会長声明2025.05.14
検察官が弁護人と被疑者との接見を妨害した事件に関する国家賠償請求訴訟の広島地裁判決(確定)についての会長声明
2025年(令和7年)5月14日
広島弁護士会 会長 藤川和俊
第1 声明の趣旨
当会は、
1 広島地方検察庁の検察官による接見妨害、及び同接見妨害に関する同庁の対応に対して強い懸念を表明するとともに、刑事事件の犯罪捜査を担う諸機関(以下「捜査機関」という。)に対し、弁護人及び弁護人になろうとする者(以下「弁護人等」という。)が接見申入れを行った際には、被疑者又は被告人(以下「被疑者等」という。)に対する取調べがなされているときであっても、直ちに取調べを中断して弁護人等の来訪を被疑者等へ伝達し、即時に被疑者等と弁護人等を接見させることを求め、併せて、接見の開始を遅らせるなどにより接見を妨害し、弁護人等と被疑者等との接見交通権を侵害することのないよう、強く求める。
2 広島地方検察庁の検察官による黙秘権及び弁護権侵害、及び同権利侵害に対する同庁の対応に対して強い懸念を表明するとともに、捜査機関に対し、黙秘権行使を宣明している被疑者等に対して更に発問をするなど、黙秘権及び弁護権を侵害するような取調べを行わないことを強く求める。
3 捜査機関及び裁判所に対し、刑事訴訟法第39条第3項に基づく接見指定を行うための要件についての理解を深め、接見交通権の保障を損なうことがないよう、強く求める。
第2 声明の理由
1 検察庁における違法な接見妨害事案の発生等
(1)2022年(令和4年)9月6日、当会所属の弁護士(以下「当会会員」という。)が、広島地方検察庁において、弁護人を務める被疑者との間での接見を行うため、検察官に事前に接見に行く時間を伝えた上で、広島地方検察庁に赴き、同被疑者との接見を求めた。
しかし、取調べ担当検察官は、当会会員から被疑者との接見の申し出があった後も、接見の申し出がなされていることを知りながら、これを無視し、30分以上、同被疑者に対する取調べを中断せず継続し、もって、当会会員と被疑者との接見を妨害した(以下「本件接見妨害」という。)。この取調べの間、同検察官は、被疑者に対し、弁護人である当会会員の来訪の事実も伝達せず、その上で取調べを中断せずに黙秘権行使を宣明している被疑者に対して発問を続け、被疑者の黙秘権と弁護人の弁護権を侵害した。
(2)当会は、当会会員から上記(1)の事実についての報告を受け、2 022年(令和4年)9月22日、広島地方検察庁に対し、上記⑴の接見妨害の事実関係に関する照会を行ったが、同庁は照会に対する回答を拒否した。
(3)当会会員は、2022年(令和4年)12月26日、本件接見妨害が違法であることに加え、この際に行われていた検察官による取調べが弁護権を侵害する違法なものであるとして、国に対し、国家賠償請求訴訟を提起した。
(4)これに対し、2025年(令和7年)2月26日、広島地方裁判所は、「検事は…原告(当会会員)が広島地検に到着した旨の連絡を受けた時点で、直ちに…原告に対して本件被疑者との接見を認める義務がある」「検事は…上記…の義務に違反した過失があるものというべく、本件行為は国家賠償法1条1項の適用上違法であるとの評価を免れない」として同検察官による本件接見妨害は違法であるとして、当会会員に対する損害賠償を命じた(同判決に対して控訴がなされることはなく、同判決は令和7年3月13日に確定した。以下「本判決」という。)。
2 声明の趣旨第1項について
(1)上記1(2)のとおり、当会は、事案発生直後より、広島地方検察庁に対しては、本件接見妨害事案の解明や再発防止のための照会を行い、回答を拒否されたのちは、本件接見妨害、同検察官による被疑者の黙秘権侵害に厳重抗議するとともに、検察官の職務執行の適正化に関する広島地方検察庁の姿勢に重大な疑念を生じさせる回答拒否という対応についても厳重に抗議を行った。当会は、抗議に際しては、被疑者の黙秘権を侵害した違法な取調べを継続して被疑者から供述を得るというそれ自体違法な目的を達成するために、違法な接見妨害が行われていたことが強く疑われることも指摘した。
これに対して、同庁は、当会からの抗議書への応答等の対応を行なうことはなかった。また、同庁において、これまで、接見妨害等の違法行為を自ら是正し、再発防止のための活動を行うなど動きも見られていない。
(2)そのため、声明の趣旨第1項のとおり、当会は、本件接見妨害 が違法であることを明確に指摘する本判決が確定したこの機に、広島地方検察庁の検察官による本件接見妨害、及び同妨害に対する同庁の対応に対して強い懸念を表明するとともに、今後同種の事案が発生することのないよう、同庁を含む捜査機関全般に対し、弁護人等が接見申入れを行った際には、被疑者等に対する取調べがなされているときであっても、直ちに取調べを中断して弁護人の来訪を被疑者等へ伝達し、即時に被疑者等と弁護人等を接見させること、接見の開始を遅らせるなどにより接見を妨害し、弁護人等と被疑者等との接見交通権を侵害することのないよう求めるものである。
3 声明の趣旨第2項について
(1)本判決では、同検察官の行為に基づく損害賠償金の額は、「原告が主張する他の違法事由…を前提にしたとしても、何ら異ならない。」として、同検察官の取調べにおける黙秘権侵害や弁護権侵害の有無については判断を示されなかった。
しかし、今後の検察官を含む取調官による黙秘権侵害や弁護権侵害事案の発生を防止するという観点から、同判決は、本件の検察官による取調べで、被疑者の黙秘権が侵害され、かつ、黙秘権の保障を十全なものとするための弁護人の活動を保障する弁護権が侵害されたことの問題点や違法性を明確に指摘すべきであった。
(2)黙秘権を侵害する態様の取調べにより被疑者から供述を得るという違法な目的を達成するために、本件接見妨害という更なる違法行為がなされていたとすれば、由々しき事態である。しかし、上記2(1)のとおり、広島地方検察庁には、違法行為を自ら是正し、再発防止に努めようとする姿勢は認められない。
そこで、改めて、当会は、声明の趣旨第2項のとおり、広島地方検察庁の検察官による黙秘権及び弁護権侵害、及び同権利侵害に対する同庁の対応に対して強い懸念を表明するとともに、捜査機関全般に対し、黙秘権行使を宣明している被疑者等に対して更に発問をするなど、黙秘権や弁護権を侵害するような取調べを行わないよう、強く求める。
4 声明の趣旨第3項について
(1)上記のとおり、本判決は、約30分に及ぶ本件接見妨害の違法性を明確に認定し賠償責任を明示した点においては非常に大きな意義を有する。
他方で、同判決では、同検察官が取調べをしている最中であったことをもって、「接見を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当た」り、接見指定しうる場合であったかのような判示をしたが、仮にそうであれば、この点は明らかに刑事訴訟法第39条第3項の「捜査のために必要があるとき」の解釈を誤ったものである。
(2)すなわち、同条同項にいう「捜査のために必要があるとき」とは単に取調べ中であるというだけでは足りず、接見を認めることにより、実質的に捜査に顕著な支障が生じなければならない。このような考えの下、捜査実務上、接見指定がなされるのは、極めて限られたごく一部の場合に限定されている。
したがって、取調べの最中であれば直ちに接見指定が可能であるかのような同判決の判示は、極めて不適切である。
(3)そのため、当会は、声明の趣旨第3項のとおり、捜査機関全般及び裁判所に対して、刑事訴訟法第39条第3項に基づく接見指定を行うための要件についての理解を深め、接見交通権の保障を損なうことがないよう、強く求めるものである。
以上
2025年(令和7年)5月14日
広島弁護士会 会長 藤川和俊
第1 声明の趣旨
当会は、
1 広島地方検察庁の検察官による接見妨害、及び同接見妨害に関する同庁の対応に対して強い懸念を表明するとともに、刑事事件の犯罪捜査を担う諸機関(以下「捜査機関」という。)に対し、弁護人及び弁護人になろうとする者(以下「弁護人等」という。)が接見申入れを行った際には、被疑者又は被告人(以下「被疑者等」という。)に対する取調べがなされているときであっても、直ちに取調べを中断して弁護人等の来訪を被疑者等へ伝達し、即時に被疑者等と弁護人等を接見させることを求め、併せて、接見の開始を遅らせるなどにより接見を妨害し、弁護人等と被疑者等との接見交通権を侵害することのないよう、強く求める。
2 広島地方検察庁の検察官による黙秘権及び弁護権侵害、及び同権利侵害に対する同庁の対応に対して強い懸念を表明するとともに、捜査機関に対し、黙秘権行使を宣明している被疑者等に対して更に発問をするなど、黙秘権及び弁護権を侵害するような取調べを行わないことを強く求める。
3 捜査機関及び裁判所に対し、刑事訴訟法第39条第3項に基づく接見指定を行うための要件についての理解を深め、接見交通権の保障を損なうことがないよう、強く求める。
第2 声明の理由
1 検察庁における違法な接見妨害事案の発生等
(1)2022年(令和4年)9月6日、当会所属の弁護士(以下「当会会員」という。)が、広島地方検察庁において、弁護人を務める被疑者との間での接見を行うため、検察官に事前に接見に行く時間を伝えた上で、広島地方検察庁に赴き、同被疑者との接見を求めた。
しかし、取調べ担当検察官は、当会会員から被疑者との接見の申し出があった後も、接見の申し出がなされていることを知りながら、これを無視し、30分以上、同被疑者に対する取調べを中断せず継続し、もって、当会会員と被疑者との接見を妨害した(以下「本件接見妨害」という。)。この取調べの間、同検察官は、被疑者に対し、弁護人である当会会員の来訪の事実も伝達せず、その上で取調べを中断せずに黙秘権行使を宣明している被疑者に対して発問を続け、被疑者の黙秘権と弁護人の弁護権を侵害した。
(2)当会は、当会会員から上記(1)の事実についての報告を受け、2 022年(令和4年)9月22日、広島地方検察庁に対し、上記⑴の接見妨害の事実関係に関する照会を行ったが、同庁は照会に対する回答を拒否した。
(3)当会会員は、2022年(令和4年)12月26日、本件接見妨害が違法であることに加え、この際に行われていた検察官による取調べが弁護権を侵害する違法なものであるとして、国に対し、国家賠償請求訴訟を提起した。
(4)これに対し、2025年(令和7年)2月26日、広島地方裁判所は、「検事は…原告(当会会員)が広島地検に到着した旨の連絡を受けた時点で、直ちに…原告に対して本件被疑者との接見を認める義務がある」「検事は…上記…の義務に違反した過失があるものというべく、本件行為は国家賠償法1条1項の適用上違法であるとの評価を免れない」として同検察官による本件接見妨害は違法であるとして、当会会員に対する損害賠償を命じた(同判決に対して控訴がなされることはなく、同判決は令和7年3月13日に確定した。以下「本判決」という。)。
2 声明の趣旨第1項について
(1)上記1(2)のとおり、当会は、事案発生直後より、広島地方検察庁に対しては、本件接見妨害事案の解明や再発防止のための照会を行い、回答を拒否されたのちは、本件接見妨害、同検察官による被疑者の黙秘権侵害に厳重抗議するとともに、検察官の職務執行の適正化に関する広島地方検察庁の姿勢に重大な疑念を生じさせる回答拒否という対応についても厳重に抗議を行った。当会は、抗議に際しては、被疑者の黙秘権を侵害した違法な取調べを継続して被疑者から供述を得るというそれ自体違法な目的を達成するために、違法な接見妨害が行われていたことが強く疑われることも指摘した。
これに対して、同庁は、当会からの抗議書への応答等の対応を行なうことはなかった。また、同庁において、これまで、接見妨害等の違法行為を自ら是正し、再発防止のための活動を行うなど動きも見られていない。
(2)そのため、声明の趣旨第1項のとおり、当会は、本件接見妨害 が違法であることを明確に指摘する本判決が確定したこの機に、広島地方検察庁の検察官による本件接見妨害、及び同妨害に対する同庁の対応に対して強い懸念を表明するとともに、今後同種の事案が発生することのないよう、同庁を含む捜査機関全般に対し、弁護人等が接見申入れを行った際には、被疑者等に対する取調べがなされているときであっても、直ちに取調べを中断して弁護人の来訪を被疑者等へ伝達し、即時に被疑者等と弁護人等を接見させること、接見の開始を遅らせるなどにより接見を妨害し、弁護人等と被疑者等との接見交通権を侵害することのないよう求めるものである。
3 声明の趣旨第2項について
(1)本判決では、同検察官の行為に基づく損害賠償金の額は、「原告が主張する他の違法事由…を前提にしたとしても、何ら異ならない。」として、同検察官の取調べにおける黙秘権侵害や弁護権侵害の有無については判断を示されなかった。
しかし、今後の検察官を含む取調官による黙秘権侵害や弁護権侵害事案の発生を防止するという観点から、同判決は、本件の検察官による取調べで、被疑者の黙秘権が侵害され、かつ、黙秘権の保障を十全なものとするための弁護人の活動を保障する弁護権が侵害されたことの問題点や違法性を明確に指摘すべきであった。
(2)黙秘権を侵害する態様の取調べにより被疑者から供述を得るという違法な目的を達成するために、本件接見妨害という更なる違法行為がなされていたとすれば、由々しき事態である。しかし、上記2(1)のとおり、広島地方検察庁には、違法行為を自ら是正し、再発防止に努めようとする姿勢は認められない。
そこで、改めて、当会は、声明の趣旨第2項のとおり、広島地方検察庁の検察官による黙秘権及び弁護権侵害、及び同権利侵害に対する同庁の対応に対して強い懸念を表明するとともに、捜査機関全般に対し、黙秘権行使を宣明している被疑者等に対して更に発問をするなど、黙秘権や弁護権を侵害するような取調べを行わないよう、強く求める。
4 声明の趣旨第3項について
(1)上記のとおり、本判決は、約30分に及ぶ本件接見妨害の違法性を明確に認定し賠償責任を明示した点においては非常に大きな意義を有する。
他方で、同判決では、同検察官が取調べをしている最中であったことをもって、「接見を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当た」り、接見指定しうる場合であったかのような判示をしたが、仮にそうであれば、この点は明らかに刑事訴訟法第39条第3項の「捜査のために必要があるとき」の解釈を誤ったものである。
(2)すなわち、同条同項にいう「捜査のために必要があるとき」とは単に取調べ中であるというだけでは足りず、接見を認めることにより、実質的に捜査に顕著な支障が生じなければならない。このような考えの下、捜査実務上、接見指定がなされるのは、極めて限られたごく一部の場合に限定されている。
したがって、取調べの最中であれば直ちに接見指定が可能であるかのような同判決の判示は、極めて不適切である。
(3)そのため、当会は、声明の趣旨第3項のとおり、捜査機関全般及び裁判所に対して、刑事訴訟法第39条第3項に基づく接見指定を行うための要件についての理解を深め、接見交通権の保障を損なうことがないよう、強く求めるものである。
以上