声明・決議・意見書

会長声明2025.09.12

特定少年の実名公表及び報道を受けての会長声明

2025年(令和7年)9月12日

広島弁護士会 会長 藤川 和俊

 

第1 声明の趣旨

当会は、

1 広島地方検察庁に対し

広島地方検察庁が行った特定少年の実名公表に対して強く抗議する。

2 報道機関に対し

広島地方検察庁による特定少年の実名公表を受けて、推知報道を行った一部報道機関に対して遺憾の意を表明すると共に、少年の更生や社会復帰を阻害する推知報道がインターネット上に残ることがないように、インターネット上に掲載された記事の削除等、速やかに対応されることを要請する。

 

第2 声明の理由

1 2022年(令和4年)4月1日から「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号)が施行され、18歳又は19歳の少年(以下「特定少年」という。)について氏名、年齢、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載すること(以下「推知報道」という。)の禁止が、一部解除された(以下「本改正」という。)。

しかし、推知報道は、インターネット社会においては半永久的に特定少年の情報を閲覧でき際限なく少年のプライバシーを侵害し、少年の成長発達を妨げ、その更生や社会復帰、社会への適応を阻害するおそれが大きい。このような懸念を考慮して、本改正に際して、「特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないことの周知に努めること。」との内容の附帯決議が両院で付されている(令和3年4月16日付衆議院法務委員会附帯決議及び同年5月20日付参議院法務委員会附帯決議)。

2 当会は、これまで本改正に伴う推知報道解禁について反対の立場を表明し、特定少年の実名等の公表や推知報道が行われるおそれがある事案について、その都度会長声明を発出してきた。そして、2025年(令和7年)4月12日に広島県府中町で男性が殺害された事件に関しても、同年8月8日付けで、広島地方検察庁に対して、実名公表を極めて慎重かつ消極的に取り扱うことを求めると共に、報道機関に対して、推知報道の要否について極めて慎重に検討するよう求める会長声明を発出した。

それにもかかわらず、同年8月15日に広島地方検察庁は、上記事件について、公判請求にあたり特定少年の実名を公表した。そしてこれを受けた一部の報道機関が、特定少年の実名を含む推知報道を行っている。その際の報道によれば、広島地方検察庁は、上記事件が「重大な事案で地域に与える影響を考慮した」として実名公表に踏み切ったようである。

3 しかし、上記事件は、今後の刑事裁判によって特定少年の役割、関与の度合いなどの詳細が明らかにされるものであり、現時点で実名公表を行う必要性が高いとは言えず、広島地方検察庁において慎重な配慮を行ったとは言い難い。また、公判請求されたとしても、審理の結果、少年法第55条に基づいて広島家庭裁判所に事件が移送され保護処分となる可能性も存在する。このような観点からは、公判請求された段階で直ちに実名公表を行うことについては慎重でなければならないが、この点への十分な配慮を行ったものとは見受けられない。

加えて、本件では、共犯とされる16歳の少年についても同日に特定少年と共に公判請求され、当該少年の職業について併せて公表されている。このような公表のあり方は、本来推知報道が法律上許されていない16歳の少年についてまで、本人であることを推知することができる情報を公開するに等しい行為と言わざるを得ない。

したがって、このような広島地方検察庁の実名公表について、当会は強い抗議する。

4 また、推知報道に至った一部報道機関に対しては、推知報道の危険性を十分に認識していないものとして遺憾の意を表明せざるを得ない。広島地方検察庁が実名公表をしたとしても、少年の改善更生を妨げるような推知報道が当然に許容されるものではない。その一方で、広島地方検察庁の実名公表があったにもかかわらず、報道機関としての主体的な判断により推知報道を行わなかった報道機関が見られたことは、少年法の理念に基づき報道機関の責任ある判断を示したものとして高く評価する。

そして、推知報道を行った報道機関に対しては、上述のとおり、16歳の少年についてまで本人であることを推知することができる危険性の高い報道を行ったことを自覚し、インターネット上に推知報道が残るようなことがないようにインターネット上に掲載された記事の削除等を速やかに行うよう要請するものである。

以上