上
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志布志事件に関する会長声明
2006年(平成18年)9月25日
                        広島弁護士会
                         会 長  大 本 和 則
 報道によると,鹿児島県での2003年鹿児島県議会議員選挙に関する公職選挙法違反刑事被告事件(いわゆる「志布志事件」)において,任意性に争いがある被告人供述調書の多くを,裁判所が任意性ありとして,証拠採用の決定をなしたとのことである。
 当会は,当該事件の裁判所による証拠採否の当否について直接意見を述べるべき立場にはないが,当該事件に関しては,検察官により弁護人と被疑者との接見内容の秘密性が侵害されたとして国家賠償請求事件(いわゆる「鹿児島国賠事件」)が提起されているところであり,当会会員の多くが,これらの事件への高い関心を有している状況である。
 そもそも,これらのような紛争が生じ主張が鋭く対立するのは,取調べ状況が適切に可視化されておらず,弁護人と被疑者等との接見の秘密性についての捜査官の理解が十分でないなどの事情が存するからである。
 供述調書の任意性の判断に影響する事情,すなわち捜査官による暴行,脅迫,偽計等の行為がなされたか否か等について適正に判断し刑事手続を適正化するためには,検察庁が試行的に実施を開始した検察官の恣意的裁量による一部分の録音・録画では到底不十分であり,取調べ状況全過程の録音・録画による完全な可視化が必要である。
 そこで,当会としては,今後供述調書の任意性を適正に判断するなど刑事手続を適正化していくためにも,前記志布志事件,鹿児島国賠事件の弁護団の活動に敬意を表するとともに,取調べの可視化についての適正な措置と,接見の秘密性についての正当な理解を求める不断の努力を続ける決意を表明するものである。
以上
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例外なき出資法の上限金利の引き下げを求める緊急会長声明
2006年(平成18年)9月8日
                        広島弁護士会
                         会 長  大 本 和 則
 貸金業制度及び出資法の上限金利の見直しを検討していた金融庁及び法務省は,9月5日,自由民主党金融調査会貸金業制度等に関する小委員会でその内容を明らかにした。検討内容では,最大9年間はグレーゾーン金利が存続するとともに,「少額短期特例」,「事業者向け特例」として,いずれも年利28%を認める,というものである。
 しかし,今回の法改正の目的は,最高裁判所が貸金業規制法43条(グレーゾーン金利)の適用を否定して利息制限法による債務者救済を図る判決を相次いで示したことを踏まえ,深刻な多重債務問題を解決するために行うものである。
 当会も,本年6月14日付で,「出資法の上限金利の引き下げ等を求める意見書」をとりまとめ,出資法第5条第2項の上限金利を,利息制限法第1条の制限金利まで引き下げることなどを求めてきたところである。
 このことは,本年7月6日付の自由民主党・公明党の「貸金業制度等の改革に関する基本的考え方」や,金融庁「貸金業制度等に関する懇談会」で確認されてきた。しかも,8月24日に開催された同「懇談会」では,特例高金利の導入に反対の意見が大勢を占めたはずである。
 ところが,この度,金融庁及び法務省が明らかにした前記内容は,「特例」という形で利息制限法による金利の一本化までに最長で9年間程度を要する上,特例の高金利の恒久化すら懸念されるものである。深刻な多重債務問題を解決するため,39都道府県,880を超える市町村議会が,高金利引き下げの意見書を採択しているにもかかわらず,長期にわたってグレーゾーン金利を温存したり,利息制限法の制限を超える新たな特例金利を導入したりすることは,高金利の引き下げを求める上記の司法判断や国民の声に逆行するものであるといわざるを得ない。
 よって,当会は,重ねて政府及び国会に対し,少額短期特例や事業者特例を設置せず,直ちに,グレーゾーン金利を廃止し,出資法第5条第2項の上限金利を,利息制限法第1条の制限金利まで引き下げることを改めて求めるものである。
以上
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国選弁護報酬の度重なる引き下げに抗議するとともに、増額を再度求める会長声明
2006年(平成18年)8月9日
広島弁護士会
会長 大 本 和 則
 地方裁判所における被告人国選弁護報酬の標準基準額(公判回数3回)は,2000(平成12)年度から8万6400円とされていたが,2003(平成15)年度の政府予算では8万5600円に引き下げられ,2004(平成16)年度には8万5200円に引き下げられ,さらに2005(平成17)年度では8万5100円に引き下げられ,3年連続で引き下げられるに至った。加えて,記録謄写料,交通費,通訳料,翻訳料等,弁護活動に不可欠であり被告人国選弁護報酬と別途に全額支払われるべき実費も,被告人国選弁護報酬に含まれているとして支給されないか,支給されたとしても制限された範囲にとどまる現状に変わりはない。
 当会においては,当会会員全員が国選弁護の重要性を認識し,国選弁護を担うことが弁護士の責務であることを自覚していることから,国選弁護担当者名簿に会員全員が登載される運用の下で,国選弁護活動が行われている。しかし,前述のような被告人国選弁護報酬額,及び実費の支給状況の現状は,刑事弁護活動の実態や職務の重要性に相応したものとはいえず,それを担っている弁護士の責務に対する義務感と犠牲において運営されているといっても過言ではない。国選弁護制度は,憲法上要請されている制度であるにもかかわらず,かかる制度が国選弁護人たる弁護士の犠牲において支えられているというのは異常事態というほかない。それにもかかわらず,政府は,国選弁護人報酬を適正化するための改革を怠ったばかりか,3年連続で被告人国選弁護報酬を引き下げるに及んだことは,より一層国選弁護活動をないがしろにするものであり,断じて許すことはできない。
 2004(平成16)年の刑事訴訟法の改正及び総合法律支援法の成立により,2006(平成18)年10月から被疑者段階における国選弁護制度が実施されることとなり,日本司法支援センターと契約した弁護士が国選弁護事件を担うこととなった。この点につき,当会は,2005(平成17)年6月8日付け「国選弁護報酬の増額を求める会長声明」において,日本司法支援センターから支払われる国選弁護報酬は,被疑者国選及び被告人国選ともに,それぞれ少なくとも1件当たり20万円になるよう報酬基準を定めたうえ,国選弁護報酬とは別に刑事弁護活動に必要な実費が全額支払われる制度を確立することを強く要望した。
 しかし,2006(平成18)年5月25日に法務大臣認可を受けた日本司法支援センターの「国選弁護人の事務に関する契約約款」によれば,地方裁判所における被告人国選弁護の基礎報酬(単独事件。公判回数3回)は8万4000円であり,1件当たり20万円になるような報酬基準とは程遠いばかりか,3年連続で引き下げられた2005(平成17)年度の被告人国選弁護報酬額を,更に下回るものである。
 また,被疑者国選弁護報酬についても,弁護期間20日に基準回数5回の接見をした場合の基礎報酬は,10万4000円にとどまっている。被疑者段階の弁護活動は,捜査の進展に対応して迅速かつ積極的に行われなければならないものであるうえ,被疑者国選の実施に伴い必要とされる国選弁護人の数が激増すること,及び国選弁護人の犠牲と負担はより一層増大することからすると,1件当たり20万円になるような報酬基準とは程遠い報酬額にとどまることは,およそ不十分であるといわざるをえない。
 これらに加えて,報酬金の特別成果加算に無罪・保釈許可が含まれていない点についても不十分であるといわざるをえず,さらに,実費についても,例えば記録謄写料は,記録謄写枚数が200枚以内の場合には,国選弁護報酬に含まれているとして全く支給されないこととされているが,このような取扱いは,国選弁護人に一層の犠牲と負担を強いるものであり,到底容認できない。
 よって,当会は,政府予算における国選弁護人報酬の度重なる引き下げに強く抗議するとともに,日本司法支援センターの「国選弁護人の事務に関する契約約款」については,被疑者国選及び被告人国選ともに,それぞれ少なくとも1件当たり20万円になるよう報酬基準を定めたうえ,国選弁護報酬とは別に刑事弁護活動に必要な実費を全額支払われる制度とするように改めるとともに,これに見合う予算措置が行われることを,再度強く要望する。

 上記声明文は、内閣総理大臣・法務大臣・財務大臣・最高裁判所・日本司法支援センター宛に送付しております。
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依頼者密告制度について
広島弁護士会
会 長 大 本 和 則
 
 5月18日広島弁護士会定期総会、5月26日日本弁護士連合会定期総会において、弁護士会から警察に対する依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)の立法化を阻止する決議がなされた。
 依頼者密告制度は、弁護士にもマネー・ロンダリングやテロ資金の移動に利用される金融取引について、依頼者の行う「疑わしい取引」を警察に通報する義務と、通報の事実を依頼者に秘匿する義務を果すものであり、政府はそのような依頼者密告制度の立法作業を進めている。
 弁護士は、法律専門家として依頼者の基本的人権と正当な法的利益を擁護することを職務の本質としている。この弁護士の職責を全うするためには、依頼者の全面的な信頼の下に、依頼者から秘密事項を含め全ての事実の開示を受けたうえで、依頼者にとって最善の方策を立案し遂行しなければならない。弁護士の守秘義務は、依頼者が、有利不利を問わずあらゆる事実を安心して弁護士に打ち明けられることを保障する制度であり、弁護士の職務の適正な遂行のために不可欠である。また、弁護士は、人権擁護のためには、国家権力の過ちも臆することなく正すことができなければならない。そのために、弁護士は政府機関から独立し、その監督を受けない職業として位置づけられており、同時に弁護士会にも高度の自治が認められている。
 しかしながら、弁護士に、このような密告義務が法律上課されることになれば、弁護士制度の根幹である弁護士の守秘義務と政府機関からの独立の原則がゆるがされてしまう。市民が安心して秘密を打ち明け、弁護士の助言に従って法を遵守することができなくなれば、法の支配を実現する機会が失われるおそれがある。その結果、弁護士制度の存在意義は危うくなり、民主的な司法制度の根幹が揺らぐこととなる。
 当会は、弁護士が依頼者を警察に密告する制度を決して容認することはできない。
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憲法改正国民投票法案に対する会長声明
2005年(平成17年)12月14日
広島弁護士会
会 長 山 田 延 廣
 はじめに
 2005年(平成17年)9月22日衆議院本会議で,「日本国憲法に関する調査特別委員会」が新たに設置され,憲法改正の手続きを定める国民投票法案を審議していくこととなった。そして,現在,同委員会において,2001(平成13年)年11月に発表された憲法調査推進議員連盟の日本国憲法改正国民投票法案に若干の修正を加えて策定された日本国憲法国民投票法案骨子(案)(以下「法案骨子」という。)を基にした調査及び議論が進められている。
 確かに,憲法自体がその改正を予定している以上,そのための手続法である国民投票法を制定すること自体否定されるべきことではない。
 しかしながら,憲法改正の国民投票は,主権者たる国民が国の在り方を規定する最高法規としての憲法について、その政治的意思を表明するという重要な手続であるため,「真の国民意思」を反映させるものでなければならない。
 このため,国民投票法は,少なくとも,@国民が十分な判断材料に接し得ること,A国民に検討する期間を十分に与えること,B一部の国民の賛成のみでは「国民の承認」があったとは認めないこと,などの諸条件を満たす必要がある。
 ところが,法案骨子は,以下のとおり,極めて問題のあるものである。
 表現の自由との関係
特に,問題なのは,投票運動の制限規定が,憲法21条の保障する表現の自由の意義を無視し,不当に侵害している点である。
 表現の自由には様々な存在意義が認められるが,とりわけこの意義の重要さは,主権者である国民が直接に政治的決定権を行使できる選挙(投票)において発揮される。なぜなら,表現の自由が保障されることによって,国民が自らの意思決定を行うに必要かつ十分な判断材料を得ることが可能となるからである。
 そして,国の最高法規である憲法の改正を決定する国民投票は、あらゆる投票の中でも最も重要であるため、表現の自由をいっそう厚く保障することが必要であり、これにより,投票者に必要な情報提供がなされ,広く深い国民的議論がなされることを要する。
 ところが,法案骨子は,上記のような表現の自由の重要性を考慮することなく,国民投票に関する報道,あるいは,国民投票運動(憲法改正に対し賛成又は反対の投票をさせる運動)を制限する規定を定め,しかもこれに違反した場合には不明確な犯罪構成要件により罰則を科すなどして、憲法改正に関する表現の自由を不当に制限するものとなっている。
具体的には,予想投票の公表の禁止,「虚偽」「歪曲」という不明確な基準による報道に対する制限,教育者の運動の制限,外国人の運動の全面禁止,構成要件の不明確な「国民投票の自由妨害罪」及びその「煽動罪」等の規定である。
 このような広い制限は,欧米の法制に比して厳しい制限であるうえ、現行の公選法よりもさらに広い制約を課すものであり、重大な問題である。特に,抽象的な処罰規定は,現在、与党が成立を目指している共謀罪規定の適用を受けた場合には,表現の自由に絶大な萎縮効果をもたらすものである。そして、政治的なビラ配りについて住居侵入罪による逮捕が続いている現状に鑑みると,このような心配は杞憂であるとは到底、言い得ないものである。
その他重要な問題点
(1)  投票方法
 憲法改正が複数の条項にわたる場合に,一括投票とするのか,それとも条項毎の個別投票とするのか明らかとなっていない点が問題である。一括投票しか認められないのでは,国民はその意思を正確に表明することができないからである。
(2)  発議から投票までの期間(31条)
国会発議後30日以上90日未満と極めて短期であり,国民に十分な検討期間を与えているとはいえない。十分な検討期間を置くべきである。
(3)  有効投票のあり方(54条)
 有効投票の2分の1以上の賛成があれば,承認があったものとされるため,投票した国民の過半数すら賛成していないのに「国民の承認」があったものとされてしまう危険性がある。
(4)  最低投票率
 国民投票が成立するための最低投票率の定めを欠くため,投票率が低い合には,一部の国民の賛成のみで「国民の承認」があったものとされてしまう。
(5)  投票年齢
憲法改正は、我が国の将来の世代に直接関わる問題であり、可能な限り投票年齢の引き下げが望ましい。多くの諸国で満18歳を投票年齢にしていることを考えると、国民投票年齢は満20歳ではなく満18歳に引き下げられるべきである。
(6)  無効訴訟の提訴期間(55条)
 提訴期間が投票結果の告示の日から起算して30日以内と極めて短期であり,事後的に投票の問題点に関するチェックを十分にできない可能性がある。
 以上のとおり,法案骨子には多数の問題点があることから,これを基にした国民投票法案を上程することは適切ではない。
 よって,当会は,法案骨子の抜本的見直しが行われないまま,国民投票法案を上程することについて,強く反対するものである。
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自衛隊のイラクへの派遣再延長に反対する会長声明
2005年(平成17年)12月14日
広島弁護士会
会 長 山 田 延 廣
 政府は,本年12月8日,「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」(以下「イラク特措法」と言う。)に基づく基本計画で定めた自衛隊の派遣期間が本年12月14日で満了する事態を受けて,基本計画を変更し派遣期間を再度1年間延長することを閣議決定した。
 これまで,当会は,2003(平成15)年1月22日,「米国による対イラク武力行使に反対する会長声明」,2004(平成16)年2月13日,「自衛隊のイラク派遣に反対する会長声明」,同年12月8日,「自衛隊のイラク派遣期間延長に反対する会長声明」をそれぞれ発表し,自衛隊の派遣の反対を表明し,あるいは,その速やかな撤収を求めてきた。また,この間の2004(平成16)年10月22日,中国地方弁護士会連合会大会は,「イラク特措法の廃止を求める大会決議」を採択した。
 これらの一連の声明・決議は,イラク特措法が,国際紛争を解決するための武力行使及び他国領土における武力行使を禁じた日本国憲法に違反するおそれが極めて大きいこと,イラクへの自衛隊派遣がイラク特措法の「非戦闘地域」の要件を満たしていないことを主な理由とするものである。
 イラクの現状をみると,本年1月と7月にはサマワに駐屯する陸上自衛隊の宿営地にロケット弾などが着弾し,6月には陸上自衛隊車両が幹線道路走行中に爆弾で攻撃される事態が生じている。本年4月には,防衛庁は計画していた報道機関の取材を「不測の事態を排除できない」として中止した。このように自衛隊が戦闘に巻き込まれて武力行使に至る危険は依然として高い。また,航空自衛隊は多国籍軍のための輸送を行い,イラクにおいて武力行使を続けている多国籍軍との一体化が顕著である。
他方,サマワの治安維持を担当していたオランダ軍は既に撤退し,これを引き継いだ英,豪両軍も来年撤退を開始するとの報道がなされている。イラクをめぐる情勢は派遣軍隊撤退の方向へと変化しつつある。
 このような状況もふまえ,当会は自衛隊派遣期間の再延長に反対を表明するとともに,政府が自衛隊をイラクから即時撤退する決断を行うよう改めて強く求めるものである。
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ゲートキーパー立法に反対する会長声明
2005年(平成17年)12月14日
広島弁護士会
会 長 山 田 延 廣
 当会は、弁護士に対して、一定の取引について警察庁に対して報告義務を課すゲートキーパー立法に対して反対する。
 平成17年 11月17日、政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」は、弁護士に対しても一定の取引について報告義務を課す金融活動作業部会(以下、FATF)勧告の完全実施並びに報告先である金融情報機関(以下、FIU)を警察庁とすることを決定した。
 守秘義務は、弁護士法において、弁護士の権利であるとともに義務であると規定されている。弁護士に相談ないし依頼する者にとって秘密が守られるからこそ全ての事情を弁護士に対して説明することができるのである。相談者にとって弁護士を依頼する上で秘密が守られないおそれがあれば、弁護士に対しても事実を一部秘匿するという事態にもなりかねない。そうなれば、弁護士は事実関係の全容を把握できないこととなり、相談者は適切な助言、弁護などを受けることができなくなってしまう。
 弁護士がその業務を行う上で最も重要な義務の一つである守秘義務を犯すおそれのある、弁護士に対して報告義務を課す立法は原則として容認できるものではない。
 さらに、前記決定は、FIUを警察庁とするものである。警察は、行政府に属する第一次的犯罪捜査機関であり、その権限の行使については、慎重でなければならないことは歴史が立証するところである。
 さらに、FIUが従前の構想通り金融庁とされ、同庁が報告先である場合は、同庁において資金の流れが適切か否か検討、判断し、報告された取引マネーロンダリング等に該当すると判断した場合に、捜査機関に対して情報を提供するものと想定される。ところが、「疑わしい取引」について、警察庁に報告がなされることとなれば、その情報はマネーロンダリング等に限定されず、それ以外の犯罪についての捜査の端緒ないし捜査中の事件に関する情報として、警察内部において流用されないとの保証は存在しない。
 即ち、警察庁がFIUとされることにより、マネーロンダリング、テロ資金対策だけに限らず、弁護士が相談者ないし依頼者にとって不利益となるおそれの情報を積極的に捜査機関である警察に提供する結果となりかねないのである。相談者ないし依頼者は、マネーロンダリングないしテロ資金に全く関与していない場合でも、相談者ないし依頼者が秘密と考えている情報を、弁護士が警察に対して通報しなければならなくなるおそれがあるのである。例えば、マネーロンダリングないしテロ資金に全く関係ない犯罪に関与した者について、弁護士が捜査の端緒となる情報を警察に対して提供しなければならなくなるおそれがあるのである。かかる事態にあっては、国民の適切な弁護を受ける権利の保障は剥奪されたものと言っても過言ではない。
 「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」の前記決定は、弁護士制度の根幹を覆すものであり、決して容認できるものではない。
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刑務所国賠に対する会長声明
2005年(平成17年)10月26日
広島弁護士会
会 長 山 田 延 廣
 本日、広島高等裁判所は、当会及び当会会員が提訴していた2件の国家賠償請求控訴事件について、いずれも請求を退けた1審判決を変更して、国に対し、当会に対する損害賠償を命じる判決(以下、本判決という)をした。これらの訴訟は、広島刑務所の被収容者から当会に対して救済申立がなされた、同刑務所内における人権侵害事件の調査活動に関するものである。当会の人権擁護委員会委員である当会会員は、申立人の主張にかかる事実を見聞したとされる受刑者との面会調査を申し入れたところ、同刑務所が「施設管理運営上の支障」を理由として面会を拒否し、調査ができなかったため、同刑務所長を監督する国に対し損害賠償請求した事案である。
 当会を含めた各弁護士会及び日本弁護士連合会が行う人権救済活動は、弁護士法 1条に基づく人権擁護活動であり、その手続の厳格性、これまでの活動実績及び国民の信頼によって支えられてきたものである。当会は、毎年、これまで広島刑務所をはじめとする刑事拘禁施設の被収容者から、数多くの人権救済の申立を受け、これを誠実に調査したうえ、警告や勧告するなどして活動を積み重ねてきた。
 本判決は、これら弁護士会の人権救済活動を適正に評価したうえ、面会を拒否した刑務所長の処分を違法であると判断したもので、高く評価できるものである。
 2002年、名古屋刑務所での死傷事件をはじめとして、次々と刑務所や拘置所での違法かつ非人道的な処遇が行われていることが明らかとなった。このため、この反省をふまえて行刑改革会議が発足し、同会議は2003年12月、「行刑施設における被収容者の人権侵害に対し、公平かつ公正な救済を図るためには、矯正行政を所掌する法務省から不当な影響を受けることなく、独自に調査を実施した上で判断し、矯正行政をあずかる法務大臣に勧告を行うことのできる機関を設置することが必要不可欠である」と指摘した。
 また、国際人権(自由権)規約委員会の最終見解(勧告)においても、我が国の刑務所での人権侵害に対する強い懸念と救済に関する制度の欠如が指摘され、国際的にも実効性のある制度の構築を求められているところでもある。
 本判決は、このような指摘や弁護士会の人権調査救済活動の実態を直視し、1審判決を変更したうえ、国に対して損害賠償を認めたもので、その優れた人権感覚に敬意を表するものである。
 刑務所長が面会を拒否する根拠とされていた監獄法は、本年、改正され、面会に関する規定も大幅に改められた。今後は、広島刑務所をはじめとする全国の刑事施設において、本判決の意義を適切に理解したうえ、新制度の運用がなされるよう強く期待する。
 当会は、本判決をふまえ、今後も人権救済活動を継続して、刑事拘禁施設における処遇の改善に力を尽くすことを表明する。
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共謀罪の新設に反対する会長声明
2005年(平成17年)10月20日
広島弁護士会
会 長 山 田 延 廣
 「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(国連国際組織犯罪条約)の国内法化として,「共謀罪」の新設が規定されている「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(以下「同法律案」という)」については,現在のところ,今国会での成立は見送られ,継続審議の方針と伝えられている。
 しかし,同法律案は,先の衆議院解散によって廃案となった法律案と同様の内容のもので,以下のとおり,思想信条の自由等の基本的人権の侵害をもたらし、また捜査権限の濫用等の適正手続違反を生ずる蓋然性が極めて高いものであるため,当会は,同罪の新設に対して断固反対するものである。
 そもそも,共謀罪は,意思形成の段階に過ぎない共謀それ自体を処罰しようとするもので,「犯罪を行う意思」だけでは処罰の対象としないという刑法の人権保障機能の大原則に反することとなる。また,行為を伴わない純粋な共謀を処罰することは,憲法が保障する思想信条の自由を侵害する危険性が極めて高く,しかも,共謀という概念自体が極めてあいまい,かつ,不明確であることからして,表現の自由に対する重大な脅威ともなる。
 さらに,「意思の連絡」を処罰する共謀罪の捜査は,室内会話,電話,携帯電話,FAX,電子メールなど,プライバシーに密接にかかわるものを対象とせざるを得ない。しかも,その捜査にあっては,自白に依存し,あるいは,会話自体の証拠化のための盗聴が一般的な捜査方法となってしまう。
 そして,共謀罪の対象犯罪が615にも上り,捜査活動の相当程度が共謀罪に関する捜査活動で占められるようになることを考えると,共謀罪の新設は,自白偏重の捜査,盗聴による捜査を一般化させ,これまでの捜査方法を根本的に変更させてしまうおそれがある。しかも,現在,取調の可視化が実現していないため,取調の事後チェックも不可能に近い。
 したがって,共謀罪の新設は,治安維持が前面に出た捜査を常態化させるなど,捜査権の濫用を招き,適正手続違反をもたらすおそれがきわめて強い。
 同法律案の前提とされている国連国際組織犯罪条約第3条1項は,条約の適用範囲を,「性質上国際的(越境的)なものであり,かつ,組織的な犯罪集団が関与するもの」と明記しているにもかかわらず,この共謀罪では,「国際的な犯罪」との要件による絞りが外され,「組織的な犯罪集団」という限定も存在しない。
 このため,共謀罪は,国連国際組織犯罪条約の範囲を超えて,政党,NPOなどの市民団体,労働組合,企業等,広く団体一般の活動をも処罰対象としてしまうことから,集会結社の自由を侵害するおそれがある。
 なお,現在,与党により,(1)共謀罪の適用対象を組織的犯罪集団に限定し,(2)客観的な準備行為の存在を構成要件に加えること等の修正案が検討されているとのことである。
 しかし,(1)については,「犯罪組織としての継続性」も要件にされなければならない。つまり,例えば,マンション建設に反対する住民組織が,建設阻止のための座り込み等を行った場合,現在の支配的な解釈見解によれば,当該座り込みが正当な行為として違法性阻却されない限り,犯罪(威力業務妨害罪)は成立するされることから,もし,「犯罪組織としての継続性」を要件としないことになれば,当該住民組織が組織内で座り込み等の検討を行ったものの,実行行為まで至らなかった場合であっても,当該組織が「一時的に」組織的犯罪集団化したとして,犯罪主体とされ,「組織的な威力業務妨害共謀罪」に問われるおそれがある。また,(2)についても,単に「準備行為」を要件に付け加えるだけでは,日常的に行われる正当な行為も「準備行為」に含められてしまう可能性が拭いきれない。
 いずれにしても,集会結社の自由,思想信条の自由等の侵害の危険は,依然として,残るといわざるを得ない。
 以上のとおり,共謀罪は,刑法の人権保障機能の大原則に反し,基本的人権の侵害,さらには,適正手続き違反のおそれが強いなど,極めて問題の多いものである。
 当会は,共謀罪の新設について,これまでにも会長声明等によって反対の意思を表明してきたが,再度,断固反対する。
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死刑確定者に対する死刑執行
2005年(平成17年)9月22日
広島弁護士会
会 長 山 田 延 廣
 本年9月16日,大阪拘置所においてA死刑確定者に対する執行がなされた。
 国際社会において,死刑を廃止ないし執行を停止する国々が既に6割程度に達しており,死刑廃止は国際的な潮流となっている。
 我が国の現行の死刑制度に対しては,1980年代に4名の死刑確定者に対する再審無罪判決がなされたことに見られるように誤判のおそれあること,死刑判決と無期懲役判決との間に明確な量刑基準があるとは言えないこと,死刑判決がなされたときに被告人の意思で上訴せず,一審判決のみで死刑が確定する場合があることの問題点などが指摘されている。
 しかるに,今回の死刑執行も,国会の閉会中になされ,死刑執行についての国会での論議を避けようとする意図が窺われる。
 日本弁護士連合会は,2002年11月,死刑執行を停止して,死刑制度の存廃についての国民的議論を尽くし,制度の改善を行うことを求め,その間は,死刑確定者に対する死刑執行を停止することを求める立場を明らかにしてきている。
 当会においても,昨年8月28日に,「死刑執行停止を考える」シンポジウムを開催し,死刑制度の存廃問題と死刑執行停止についての議論を行ってきたところである。
 その中で,死刑をめぐる情報が秘匿されている事実が明らかとなった。
 当会は,この度死刑が執行されたことについて遺憾の意を表明するとともに,死刑をめぐる情報が開示され,死刑の存廃についての国民的な議論が尽くされるまで,死刑の執行を停止するよう要望する。
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核廃絶への取組み等を求める会長声明
2005年(平成17年)8月3日
                  広島弁護士会
会 長 山 田 延 廣
 当会は,今後とも核廃絶と平和の維持のために全力を尽くす決意であることを表明したうえ,日本政府に対し,@核兵器廃絶に向けて国際社会において主導的かつ積極的な活動を行うこと,A及び,被爆者に対して,適切な被爆者援護政策を実施することを求める。
理     由
被爆60周年を迎えて
 1945年8月6日にヒロシマ,同年8月9日にナガサキに対して原子爆弾(以下,原爆という)が投下され,人類が初めて核兵器の惨禍を受けてから60年目を迎えようとしている。
 この原爆の投下により,広島市と長崎市は,壊滅状態となり,一瞬のうちに多くの人々の命が奪われ(1945年末までに計21万人の被爆による死者が生じたとされている),その後わが国はようやく敗戦を決意するに至ったのである。つまり,わが国はこの原爆による多くの人々の惨禍の結果,平和を享受することができたと言っても過言ではない。
 このような節目の時期を迎えるにあたり,私たち広島弁護士会は,改めて,今後とも継続して核廃絶と平和の維持のために全力を尽くすことを誓うとともに,政府に対し,核廃絶に向けて国際社会に対して主導的,積極的な活動を行うこと,及び,被爆者に対する適切な援護を求めるものである。
核兵器廃絶を巡る現在の情勢とわが国の態度について
 ヒロシマ及びナガサキの原爆による悲惨な被害は,その後,世界の多くの人々に伝わり,国際司法裁判所(ICJ)は,1996年7月8日,核兵器の違法性に関する勧告的意見において,「国際管理の下において核軍縮交渉を誠実に遂行し,完結させる義務がある」と判断し,核拡散防止条約(NPT)の2000年NPT再検討会議において,全加盟国は,この勧告的意見主文を踏まえて,最終文書で「保有核兵器の完全廃棄の明確な約束」と「CTBT(包括的核実験停止条約)早期発効」を含む核軍縮措置をとることを誓約した。
 ところが,その後,米国政府は,核先制攻撃も辞さないとし,超小型核兵器や地中貫通核爆弾など新型核兵器開発を進め,核実験の再開を企図するに至り,本年5月のNPT再検討会議では,CTBTを批准しない旨を明確にしている。また,イスラエル,インド,イラン,パキスタン,北朝鮮等の諸国も核兵器を保有し,または,保有することを公言しており,世界の核兵器廃絶の願いに逆行する状況が生じている。
 このような中にあって,日本政府は,被爆国の政府として,米国を初めとする全ての核保有国に対して積極的に核廃絶を求めるべきであるのに,再検討会議などの場において核廃絶のための合意形成に積極的なイニシャチブを発揮していない。
日本政府の被爆者援護行政
 また,原爆投下から生き残った被爆者は,火傷や急性放射能障害に苛まされながらも,今度は,いつ発病するとも知れない放射能障害に対する不安の中で生活してきた。
 これに対して,日本政府は,最高裁判決が原爆医療法の法的性格は,国家補償的性格を持つものであることを明らかにしたことや,被爆者を中心とした運動の高まりにより,1994年(平成6年),「国の責任」を明記した被爆者援護法を制定するに至った。
 しかし,現在においても,日本政府は,「在外被爆者」の健康管理手当の申請や被爆者健康手帳の交付申請につき,来日しない限り,被爆者の権利を認めない取扱いをして在外被爆者の保護に消極的である。
 また,厚生労働省は,被爆者援護法の原爆症認定において,極めて厳格な姿勢をとり,認定被爆者は,被爆者健康手帳の交付を受けたものの1%にも満たない状態にある。
 このように,日本政府の被爆者行政は,被爆者の権利を不当に制約し,極めて不十分と言わざるを得ないため,これまでの被爆援護政策を見直したうえ,適切な援護政策を行うことを求めるものである。
当会の立場と今後の活動について
 当会は,人類最初の被爆地の法律家団体として,また,我々の先達を含む多くの市民がこのヒロシマにおける原爆により命を落としたという経緯から,全国に先駆けて会内に「核廃絶と平和」を求めるための委員会である被爆50周年平和シンポジュウム実行委員会(現在の平和推進委員会)を設立し,これまで,「核廃絶を求めるシンポジュウム」などを開催するなどして核廃絶と平和の維持・確立を積極的かつ継続して唱えてきた。
 今後とも,私たち自身が,核兵器廃絶と平和な世界を目指して活動する旨決意するとともに,日本政府に対し,核廃絶のための積極的な活動と,被爆者への適切な援護の実施を強く求めるものである。
                              以   上
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共謀罪の新設に断固反対する会長声明
2005年(平成17年)7月29日
                  広島弁護士会
会 長 山 田 延 廣
 共謀罪の新設法律案
 現在,国会に,「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(国連国際組織犯罪条約)の国内法化として,「共謀罪」の新設が規定されている「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(以下「同法律案」という)」が,上程されている。
 この共謀罪の新設は,以下のとおり,思想信条の自由等の基本的人権の侵害,あるいは,捜査権限の濫用等の適正手続違反を生ずるおそれがあるため,当会は,同罪の新設に対して断固反対するものである。
 共謀罪の新設は,刑法の人権保障機能に反し,思想信条の自由等,基本的人権を侵害するおそれがあること。
 共謀罪は,「死刑または無期もしくは長期4年以上の懲役もしくは禁固の刑が定められている罪に当たる行為で」,「団体の活動として」,「当該行為を実行するための組織により行われるもの」の「遂行を共謀した者」を処罰しようとするもので(同法律案第3条),犯罪対象の罪名は,実に615を数える。
 ところで,近代刑法の人権保障機能の見地からすると,犯罪に向けた「実行の着手」が行われ,「結果の発生」が生じてはじめて国家が人を処罰するのが原則であり,それ以前の意思形成の段階を処罰の対象としてはならない。
 ところが,この共謀罪は,未だ意思形成の段階に過ぎない共謀それ自体を処罰しようとするもので,「犯罪を行う意思」だけでは処罰の対象としないという刑法の人権保障機能の大原則に反することとなる。
 また,犯罪実現に向けた行為を伴わない純粋な共謀を処罰対象とすることは,内心の状態そのものの処罰と何ら異ならず,憲法が保障する思想信条の自由を侵害する危険性が極めて高く,しかも,共謀という概念自体が極めてあいまい,かつ,不明確であることからして,共謀罪の新設は,表現の自由に対する重大な脅威ともなる。
 共謀罪の新設は,捜査方法の根本的な変更を促し,捜査権限の濫用を招くおそれが強いこと。
 共謀罪は,「意思の連絡」を処罰するものであることから,プライバシーに密接にかかわる,室内会話,電話,携帯電話,FAX,電子メールなどが捜査の対象となる。しかも,行為を処罰対象としない共謀罪では,犯罪に向けた行為や結果発生に通常伴って残される痕跡(証拠)が存在することは稀であることから,自ずと,その捜査にあっては,自白に依存し,あるいは,会話自体の証拠化のための盗聴が一般的な捜査方法とならざるを得ない。
 そして,共謀罪の犯罪対象が615にも上り,捜査活動の相当程度が共謀罪に関する捜査活動で占められるようになることを考えると,共謀罪の新設は,自白偏重の捜査,盗聴による捜査を一般化させ,これまでの捜査方法を根本的に変更させてしまうおそれがある。しかも,現在,取調の可視化も実現していないことを考えると,取調の事後チェックも不可能に近い。
 したがって,共謀罪の新設は,濫用を生みやすく治安維持が前面に出た捜査を常態化させるなど,適正手続違反をもたらすおそれが強い。
 国連条約の適用範囲を超えて広く団体一般を処罰対象としていること。
 同法律案の前提とされている国連国際組織犯罪条約第3条1項は,条約の適用範囲を,「性質上国際的(越境的)なものであり,かつ,組織的な犯罪集団が関与するもの」と明記しているにもかかわらず,この共謀罪では,「国際的な犯罪」との要件による絞りが外され,「組織的な犯罪集団」という限定も存在しない。
 このため、共謀罪は,国連国際組織犯罪条約の範囲を超えて,政党,NPOなどの市民団体,労働組合,企業等,広く団体一般の活動も処罰対象としてしまうことから,集会結社の自由を侵害するおそれがある。
 結論
 以上のとおり、共謀罪は,刑法の人権保障機能に違反し,基本的人権を侵害し,さらには,適正手続きに違反するおそれが強いなど,極めて問題の多いものである。
 よって、当会は、共謀罪の新設に断固反対する。
以  上
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少年法等の一部改正法律案に関する会長声明
2005年(平成17年)6月30日
広島弁護士会
会 長  山 田 延 廣
 「少年法等の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」という。)が本年3月1日に閣議決定され、国会に上程されている。
 当会は、改正法案が非行事実に争いがない場合であっても、一定の重大事件において家庭裁判所が職権で弁護士である国選付添人を選任できるとしている点については評価するものの、以下の3点については反対であるため、その旨の意思を表明する。
 第1に、改正法案は、警察官による触法少年及びぐ犯少年に対する調査権限を法律上明確化している。
 しかし、これは、非行少年に対する福祉的な対応を後退させるものであり、賛成できない。すなわち、現行法上、触法少年や14歳未満のぐ犯少年に対する調査や処遇は、福祉的な見地から児童相談所を中心として行うこととなっており、警察官の関わりは補助的な役割に過ぎないのである。現状の触法少年等への調査や処遇について不十分な点もあるが、これは児童相談所をはじめとした福祉機関を強化して対処すべきであり、警察の権限を強化することにより解決を図るべきではない。
 とりわけ、このような低年齢の児童は、表現能力が不十分なうえ、被暗示性・迎合性を有しており、児童の福祉や心理について専門性を有していない警察官が取調べを行うことは、誤った供述を引き出す危険性が高く、当該児童を心理的に傷つけるおそれがあるなど問題が多い。
 また、ぐ犯とは犯罪ではなく、将来法をおかすおそれにすぎないにもかかわらず、「ぐ犯少年の疑い」という要件のもとで警察の調査権限を認めるなら、その範囲は無限定に拡大しかねないうえ、警察が、学校等の公務所・団体へ照会することも可能であるとされていることから、少年の生活全般が警察の監視のもとにおかれるという危惧を払拭できない。
 第2に、改正法案は、少年院に送致可能な少年の下限年齢を撤廃するとしているが、14歳に満たない少年に規律や訓練を重視する矯正教育を行うことは適当ではない。
 年齢の低い少年を家族から分離して更生をはからなければならない場合、家庭的な雰囲気のもとで、人間関係を中心とした生活力を身につけること、いわゆる「育て直し」が必要である。このため、現行法はこのような理念のもと、児童自立支援施設を設けているのである。
 今回の改正法案の背景には、14歳未満の少年であっても相当期間の閉鎖的な処遇を行う必要があるとの考えに基づくものであろうが、そのような少年への対応は、児童自立支援施設を充実強化し、必要な場合には少年法第6条第1項の家庭裁判所による強制的措置の規定を活用することによって対処すべきである。小学生であっても、少年院に送致できるとする改正法案の内容には、到底賛成できない。
 第3に、改正法案は、保護観察中の少年が遵守事項に違反し、その程度が重い場合に、家庭裁判所の決定により当該少年を少年院に送致できるとしている。
 この点については、遵守事項違反がぐ犯に該当すると考えられる場合、現行法上のぐ犯通告制度(犯罪者予防更生法42条)を適用することにより少年院送致することも可能であり、新たな制度を設ける必要性は何ら存しない。
 改正法案は、保護司と少年の人間的な接触を通じて少年を更生に導こうとする制度を、施設収容の威嚇によって遵守事項を遵守させるという制度にしようとするものであり、保護観察制度のあり方そのものを誤った方向に改変するものである。
 以上のとおり、今回改正の対象となっている事項に関し、仮に、現状に不十分な点があれば、児童相談所や児童自立支援施設等の児童福祉機関の機能を強化し、また保護観察官を増員する等の方法で対処すべきである。
 従って、国選付添人制度の導入を除き、今回の改正法案には賛成できない。
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NPT再検討会議に関する会長声明
2005年(平成17年)6月8日
                   広島弁護士会
会 長 山 田 延 廣
 当会は、以下のことを強く要望する。
 すべての核兵器国に対し、誠実な交渉を行って核兵器を廃絶する義務を履行し、2000年NPT再検討会議で採択された最終文書での誓約を果たすこと。
 日本政府に対し、被爆国政府として、核兵器廃絶に向けて国際社会において一層、積極的に指導力を発揮すること。
理  由
 2005年核拡散防止条約(NPT)再検討会議(以下、「2005年再検討会議」という)は、本年5月2日から27日まで国連本部で開催されたが何らの合意文書も採択されることなく閉幕した。
 当会は、人類最初の被爆地の法律家団体として、2000年NPT再検討会議(以下、「2000年再検討会議」という)の最終文書を発展させて国際社会が核兵器廃絶へ更に大きく前進することを期待していただけに、この事態に強い失望感を禁じ得ない。
 周知のとおり、2005年再検討会議の役割は、2000年再検討会議で最終文書によって全加盟国が合意した@「保有核兵器の完全廃棄を明確に約束」すること、A包括的核実験停止条約(CTBT)を早期に発効させること、及びBそれまで核実験を一時停止することなど13項目の実際的措置に関し、2000年再検討会議以降の5年の間、加盟国がどのような取り組みをしてきたのかについての検証を行い、かつ、2010年に開催予定の再検討会議に向け、核軍縮を一層進めることであった。
 このように、2000年再検討会議の最終文書が極めて具体的となったのは、当該文書が1996年7月8日に言い渡された国際司法裁判所(以下「ICJ」という)の勧告的意見を受けて成立したことによる。
 すなわち、ICJは、勧告的意見の主文F項で「厳密且つ効果的な国際管理の下における、あらゆる点での核軍縮に導かれる交渉を誠実に遂行し、完結させる義務がある」(全員一致)と判断した。この主文はNPT条約第6条の核軍縮義務を単に核軍縮交渉義務に止まらず、核兵器廃絶義務にまで強化するとともに、当該義務はすべての国家に適用され、NPTに加盟していない核兵器国であるイスラエル・インド・パキスタンへも法的拘束力がある国際法の原則であることを示したものであった。
 このように、NPTは単に核不拡散から核兵器廃絶を実現しうる枠組みとなったのである。
 当会も核兵器が違法であるとのICJの勧告的意見を求める世界法廷運動に関わったことを踏まえ、法律家団体として、主文F項が核兵器を廃絶するための国際法上の大きな前進であったものと認識している。
 ところが、米国は、非核兵器国への核先制攻撃を辞さないと宣言したうえ、小型核兵器や強力地中貫通核爆弾など新型核兵器開発を進め、2000年再検討会議以降の「保有核兵器の完全廃棄の明確な約束」及び実際的な軍縮措置に向けた誓約にことごとく反し、核爆発実験の再開を企図するに至った。
 しかも、米国は、2005年再検討会議においても、2000年最終文書を過去のものとし、自らは核軍縮義務を果たしたと強弁してCTBTを批准しないことを明確にしておきながら、他方では、イラン・北朝鮮などの核拡散問題に焦点を当てて対立をあおってきた。
 また、その他の核兵器国は、2000年最終文書の誓約を履行しようとしなかったうえ、米国に追随して、この最終文書を発展させる合意形成に消極的であり、さらに、日本政府は、再検討会議を成功に導くための合意形成に、被爆国の政府として積極的に指導力を発揮したとはいえなかった。
 当会は、今回の2005年再検討会議が核軍縮に関して何らの成果をもたらさなかったことに失望し、このような結果になったことの米国をはじめとする核兵器国の責任を強く指摘する。
 そして、このような結果にもかかわらず、当会は、2000年NPT再検討会議で採択された最終文書でのNPT加盟国の誓約は現在も意義を失っていないことを確認し、上記のとおり、核兵器国及び日本政府に要望する。
以 上
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国選弁護士報酬の増額を求める会長声明
2005年(平成17年)6月8日
                      広島弁護士会
会 長 山 田 延 廣
 当会は,国選弁護報酬の増額について以下のとおり強く要望する。
 日本司法支援センターが発足後,同センターから支払われる国選弁護報酬は,これまでの極めて低額な国選弁護報酬を踏襲することなく,被疑者国選及び被告人国選ともに,それぞれ少なくとも1件当たり20万円になるよう報酬基準を定め,それに見合う予算措置をとること
 同じく,この報酬基準決定にあたっては,報酬以外の記録謄写費用,旅費,通訳料及び翻訳料など刑事弁護活動に必要な実費を全額支払われる制度を確立したうえ,そのための予算措置をとること
理    由
 当会においては,国選弁護担当名簿に会員全員が登載される運用の下で,国選弁護活動が行われている。これは,当会会員全員が国選弁護の重要性を認識し,国選弁護を担うことが弁護士の責務であることを自覚しているからに外ならない。
 しかし,現行の国選弁護報酬の地裁標準基準額は8万5200円であり,加えて全額支弁されるべき記録謄写料,交通費,通訳料,翻訳料等弁護活動に不可欠な実費も,弁護報酬に含まれているとして支給されないか,または制限された範囲でしか支給されない現状にある。このような国選弁護報酬の現状は,刑事弁護活動の実態や職務の重要性に相応したものとはいえず,国選弁護制度は,それを担っている弁護士の責務に対する義務感と犠牲において運営されていると言っても過言ではない。
 また,総合法律支援法に基づいて日本司法支援センターが設立され,2006年(平成18年)10月からは同センターと契約した弁護士が全ての国選事件を担うことが予定されている。そして,同センターが支払う報酬及び費用については,現行の国選報酬に関する定め(刑訴法38条2項)の適用がなされず,新たに法務省が定めた契約約款に基づくことになる。
 加えて,同年より国費による被疑者弁護制度が開始されるが,当会は,全会員がこの被疑者国選を含むすべての国選事件につき,今後とも刑事弁護活動を弁護士の責務として真摯に遂行する用意がある。
 そこで,当会は,これらの新たな制度の導入にあたり,国選弁護人の刑事弁護活動に対して適正な報酬基準を設け,かつ刑事弁護活動に必要な実費支弁を行う制度を確立したうえ,これらに見合う予算措置をすることこそ国の責務であると考える。そして,刑事弁護は,被疑者・被告人接見,関係者との打ち合わせ,現場検証,記録閲覧,被害弁償,検察官との交渉,公判における諸々の活動等からなるものであって,このような活動を必要とする刑事弁護に対する適正な報酬基準は,20万円を下回ることはないと考えられる。
 これらの理由に基づき,日本弁護士連合会を初めとして,各地の弁護士会は国選弁護報酬の増額を求める会長声明等を出しているところである。
 以上から,日本司法支援センターの発足にあたり,国選弁護報酬が少なくとも1件あたり20万円となるような報酬基準と,国選弁護報酬とは別に刑事弁護活動に不可欠な実費の支払いを行うべき各制度を確立したうえ,これに見合う予算措置が行われることを強く要望する。
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核廃絶会長声明
2005年(平成17年)4月23日
                      広島弁護士会
会 長 山 田 延 廣
 最高裁判所第三小法廷は,平成17年4月19日,広島地方検察庁が当会の会員である定者吉人弁護士の同庁舎内での接見申立に対し,「接見室が無い」との理由のみで接見を拒否した国家賠償請事件につき,この接見拒否は違法であるが,この接見拒否を行った検察官の判断には過失はなかった旨の判決を下した。
 本判決は,取り調べのために検察庁に押送された被疑者について,いわゆる接見室と呼ばれる接見施設がない場合でも他に接見に適した場所を探し,かつ,これがない場合でも弁護人との接見を実現するために弁護人の意向を確認するなど配慮し,調整を行う義務があるとして,本件検察官の接見拒否はこの義務を怠った違法があると判断したものである。
 ところで,憲法34条は,「何人も……直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ,抑留又は拘禁されない。」と規定し,被疑者に弁護人の依頼権を保障している。
 ところが,現在の検察庁における捜査実務では,捜査の便宜のために多くの被疑者を一度に検察庁に押送する「集中押送」と呼ばれる運用が取られているため,被疑者は,概ね一日中,検察庁内に滞在することを余儀なくされたうえ,弁護人が接見を要求しても前記接見室がないことを理由にこれが拒否され,結局は,この弁護人依頼権が保障されずに抑留又は拘禁されている実情にある。
 今回の最高裁判決は,このような実務運用が違法であることを明らかにしたものである。
 このため,当会は,この判決を契機に,広島地方検察庁が庁内での接見を認めないこれまでの運用を改めること,また,全国の検察庁においても,上記判決に従った運用がなされることを強く求めるものである。
 なお,本判決は,検察官の行為が違法であることを認めながら,当時は接見室のない検察庁舎内での接見について裁判例や学説がないことや,接見を拒否することが検察官の職務行為の基準として確立されていたことなどを理由として担当検察官の過失を否定している。
 しかし,このような判断は,検察官が違法な行為を行なった場合でも,従前の運用に従っていれば過失がないことを認めるもので,検察庁の違法な実務運用を追認し,その違法な行為を放置することとなるため,到底,容認することはできない。
 当会は,今後,捜査機関が被疑者及び被告人に対し,接見拒否など行わないよう強く求めるとともに,裁判所に対してはこのような違法行為に対しては毅然とした判断をするよう求めるものである。
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弁護士事務所銃撃事件に関する会長声明
2005年(平成17年1月6日)
                      広島弁護士会
会 長 津 村 健 太 郎
 当会所属の弁護士事務所に対し、数発の銃弾が撃ち込まれるという事件が2004年(平成16年)12月30日深夜から翌31日未明と思われる時間帯に発生した。
 既に警察当局において銃刀法違反などの疑いで捜査が開始されたとのことであるが、かかる犯行は、司法の一翼を担い、基本的人権を擁護し、社会正義を実現する役割を担う弁護士の業務活動を、暴力をもって威嚇し物事を解決しようとする極めて卑劣なものであり、法治主義を踏みにじるものである。
 暴力によって目的の達成を目論むことは、法治主義に対する重大な挑戦であり、法治国家においては断じて許されないことであって、強い憤りを禁じえないところである。
 当会は、弁護士の活動は今回のような暴挙によりいささかも歪められることがないことをあらためて表明するとともに、会を挙げて当該弁護士が今後とも適正な活動を継続できるよう支援するものである。
 また、関係諸機関に対しては、このような事件の再発防止と根絶のため、断固たる対応を強く要望するものである。
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