声明・決議・意見書

意見書2022.04.20

契約書面等の電子化に関する政省令制定についての意見書

2022年(令和4年)3月23日

広島弁護士会

第1 意見の趣旨

特定商取引法及び預託法の契約書面等の電子化に関する政省令には、

1 販売業者等が契約書面等を電子化することについての消費者からの承諾の取得については、消費者の真意に基づく明示的な承諾を確保するための必要な措置を定めること

2 契約書面等の電子化は、書面の電子化に対応できる適合性を有する消費者に対してのみ行えるようにすること

3 契約書面等の電子化については、書面等の交付による場合と同程度の告知機能が確保されるよう必要な措置を定めること

4 販売業者等が契約書面等の電子交付を行った場合でも、消費者の求めがあったときには、提供した情報の書面による再交付を義務付けること

を求める。

 

第2 意見の理由

1 はじめに

「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」(令和3年法律第72号)が2021年6月16日に公布された。同法は、販売業者等が契約締結時等に交付すべき書面の交付について、消費者の承諾を得た場合に、契約書面等に代えてその記載事項の電磁的方法による提供を可能とした。

同法については、当会が2021年2月10日付け「特定商取引法の契約書面等の電子化に反対する会長声明」を発出したのを始め、多くの関係団体から書面の電子化に反対する意見書等が提出された。

また、参議院地域創生・消費者問題特別委員会の2021年6月4日付附帯決議では、与野党全会一致で政府に対し次のように要請している。

「書面交付の電子化に関する消費者の承諾の要件を政省令等により定めるに当たっては、消費者が承諾の意義・効果を理解した上で真意に基づく明示的な意思表明を行う場合に限定されることを確保するため、事業者が消費者から承諾を取る際に、電磁的方法で提供されるものが契約内容を記した重要なものであることや契約書面等を受け取った時点がクーリング・オフの起算点となることを書面等により明示的に示すなど、書面交付義務が持つ消費者保護機能が確保されるよう慎重な要件設定を行うこと。また、高齢者などが事業者に言われるままに本意でない承諾をしてしまうことがないよう、家族や第三者の関与なども検討すること」

消費者庁は、2021年7月30日から「特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会」を設け、契約書面等に代えてその記載事項について電磁的方法による提供が可能な場合の消費者からの承諾の取り方、電磁的方法による提供の在り方等を検討し、2022年春頃を目途に取りまとめを行うとしているところ、当会は、上記のようなこれまでの経緯を踏まえ、意見の趣旨記載の意見を述べるものである。なお、意見の理由について、以下に補足する。

 

2 意見の趣旨第1項について

契約書面等を電子化することは、書面交付による消費者保護機能について消費者が十分に理解しないままに、承諾するおそれがある。特に訪問販売等の不意打ち的な販売方法では、消費者が不本意に承諾を行ってしまうことも考えられる。また、本年4月からは成年年齢が18歳に引き下げられるが、若年者においては書面交付による消費者保護機能についての理解が不十分なために、安易に承諾を行ってしまう可能性も高いため、よりその危険性が増すと考えられる。

そこで、①消費者の承諾を得るにあたっては、口頭による承諾等の簡易な方法ではなく、電子メール、電子署名等での承諾を必要とする、②契約書面等の交付が原則であることや、電子書面の到達がクーリング・オフ期間の起算日であることの説明を義務付けること等、消費者が契約書面等の電子化を承諾するかを慎重に検討できるようにするべきである。

 

3 意見の趣旨第2項について

高齢者等の中には、電子化された書面に接する機会がなく、書面の電子化に対応することが想定しづらい消費者も存在するが、悪質な販売業者等が、その場でメールアドレス等を取得させる等し、電子化する書面を交付する懸念も存在する。

よって、販売業者等の勧誘前から電子化された書面を受領できる環境及び能力を有している等、書面の電子化に対応できる適合性を有する消費者に対してのみ電子化した契約書面等の交付を認めるべきである。

 

4 意見の趣旨第3項について

販売業者等による契約書面等の電子交付後に消費者の端末等で契約書面等の情報を閲覧することができなくなると、契約内容等の事後確認が困難となる他クーリング・オフ期間の起算日も曖昧となりかねない。

そこで、契約書面等の電子交付にあたっては、PDFファイルを消費者に送付する等消費者が事後に契約内容等を容易に確認できる方法にすべきである。

 

5 意見の趣旨第4項について

消費者の中には、電子化された契約書面等を受領したものの、誤ってそのデータを消去してしまうということも十分に考えられる。

また、高齢者や本年4月から成年年齢が引き下げられる若年者においては、家族等の契約者の近親者からの指摘で初めて契約者が契約内容に疑問を抱くことも多いが、その際に契約書面等が残っていなければ契約内容の確認が困難となってしまう。

よって、販売業者等が契約書面等の電子交付を行った場合でも、消費者の求めがあった時には、提供した情報の書面による再交付を義務付けることによって、そのような事態への対応も可能にするべきである。

以上