声明・決議・意見書

会長声明2025.10.09

DNA型鑑定の不正行為に関する会長声明

2025年(令和7年)10月8日

広島弁護士会 会長 藤川 和俊

 

佐賀県警察本部は、2025年(令和7年)9月8日、佐賀県警察本部科学捜査研究所に所属する技術職員が7年余りにわたりDNA型鑑定で虚偽の書類を作成するなどの不正行為を行っていたこと(以下「本件不正行為」という)を公表した。

DNA型鑑定は、現代の刑事司法において、異同識別の科学的手法であり、捜査及び公判において被疑者・被告人と犯人の同一性を立証するために用いられる証拠になり得るものである。仮にDNA型鑑定の結果が公判に証拠として提出されていなかったとしても、事件の受理、検察官の終局処分及び被疑者・被告人の身体拘束の判断などに影響した可能性は否定できない。本件不正行為はDNA型鑑定を含む科学鑑定に対する信頼を根幹から揺るがすものといえるし、全国の都道府県警察においても同様の不正行為が生じうるのかとの疑念も生じさせるものである。さらには虚偽証拠による判決は、それ自体が再審事由となり得るものであり(刑事訴訟法435条1号)、基本的人権を擁護し、真相を明らかにする役割を担う刑事司法全体への国民の信頼を裏切るものである。

この度の佐賀県警察本部科学捜査研究所の本件不正行為は、警察官及び検察官による科学捜査研究所に対する監督は機能しておらず、証拠のねつ造を見抜くことはできないという構造的欠陥を明らかにするものといえる。事前に証拠のねつ造を防止するとともに、事後に再鑑定による検証を可能にするためには、鑑定犯罪捜査の記録の管理及び鑑定試料の保管を義務付けること及びそれらについて弁護人によるアクセスを可能にして検証できるよう全面的証拠開示制度を創設することが不可欠である。

また本件不正行為のような重大な不祥事が発生した場合には、各都道府県警察、各都道府県公安委員会、警察庁のような組織ではなく、利害関係がない専門家からなる第三者委員会を速やかに設置して、その原因究明と再発防止策の提言をしてもらうべきである。

よって、当会は、法務省、最高検察庁、警察庁及び警察庁を管理する国家公安委員会に対し、第三者委員会の協力を得て、本件不正行為の原因を究明するとともに、全国各地の科学捜査研究所における同様の不正行為の有無の調査をした上で、再発防止策を策定することを求める。併せて、当会は、改めて、犯罪捜査の記録を管理及び鑑定試料等の保管を義務付けること及び全面的証拠開示制度創設の必要性を強く訴えるものである。

以上