声明・決議・意見書

会長声明2022.01.12

「申述に基づく法定審理期間訴訟手続(仮称)」の新設についてさらに慎重な審議を求める会長声明

第1 声明の趣旨

法制審議会の民事訴訟法(IT化関係)部会で審議中の「申述に基づく法定審理期間訴訟手続(仮称)」を新設することについて、慎重な審議を行うことを求める。

 

第2 声明の理由

1 現在、法制審議会の民事訴訟法(IT化関係)部会(以下「法制審部会」という。)において、訴状等のオンライン化、訴訟記録の電子化等について審議され、令和3年12月、「申述に基づく法定審理期間訴訟手続(仮称)」と称する規律が提案された(以下、「本制度案」という。)。

本制度案の特徴は、当事者双方の申述あるいは一方が申述した場合の他方同意の場合に原則として裁判所が決定で6カ月(以内)の審理期間に制限する制度を新設すること、判決において判断すべき事項の記載で足りるとすること、にある。

2 本制度案の問題点

(1)本人訴訟の場合に訴訟手続選択に伴う多大な不利益が生じる可能性があること

裁判を利用する国民が手続の選択をするためには、その手続を選択した場合にどのような不利益が生じうるか等について十分な理解があることが前提であり、そのような理解がなければ誤った選択により自らの権利が侵害されるおそれがある。令和3年7月に最高裁判所が公表した裁判の迅速化に係る検証に関する報告書によると、双方に訴訟代理人が選任された割合は44.5%、原告側のみ訴訟代理人が選任された割合は44.6%、被告側のみ訴訟代理人が選任された割合は2.8%、本人のみによる割合は8.1%である。民事第一審事件のうち55.5%の事件は、双方又は一方に訴訟代理人が選任されていない状況である。

このような状況が近々大きく変化することは想定されない。弁護士である訴訟代理人を選任しない本人に十分な制度の理解があるとは通常考えられず、例えば、そのような本人が、相手方からの申述に応じて訴訟上の不利益等を考慮して適切な対応を採ることができるかどうかは疑問である。本制度案のような制度を利用する場合には、制度の理解がある弁護士である訴訟代理人の存在は不可欠であり、当事者双方に弁護士である訴訟代理人が選任されている事案に限定すべきである。

なお、本制度案の説明によると、「訴訟代理人が選任されていないケースは、特段の事情がなければ、この規律により『審理及び裁判をすることが困難であるとき』に該当し、裁判所は、当事者から申述や同意があっても、この規律による決定をすることができないと解されるのであり」とされているが、個々の裁判所の判断に委ねることは恣意的な判断になるおそれがあるし、当事者双方の申述又は同意があるにもかかわらず裁判所が決定しないこととなるかは疑問である。また、訴訟代理人を選任しておらず決定できる場合として「訴訟代理人を選任していない者が法人であり、法務担当者等を備えているケースなど、訴訟代理人が選任されているのと同視し得るような場合に限られると解される」とされているが、そうであるなら、原則的には弁護士である訴訟代理人の選任を要件としつつ、例外的な場合を認めれば足りる。

(2)裁判所の判断に対する国民の信頼喪失を招くこと

本制度案で作成される電子判決書には、裁判所は、当事者双方との間で、争点及び証拠の整理の結果に基づいて、判決において判断すべき事項を確認するものとする、電子判決書に事実を記録するには、請求の趣旨及び原因並びにその他の攻撃又は防御方法の要点を記録するものとし、理由を記録するには、当事者双方との間で確認した事項に係る判断の内容を記録するとされている。

しかし、裁判所の判決書の内容がそのような記録のみになると、適切な証拠に基づいて事実認定がなされたかどうか、主文に示された結論に至る判断過程が適切なものかどうかの検証が困難になることが予想される。裁判所の判断内容に対して疑義が生じてしまうことは国民の裁判に対する信頼を失わせることになるため、本制度案が想定する判決の記載内容には問題がある。

3 結論

訴訟制度は国民の権利に深く関わる制度であるため、制度の新設等については慎重に審議する必要があることは論をまたないが、本制度案はこれまでの当会が提出した中間試案に対する意見等にもかかわらずその問題点が解消されていない。

当会は、法制審部会に対し、本制度案には種々の問題点があるため、その新設等については、結論を急ぐのではなく、問題点の解消に向け、さらに慎重な審議を行うことを求める。

 

以上