声明・決議・意見書

勧告書・警告書2014.06.10

人権救済申立書発送許可に関する勧告書(刑務所長あて)

広島刑務所長 久保弘之 殿

広島弁護士会
会長 舩木孝和

同人権擁護委員会
委員長 原田武彦

勧告書

当会は、 A を申立人、貴所を相手方とする人権救済申立事件(平成25年第17号)について、当会人権擁護委員会による調査の結果、救済措置を講ずる必要があるとの結論に達したので、当会常議員会の議を経た上、以下のとおり勧告する。

第1 勧告の趣旨
申立人は、閉居罰の執行中であった平成25年8月6日及び同年12月9日に、当会人権擁護委員会に対する人権救済の申立を行いたいとして、貴所に対し、人権救済申立書の発送を求めたのに対し、貴所は、いずれも拒絶した。しかし、収容者が弁護士会の人権擁護委員会へ人権救済申立書を提出しようとする場合に、受罰中であることを理由としてこれを不許可にすることは、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律152条第1項6号の運用を誤ったものであり、受刑者の信書発受の自由を不当に制限する措置である。よって、今後、被収容者から人権擁護委員会に対する人権救済申立書の発送の申請があった場合には、閉居罰受罰中であっても、速やかにその発送を許可するよう勧告する。

第2 勧告の理由
1 申立の概要
(1)申立人は、閉居罰中の平成25年8月5日頃、人権救済申立書を出すために、広島刑務所に対し、受罰中の発送の許可を求める願箋を提出したところ、不許可とされた。そのため、人権救済申立書を発送するためには解罰日を待たなければならなかった。
(2)閉居罰中の平成25年12月9日頃、人権擁護委員会の調査担当者の弁護士宛てに再度人権救済申立書を発送しようとして認書の許可を求める願箋を広島刑務所に提出したところ、不許可とされた。そのため、人権救済申立書を発送するためには解罰日を待たなければならなかった。
2 調査の経緯
(1)質問書の提出
貴所に対し、平成26年1月8日に、質問書をFAXし、上記事実に関連して、以下の内容の質問を行った。
ア 一般的に貴所では、閉居罰受罰中の受刑者から人権救済申立書の発送の許可を求める行為があった場合、どのように対応しているか。
イ 申立の概要1(1)記載の事実があるか。
ウ 申立の概要1(2)記載の事実があるか。
(2)貴所からの書面による回答
平成26年1月21日に貴所を訪問したところ、貴所所長名で作成された「照会事項に係る回答について」という書面の交付があり、上記質問に対する回答として、以下の内容が記載されていた。
ア 上記(1)アの質問に対する回答
閉居罰受罰中の受刑者から人権救済申立書の発送許可の出願があった場合、その出願理由の緊急性及び必要性と、閉居罰による制限の必要性を比較考量し、許否判断を行っている。
イ 申立の概要1(1)記載の事実の有無について
申立人は、平成25年8月5日から閉居15日の懲罰が執行されていたところ、閉居罰執行中である同月6日、願箋をもって、人権擁護委員会に対する救済要請を行いたいとして、受罰中の認書(書面の作成等の行為)を願い出たが、同出願は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第152条第6号の除外事由である、弁護人等との間で信書を発受する場合及び被告人若しくは被疑者としての権利の保護又は訴訟の準備その他の権利の保護に必要と認められる場合(以下、「除外事由」という。)に該当せず、上記アの許否判断を行った結果、申立人の願意は取り計らわないとして、同日、申立人に告知している。
ウ 申立の概要1(2)記載の事実の有無について
申立人は、平成25年11月20日から閉居20日の懲罰が執行されていたところ、閉居罰執行中である同年12月9日、願箋をもって、広島弁護士会人権擁護委員会担当者に対し、補足等の文書を作成したいとして、受罰申の認書を願い出たが、同出願は、除外事由に該当せず、上記アの許否判断を行った結果、申立人の願意は取り計らわないとして、翌同月10日、申立人に告知している。
3 認められる事実
以上の調査により、貴所においては、閉居罰受罰中の受刑者から人権救済申立書の発送許可の出願があった場合、必ず発送の許可を出しているわけではなく、その出願理由の緊急性及び必要性と、閉居罰による制限の必要性を比較考量し、許否判断を行っていることが明らかとなった。
また、このような貴所の運用により、申立人が、閉居罰中の平成25年8月6日、及び、同年12月9日に、人権救済申立書を出すために、広島刑務所に対し、受罰中の発送の許可を求める願箋を提出したところ、不許可とされ、いずれも、閉居罰が終了するまで発送することができなかった事実が認められた。
4 判断
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第152条1項には、閉居罰の謹慎対象が列挙されているが、同項第6号には、「六 信書を発受すること(弁護人等との間で信書を発受する場合及び被告人若しくは被疑者としての権利の保護又は訴訟の準備その他の権利の保護に必要と認められる場合を除く。)。」との規定がなされており、閉居罰中であっても、権利の保護に必要と認められる場合には、信書の発受が認められる。
弁護士会の人権擁護委員会に対する人権救済申立書の提出は、被収容者が人権侵害を受けている場合に救済を可能にする極めて限られた方法のうちの1つである。受罰中の申立人が刑務所当局による権利侵害の事実を訴えようとしている場合に、人権侵害を行ったとされるその刑務所長が、人権救済申立書の発受の可否につき、広範な裁量を以て判断を行うことができるとする現状の運用は、人権救済申立を著しく困難にする危険性がある。
人権擁護委員会に対する人権救済申立書は、人権侵害に対する救済を求める目的で作成された信書である以上、文書の性質上まさに権利の保護に必要と認められる場合(除外事由)に該当する信書である。貴所が拒否判断を行っているという「出願理由の緊急性」や「閉居罰による制限の必要性を比較考量」という判断基準は、信書の発受につき、法律上規定されていない要件を加重して過剰に厳しく判断するものであり、かかる運用は法律上の根拠を欠く違法なものである。閉居罰受罰終了後に発送が許可されるとしても、受罰中に重大な人権侵害がなされていた場合には、人権擁護委員会による速やかな人権救済が不可能となる危険がある。
したがって、当会としては、人権救済申立書の発送の申請があった場合には、受罰中であっても、信書の発受が許可されなければならないと考える。よって、上記勧告の趣旨記載のとおり勧告する。

以上