声明・決議・意見書

会長声明2021.06.11

「広島市平和の推進に関する条例(仮称)素案」に関し,市民の意見を取り入れつつ慎重かつ十分な審議を求める会長声明

2021年(令和3年)6月11日
広島弁護士会 会長 池 上  忍

第1 声明の趣旨

当会は,広島市議会に対し,現在,広島市議会政策立案検討会議が「広島市平和の推進に関する条例(仮称)素案」をほぼ原案どおりの内容で「広島市平和推進基本条例」として条例化するよう進めていることに強く抗議し,市民の意見を取り入れつつ慎重かつ十分な審議を求めるとともに,改めて,当会が本年2月12日に発した会長声明で指摘した問題点を十分に考慮のうえ,本条例案の修正等によって,市民の表現の自由を制約しないよう求める。

 

第2 声明の理由

当会は,既に本年2月12日に発した会長声明で,広島市平和の推進に関する条例(仮称)素案において,広島市が実施する平和の推進に関する施策に協力する義務を市民に課していること(第5条),また,同市が平和記念式典を「市民の理解と協力の下に,厳粛の中で」実施する旨を定めていること(第6条第2項)については,表現の自由を規制する根拠として機能しうることから賛同できない旨の意見を述べたところである。

その後,広島市議会内に設置された政策立案検討会議(以下,「検討会議」という)は,当会の意見を含め,広島市議会が募集したパブリックコメント(市民の意見)を「広島市平和の推進に関する条例(仮称)素案に対する市民意見募集に係る意見提出者数及び意見数」として取りまとめた。

しかしながら,検討会議においては,素案の修正などは全会一致を条件とする旨の申し合わせがあることを根拠として,多くの委員が,市への施策に異論を持つ市民もいる等のパブリックコメント(市民の意見)を考慮し,第5条の「市の施策に協力する」との部分を削る旨の修正提案に賛成したにもかかわらず,1人の委員の反対意見があることをもって従前の素案のまま上程されることになった。これでは,パブリックコメント(市民の意見)を求め,検討会議で議論がされた成果が反映されたとは到底いえない。また、当会が指摘した上記条例素案の各文言が表現の自由の規制根拠として機能しうることについても,そのような事態を回避するための方法や解釈に関する議論がなされた形跡は見当たらない。

繰り返しになるが,いかに第5条や第6条2項が訓示規定であり,市民に法的義務を課すものではないとしても,拡声器の利用やその他の表現方法等について現場で「理解と協力」を求められた際に,市民が訓示規定であることを指摘してこれを拒否することは困難である。そのため,当会は,本条例案の実際の運用の場面で,市民が,あたかもこれに従う義務があるかのように「理解と協力」を求められ,拡声器の使用禁止や音量抑制,デモ行進のルート変更など,表現行為の制限に服さざるを得なくなる事態が生じることを,強く危惧する。

以上より,当会は,広島市議会に対し,現在,広島市議会政策立案検討会議が「広島市平和の推進に関する条例(仮称)素案」に対する市民の意見を十分に考慮せず,審議を尽くさないまま,ほぼ原案どおりの内容で「広島市平和推進基本条例」として条例化するよう進めていることに強く抗議し,市民の意見を取り入れつつ慎重かつ十分な審議を求めるとともに,改めて,当会が本年2月12日に発した会長声明で指摘した問題点を十分に考慮のうえ,本条例案の修正等によって市民の表現の自由を制約しないよう求める。

以上