声明・決議・意見書

会長声明2022.09.14

「大崎事件」の再審請求棄却決定に抗議すると共に再審制度に関する刑事訴訟法の改正の必要性を訴える会長声明

 

2022年(令和4年)9月14日

広島弁護士会 会長 久笠信雄

 

鹿児島地方裁判所(中田幹人裁判長)は、2022年(令和4年)6月22日、いわゆる大崎事件第4次再審請求事件につき、再審請求を棄却する決定をした(以下「本決定」という)。

大崎事件は、1979年(昭和54年)10月12日、鹿児島県大崎町の農道脇に転落し、前後不覚で道路上に横臥していた「被害者(義理の末弟)」が、午後9時頃近隣住民2名によって自宅に運ばれてきたところ、原口アヤ子氏(以下「アヤ子氏」という。)が、アヤ子氏の元夫、義弟を含めた計3名で共謀して同日午後11時頃「被害者」を殺害し、翌午前4時頃、その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。逮捕時からの一貫したアヤ子氏の無罪主張にもかかわらず、確定審においては「共犯者」とされたその余の3名の自白、義弟の妻の供述を主な証拠として、アヤ子氏に懲役10年の有罪判決が下された。

アヤ子氏は満期服役後、鹿児島地方裁判所に対して、これまで3度にわたり再審請求を申し立てており、第3次再審請求では、再審請求審、即時抗告審において、いずれも再審開始決定を勝ち取った。にもかかわらず、最高裁判所第一小法廷(小池裕裁判長)が、2019年(令和元年)6月25日、「被害者」が帰宅した時点で死亡または瀕死の可能性があり、帰宅時の「被害者」の様子に関する近隣住民2名の供述が信用できない、それゆえ、「共犯者」3名の各供述の信用性に重大な疑義が生じるとした即時抗告審の決定は、法医学鑑定の問題点やそれに起因する証明力の限界を十分に考慮していないから「取り消さなければ著しく正義に反する」として、地方裁判所、高等裁判所のした再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却するという前代未聞の決定をした。当会は、2019年(令和元年)8月に、第3次再審の最高裁決定について、同決定こそが「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に反する「著しく正義に反する」ものであり、我が国の刑事司法の在り方自体に重大な悪影響を及ぼす可能性があると非難する会長声明を出している。

このような第3次再審の最高裁決定があっても、アヤ子氏やその弁護団は、不屈の思いで、2020年(令和2年)3月30日、死亡時期について救命救急医の鑑定書、近隣住民2名の供述鑑定書を新証拠として、第4次再審請求を申し立てた。

これに対し、第4次再審請求審の鹿児島地方裁判所は、申立てから2年弱という期間で5名の鑑定人の証人尋問を行い、現地での進行協議期日を実施する等の積極的な訴訟指揮を行ったが、結果としては、最高裁判所の決定に追従し、再審請求を棄却したのである。

本決定は、新旧全証拠の総合評価を適切に行っておらず、白鳥・財田川決定に明らかに違反しているほか、死亡時期に関する検討も不十分であって、到底是認できない。

そして、大崎事件においては、現行の刑事訴訟法における再審制度の問題点が如実に浮き彫りになっている。

第1に、現行の再審制度は、証拠開示に関する規定が設けられていないため、担当する裁判体によって、証拠開示に関する訴訟指揮について、極端な差異(いわゆる「再審格差」)が生じてしまう。大崎事件においても、第二次再審では、即時抗告審(福岡高裁宮崎支部)の裁判体は、検察官に対し、書面による証拠開示の勧告を行い、その結果、多数の証拠開示がなされた一方で、原審である再審請求審(鹿児島地裁)の裁判体は、そのような訴訟指揮は行わなかったため、証拠開示が行われていない。

第2に、大崎事件においては、これまで3度も再審開始決定を受けているにもかかわらず、検察官により繰り返される即時抗告、特別抗告によって、徒らに審理の長期化がもたらされてしまっている。このような状態は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に反していると言わざるを得ない。

冤罪被害者の救済のためには、再審請求手続における全面的な証拠開示制度の実現と検察官による不服申立ての禁止などの刑事訴訟法改正を実現する必要がある。特に、現在95歳のアヤ子氏が再審開始決定を勝ち取るためには、直ちに上記のような刑事訴訟法の改正が実現される必要がある。当会は、このような再審制度に関する刑事訴訟法の改正に向けて、不断の努力を続けていく所存である。

以上