声明・決議・意見書

会長声明2026.02.20

日本国国章損壊罪の法制化に反対する会長声明

2026年(令和8年)2月20日

広島弁護士会 会長 藤川 和俊

第1 声明の趣旨

当会は、日本国国章損壊罪を法制化することについて、以下の理由により、強く反対する。

 

第2 声明の理由

1 2025年(令和7年)10月20日、自由民主党と日本維新の会は、連立政権の合意書で、2026年(令和8年)の通常国会での「日本国国章損壊罪」(以下、「本罪」という。)の制定を掲げた。また、2025年(令和7年)10月27日、参政党は、日本を侮辱する目的で国旗その他国章を損壊する行為を罰する本罪を盛り込んだ刑法改正案(以下、「本法案」という。)を提出した。

本罪の法制化には、後述するとおり、その必要性がない。さらに、本罪が法制化されると、憲法第21条第1項に保障される表現の自由や憲法第19条の思想及び良心の自由を侵害するおそれがあり、到底容認できない。

 

2 外国旗の損壊について定めた刑法第92条は「日本と外国の間の円滑な国交を守る」ことを保護法益として定められたものであるため、その保護法益から、日本国旗の損壊について定めがないことは当然の帰結である。よって、外国国章損壊等の罪と揃えるために本罪を法制化することは、理論的に誤りである。

この点、高市内閣総理大臣は、2021年(令和3年)1月27日、自身のコラムにおいて、国旗を損壊等する行為は「『国旗が象徴する国家の存立基盤・国家作用を損なうもの』であり、『国旗に対して多くの国民が抱く尊重の念を害するもの』だと考えます。」と述べている。

参政党は、本法案を提出した理由について「日本国に対して侮辱を加える目的で、日本国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損する行為についての処罰規定を整備する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」としている。

しかし、このような国家の名誉的な利益については、刑罰をもって維持されるものではない。米国では、1990年(平成2年)に、合衆国最高裁が、連邦議会において制定された国旗保護法の適用について「国旗冒とくを罰することは、この象徴的存在をかくも崇敬され、また尊敬に値するものとせしめている自由を弱体化させる」として、違憲判決を出している。

また、他人が所有する国旗等の国章を損壊等する行為については、現行刑法の器物損壊罪や業務妨害罪などによる規定が既に存在するため、新たに刑事罰を創設する必要性もない。

以上より、本罪の法制化の必要性がない。

 

3 さらに、本罪・本法案の対象となる国旗等には、限定がないため、国旗等を、政府への抗議の表現のみならず、芸術表現や商業広告、スポーツ応援に利用する行為なども広範囲に処罰の対象に含まれる。そのため、憲法第21条第1項の表現の自由や、その根底にある憲法第19条の思想及び良心の自由を侵害するおそれがある。

国や政府に対する批判を目的として表現行為としてなされる国章の損壊等と、「日本国に対して侮辱を加える目的で」なされる国章の損壊等とを客観的に区別することは、不可能である。国旗等の国章が何を象徴するのかは一義的に明らかではない上、国旗は国家の象徴と解されているが、国家と政府は同一ではない。この意味でも、「日本国に対して侮辱を加える目的」の認定は極めて困難である。

よって、本罪が法制化された場合、表現の自由に対する重大な萎縮効果が生じることは明らかであり、民主主義の根幹を揺るがすものとなりかねない。また、処罰範囲が拡大していくおそれも強い。

 

4 以上のとおり、当会は、本罪を法制化することは、必要性もない上、表現の自由、思想良心の自由を侵害する可能性が高いことから、これに強く反対する。

 

(執行先)

内閣総理大臣、衆議院議長、参議院議長

自由民主党、日本維新の会、参政党、中道改革連合、国民民主党

社会民主党、日本共産党、れいわ新選組、日本保守党、チームみらい

 

(参考送付先)

日本弁護士連合会、各弁護士会連合会、各弁護士会、報道各社

広島県下選出の衆議院議員、参議院議員

以上