会長声明2025.05.15
未成年後見における職務代行者の報酬等の補助施策の実施を求める会長声明
2025年(令和7年)5月15日
広島弁護士会 会長 藤川 和俊
第1 声明の趣旨
当会は、
1 こども家庭庁に対し、児童虐待防止対策支援事業実施要綱を改訂し、未成年後見支援事業の一部ないし独立項目として、職務代行者に対する報酬等の補助を明示すること
2 広島県及び広島市に対し、こども家庭庁が上記のとおり実施要綱を改訂するまでの間、独自施策として、職務代行者に対する報酬等の補助を行うこと
を求める。
第2 声明の理由
1 未成年後見における職務代行者について
親権を行う者がいない事例や保護者に監護させることが適切でない事例において、未成年者の利益を守るために裁判所を通じて未成年後見人の選任を行うときに、その選任手続を待つ暇がなく緊急の対応の必要のある事案において、保全処分の申立を受けて選任されるのが職務代行者である(家事事件手続法第174条参照)。
このような職務代行者は、緊急性、必要性が高い医療行為に対し医療同意等の親権行使が必要となる場面や未成年後見人の正式な選任手続を待たずにただちに未成年者の権利保護のために活動が要請される事案において選任されている。
司法統計年報によれば、2018年(平成30年)以降では、毎年60件程度の職務代行者が選任されている。
2 児童虐待防止対策等総合支援事業について
こども家庭庁における子どもへの支援策のうち、児童虐待防止対策等総合支援事業として、事業実施主体である都道府県、指定都市、児童相談所設置市での対応を支援するために、複数のメニューを策定したうえで、児童虐待防止対策等総合支援事業費国庫補助金交付要綱を定め、必要な事業についての国庫負担が定められている。その前提となる児童虐待防止対策支援事業実施要綱の13では未成年後見人支援事業として、未成年後見人の報酬補助事業を策定しているが、これはあくまで未成年後見人の報酬補助の規定に留まっており、保全処分として選任される職務代行者の報酬については規定が漏れており、手当が定められていない状況にある。
3 職務代行者に対する報酬制度の必要性
職務代行者の役割は重要かつ負担が大きいにも関わらず、職務代行者の報酬等の援助が実施要綱に規定されていないことは、未成年後見人支援事業の本来の制度の趣旨に反し、援助対象に対する間隙が存在するものと言わざるを得ない。
その結果、行政が緊急の必要性が認められる事案において職務代行者の選任を躊躇するようなことになれば、未成年者の生命・身体の安全が十分に図られないことになりかねない。特に児童相談所と保護者の意向が対立しているような事案においては、中立的な専門家を迅速に選任する必要が高い事案も予想され、そのような場合に報酬等の助成の根拠規定がないことは、児童虐待防止のために活動する現場の選択肢を制約することになりかねない。
4 これまでの当会及び日本弁護士連合会の働きかけについて
当会は、2021年(令和3年)10月20日付けで「未成年後見における職務代行者の報酬等の補助施策の実施を求める会長声明」を発し、当時所管庁であった厚生労働省に対して是正を求めた。また、こども家庭庁発足後、日本弁護士連合会は2024年(令和6年)1月18日付けで「こども基本法を踏まえ、子どもの権利保障のために、子どもが国費・公費で弁護士による法的支援を受けられる制度構築を求める意見書」を公表し、職務代行者の報酬について国庫・公費による対応を求めている。しかし、現在に至るまでこの点については盛り込まれていない。
5 結語
このため、当会は、声明の趣旨記載のとおり、①こども家庭庁に対し、児童虐待防止対策支援事業実施要綱を改訂し未成年後見支援事業の一部ないし独立項目として、職務代行者に対する報酬等の補助を明示することを求める。また、②こども家庭庁が実施要綱を改訂するまでの間、未成年者の生命・身体の安全が脅かされてはならないことから、広島県、広島市に対しては独自施策として、職務代行者に対する報酬等の補助を行うことを求める。
以上
2025年(令和7年)5月15日
広島弁護士会 会長 藤川 和俊
第1 声明の趣旨
当会は、
1 こども家庭庁に対し、児童虐待防止対策支援事業実施要綱を改訂し、未成年後見支援事業の一部ないし独立項目として、職務代行者に対する報酬等の補助を明示すること
2 広島県及び広島市に対し、こども家庭庁が上記のとおり実施要綱を改訂するまでの間、独自施策として、職務代行者に対する報酬等の補助を行うこと
を求める。
第2 声明の理由
1 未成年後見における職務代行者について
親権を行う者がいない事例や保護者に監護させることが適切でない事例において、未成年者の利益を守るために裁判所を通じて未成年後見人の選任を行うときに、その選任手続を待つ暇がなく緊急の対応の必要のある事案において、保全処分の申立を受けて選任されるのが職務代行者である(家事事件手続法第174条参照)。
このような職務代行者は、緊急性、必要性が高い医療行為に対し医療同意等の親権行使が必要となる場面や未成年後見人の正式な選任手続を待たずにただちに未成年者の権利保護のために活動が要請される事案において選任されている。
司法統計年報によれば、2018年(平成30年)以降では、毎年60件程度の職務代行者が選任されている。
2 児童虐待防止対策等総合支援事業について
こども家庭庁における子どもへの支援策のうち、児童虐待防止対策等総合支援事業として、事業実施主体である都道府県、指定都市、児童相談所設置市での対応を支援するために、複数のメニューを策定したうえで、児童虐待防止対策等総合支援事業費国庫補助金交付要綱を定め、必要な事業についての国庫負担が定められている。その前提となる児童虐待防止対策支援事業実施要綱の13では未成年後見人支援事業として、未成年後見人の報酬補助事業を策定しているが、これはあくまで未成年後見人の報酬補助の規定に留まっており、保全処分として選任される職務代行者の報酬については規定が漏れており、手当が定められていない状況にある。
3 職務代行者に対する報酬制度の必要性
職務代行者の役割は重要かつ負担が大きいにも関わらず、職務代行者の報酬等の援助が実施要綱に規定されていないことは、未成年後見人支援事業の本来の制度の趣旨に反し、援助対象に対する間隙が存在するものと言わざるを得ない。
その結果、行政が緊急の必要性が認められる事案において職務代行者の選任を躊躇するようなことになれば、未成年者の生命・身体の安全が十分に図られないことになりかねない。特に児童相談所と保護者の意向が対立しているような事案においては、中立的な専門家を迅速に選任する必要が高い事案も予想され、そのような場合に報酬等の助成の根拠規定がないことは、児童虐待防止のために活動する現場の選択肢を制約することになりかねない。
4 これまでの当会及び日本弁護士連合会の働きかけについて
当会は、2021年(令和3年)10月20日付けで「未成年後見における職務代行者の報酬等の補助施策の実施を求める会長声明」を発し、当時所管庁であった厚生労働省に対して是正を求めた。また、こども家庭庁発足後、日本弁護士連合会は2024年(令和6年)1月18日付けで「こども基本法を踏まえ、子どもの権利保障のために、子どもが国費・公費で弁護士による法的支援を受けられる制度構築を求める意見書」を公表し、職務代行者の報酬について国庫・公費による対応を求めている。しかし、現在に至るまでこの点については盛り込まれていない。
5 結語
このため、当会は、声明の趣旨記載のとおり、①こども家庭庁に対し、児童虐待防止対策支援事業実施要綱を改訂し未成年後見支援事業の一部ないし独立項目として、職務代行者に対する報酬等の補助を明示することを求める。また、②こども家庭庁が実施要綱を改訂するまでの間、未成年者の生命・身体の安全が脅かされてはならないことから、広島県、広島市に対しては独自施策として、職務代行者に対する報酬等の補助を行うことを求める。
以上