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伊方原子力発電所3号機の再稼働に反対する会長声明

2016年01月14日



                              広島弁護士会 
                              会長 木村 豊

          声明の趣旨

当会は、伊方原子力発電所3号機の再稼働に強く反対する。

声明の理由

1 現在、政府は、原子力発電所(以下、「原発」という。)による電力を「重要なベースロード電源」であると位置づけ日本各地の原発の再稼働を推し進めており、昨年8月には九州電力が、原子力規制委員会による、実用発電用原子炉に係る新規制基準(以下。「新規制基準」という。)適合性審査を経て、川内原発1号機を再稼働した。
 広島市から南へ約100キロに位置する伊方原発3号機についても、昨年7月、原子力規制委員会は新規制基準に適合すると判断しており、伊方原発3号機の再稼働が目前に迫っている。
しかし、伊方原発3号機の再稼働は、以下のとおり、広島を含む瀬戸内海地域の住民の生命、身体の安全、さらには瀬戸内海の豊かな自然を揺るがしかねないものである。

2 伊方原発の北の沖合には中央構造線断層帯という日本最大級の断層帯があり、伊方原発の近くが震源となり巨大地震が起こる可能性は十分にある。また、近い将来、南海トラフにおいてマグニチュード8から9レベルの巨大地震が発生することは確実と言われており、それに随伴して巨大津波や陸地での大地震が発生する可能性があることも、多くの専門家から指摘されているところである。
四国電力は伊方原発を襲う地震の基準地震動について650ガルを想定し、さらにそのような想定の上で、重要設備はおおむね1000ガルの耐震性を有していると説明し、十分な安全性を満たしていると主張している。しかし、地震は、地下深くで生じる現象であり、地震発生の機序については、仮説や推測に依拠するしかないのが実情であるところ、私たちが地震を観測、記録し、科学的に検証できるようになったのは近代以降でしかなく、私たちは地震について未だ十分な知見を得ているとは言えない。
これまで、例えば東日本大震災における大地震のように、地震学に基づく想定を超えるような巨大地震は何度も発生してきた。伊方原発の敷地に近隣する地域で、今後、これに比するような巨大地震が生じないとは言い切れない。
原発は、放射性物質を扱う以上、絶対に安全でなければならない。しかし、伊方原発が絶対に安全であるとは、とうてい言い切れないのが現状である。

3 万が一、地震や津波その他の要因に基づき伊方原発が過酷事故を起こした場合、事故によって原発から放射性物質が瀬戸内海へ漏出し、大きな被害をもたらすことが予想される。
もし伊方原発で福島第1原発事故と同程度の事故が起きれば、放射性物質が大気中と瀬戸内海へ大量に放出され、大気中に放出された放射性物質も、いずれは陸や海に降下し、陸に降下した場合も、河川や湖沼・ダムを汚染しつつ結局は瀬戸内海に至り、これによって瀬戸内海は放射性物質によって汚染された海となり、放射性物質による長期的な影響が懸念される。
昨年、瀬戸内海環境保全特別措置法が改正され、同法第2条の2には、「瀬戸内海の環境の保全は、瀬戸内海が、我が国のみならず世界においても比類のない美しさを誇り、かつ、その自然と人々の生活及び生業並びに地域のにぎわいとが調和した自然景観と文化的景観を併せ有する景勝の地として、また、国民にとつて貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきものであることに鑑み、瀬戸内海を、人の活動が自然に対し適切に作用することを通じて、美しい景観が形成されていること、生物の多様性及び生産性が確保されていること等その有する多面的価値及び機能が最大限に発揮された豊かな海とすることを旨として、行わなければならない。」と明記された。
しかし、上記の通り、伊方原発でひとたび過酷事故が起これば、瀬戸内海は、豊かな海から一転して放射性物質によって汚染された海になり、放射性物質の影響により多くの住民の生命、身体を脅かす事態になるのである。

4 伊方原発3号機の再稼働に関しては、住民避難への配慮が欠けていることも大きな問題である。
福島第1原発の重大事故では、住民の避難への対策が不十分であったため、原発周辺の病院に重篤な入院患者が取り残され、自衛隊による救出が原発事故発生から3日以上経過し、50名以上の入院患者が避難の遅れによって死亡するという事件が発生した。このような事件を再び繰り返さないためには、住民避難の確保を原発運転の最低条件とする必要がある。しかし、新規制基準は、原発周辺に居住する住民の避難計画の策定は原発再稼働の要件とはされておらず、国民の生命、身体の安全を確保するには極めて不十分な内容である。
伊方原発に即して言えば、伊方原発は佐田岬半島の根元に位置しているが、佐田岬半島は、伊予灘と宇和海を隔てる細長い形状をしており、ほとんどの部分が海に囲まれているため、原発で事故が起こった際、住民の避難が非常に困難となる。すなわち、陸路で避難をしようとすれば、半島の根元部分にある原発施設付近を通過せざるを得ないし、海路でフェリー等を使って避難しようにも、原発事故による混乱や、大地震による津波なども予測される中、フェリーが支障なく運航できるかどうかは大いに疑問である。地震や津波などにより、港やその付近の道路が機能を喪失する可能性も十分に考えられる。結局、佐多岬半島の住民は、ひとたび伊方原発で事故が起きれば、逃げ場を失う可能性が大きい。また、周辺の瀬戸内海の島々に住む人々も、同様にして、容易に避難できない可能性がある。
そして、避難が遅れれば遅れるほど、住民の健康や生命は大きな危険にさらされることになる。
しかし、残念ながら原発周辺の住民の健康・生命への危険について十分に考慮されることなく、愛媛県や伊方町など周辺自治体は、原発再稼働に同意している。

5 福島第1原発事故で私たちが得た教訓は、いかなる原発も重大な事故を起こす可能性があり、いったん原発に事故が起きれば多くの人々の暮らしと生命に甚大な影響を与えるということである。
被爆地広島では、原爆投下によって放出された放射線により、多数の市民が病気になって苦しみ死に至った。原爆投下から70年が経過するいまもなお、多くの人々が放射線で苦しんでいる。
原発に由来する放射線は、原爆に由来する放射線と同じものである。原爆に由来すると原発に由来するとにかかわらず、放射線による被害を繰り返さないことは、この恐ろしさを身をもって知る、私たち広島に住む者の、心からの願いである。
そこで、当会は、被爆地広島の弁護士会として、愛媛県、伊方町など周辺自治体が住民の生命と健康に対する十分な配慮もせず伊方原発3号機の再稼働に同意を与えたことに強く抗議するとともに、政府が内容も不十分な新規制基準により四国電力に伊方原発3号機の再稼働を急がせること、四国電力がこれに安易に呼応してあえて危険も顧みず伊方原発を再稼働しようとしていることに強く反対する。
以上