声明・決議・意見書

会長声明2022.10.05

産業廃棄物処理施設の設置について環境配慮手続条例の制定を求める会長声明

2022年(令和4年)10月5日

 

広島弁護士会会長 久笠 信雄

 

第1 声明の趣旨

第1 声明の趣旨

当会は、広島県、広島市、福山市、呉市に対して、産業廃棄物処理施設の設置について、以下の内容を含む環境配慮手続条例の制定を求める。

① 産業廃棄物処理施設の設置許可申請に先立ち,事業者に対し以下の義務を課すこと

ア 事業計画を策定すること

イ 産業廃棄物処理施設の設置が周辺の環境に及ぼす影響について調査すること

ウ 上記アの事業計画及びイの調査結果を許可権者に提出すること

② 産業廃棄物処理施設の設置許可申請に先立ち,以下の内容を含む制度を設けること

ア 上記①アの事業計画及び①イの調査結果について関係市町村長に通知するとともに、周辺住民に対して周知すること

イ 事業者による周辺住民への説明会の開催や、周辺住民を含む第三者による意見書の提出の機会の確保、事業者による見解書の提出義務等、環境影響についての意見及び情報交換のための手続を設けること

③ 上記①及び②の手続の実効性確保のための制度を設けること

 

第2 声明の理由

1 廃棄物処理施設による環境被害を防止する必要性

現在広島県内には多数の産業廃棄物最終処分場が設置されている。その設置数は、令和3年3月付けの「産業廃棄物行政組織等調査報告書」(環境省環境再生・資源循環局廃棄物規制課)によれば、平成30年度実績で80である。

これは、北海道、愛知県に次ぐ全国三位の設置数である。

さらに、安定型産業廃棄物最終処分場(以下「安定型処分場」という。)に限っていえば、広島県内における設置数は57か所であり、北海道に次ぐ全国二位の設置数となっている。

安定型処分場は、金属くず、廃プラスチック類などいわゆる安定5品目と呼ばれる産業廃棄物を受け入れ対象としている。安定5品目は有害物や有機物の付着がなく、安易に科学的変化を起こさず、周辺環境へも影響を及ぼさないことが前提とされ、簡易な処分が認められている。しかし、実際には、安定型処分場は、周辺地域住民との間で環境汚染問題へと発展しやすい。実際にも、訴訟へ発展し、安定型処分場から有害物質が漏出していることが明るみになった事案も存在する。

このような状況を踏まえ、日本弁護士連合会においては、「安定型産業廃棄物最終処分場が今後新規に許可されないよう求める意見書」を2007年に発出している。

このような全国的な状況、及び先にも述べた我が県の現状を踏まえると、安定型処分場も含め、産業廃棄物処分場の設置を巡っては、環境被害の防止と環境保全について細心の注意が払われるべきである。

2 産業廃棄物処理施設設置に関する手続条例の必要性

上記のような観点からは、産業廃棄物処分場の設置に際して、周囲の環境影響に配慮する手続規制が重要となる。なぜなら、許可基準などの実体的な規制はどうしてもある程度画一的な基準にならざるを得ず、個別の施設や立地環境に応じた細やかな配慮を実体的な規制のみで実現することには限界があるからである。

そのため、処分場の種類、面積、埋め立て容量、受け入れ予定廃棄物の種類等の個別具体的な事業計画の内容や、処分場設置予定地周辺の地形、自然環境、周辺住民の生活環境等の個別具体的事情を踏まえた環境配慮を行うためには、産業廃棄物処分場の設置の際の手続き規制が重要となる。具体的には、事業者が周辺住民や行政との間で十分な情報・意見交換を行うことによって、相互に連携を図りつつ、処分場予定地の周辺環境を十二分に理解し、また住民側も処分場の事業計画をよく理解したうえで、これを前提として事業者の計画について必要があれば適宜環境配慮のために計画を修正していくという手続的な担保が重要となるのである。

3 産業廃棄物処理施設設置手続きについての法規制

(1) 法律上の規制

上記のような観点から、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)においても、1997年の同法改正時に廃棄物処理施設設置に際して以下のような手続規定が定められた。

すなわち、施設設置の基準として、施設の周辺地域の生活環境の保全への適正な配慮がなされることを要求するとともに(廃棄物処理法第15条の2)、ミニアセスと呼ばれる生活環境影響調査の実施が要求されることとなった(同法第15条第3項)。

生活環境の保全への適正な配慮がなされているかどうかについては、環境省は生活環境影響調査の結果により判断するものと捉えているようである(「廃棄物処理法等の一部改正について」(平成10年5月7日衛環37号)「第2の1、2)。

(2) 生活環境影響調査の問題点

しかし、廃棄物処理法の定める生活環境影響調査には、以下のような点で限界がある。

すなわち、まず、生活環境保全という廃棄物処理法の目的との関係で自然環境が調査対象に含まれない。

また、生活環境影響調査の結果は、産業廃棄物処理施設設置の許可申請書とともに公衆の縦覧に供されることになるが(同法第15条第4項)、施設設置の計画段階における情報提供は義務付けられていない。そのため、行政や、地域住民へ計画が周知されるタイミングが遅くなり、事業者との早期の柔軟な意見調整のための手続き的担保がない。

さらに、住民に対する説明会の開催や、住民からの意見書に対する事業者の見解書の提出、住民側と事業者側の意見調整の手続きも担保されていない。

そのため、事業者と、許可権者となる行政、周辺住民との連携が十分に図れず、個別具体的な事業内容や周辺環境に照らした環境配慮にとって不十分である。生活環境影響調査制度には自ずと限界がある。

このような限界のため、廃棄物処理法上の生活環境影響調査の制度は必ずしも期待された役割を果たせていない。このことは、下記に述べるように、同制度が設けられた後も、廃棄物処理施設の設置に関する独自条例を置く地方自治体が多数存在していることからも裏付けられている。

(3) 独自条例について

ア 各地の条例制定状況について

廃棄物処理法上、産業廃棄物処理施設設置の許可は、都道府県知事の他、政令指定市や中核市、及びその他の一部の市の長の権限とされている。これらのうち、当会において、全国47都道府県宛てに、産業廃棄物処理施設設置に関する独自の手続き条例の有無について2021年12月にアンケートを行ったところ、44件の回答が得られた。そのうち15件が独自の条例を設けているとのことであった。

条例の内容は様々であるが、上記で指摘した廃棄物処理法上の生活環境影響調査の不十分な点を補うものが多い。詳細は下記のとおりである。

イ 独自の手続き条例の内容について

(ア) 許可申請前に事業計画を明らかにさせるための制度

ⅰ 許可権者に対する事業計画書等の提出

前述のように、廃棄物処理法上の生活環境影響調査では、許可申請より前の事業計画段階において、許可権者が事業計画の概要を把握する手段が担保されていない。

この弱点を補うため、許可申請前に、事業者が許可権者に対して事業計画書を提出することを義務付けるなど、事業計画の内容を明らかにするタイミングを前倒しすることを求める条例が多数見られた。独自条例を設ける都道府県15件のうち93%にあたる条例(当会の実施したアンケートに基づいて独自の手続き条例を設けていることが確認できた15件中に占める割合を指す。以下同じ。)でこのような規定が設けられていた。

ⅱ 周辺地域住民等に対する周知

また、事業計画の内容について周辺地域、関係地域の住民らに対し広告・縦覧や説明会の開催等の方法によって周知させるべきことを要求している条例は13件(86%)であった。

(イ) 意見調整に関する制度

ⅰ 意見調整のための手続き

事業者と、周辺地域・関係地域住民との間で環境保全の観点からの見解の対立がみられる場合などに、両者の意見を調整するための手続きとして、地域住民等が事業者に対して協定の締結を求めることができる旨の規定や、またそのような求めがあった場合は事業者は誠実に対応しなければならないという努力義務を課す規定、許可権者に対してあっせんを求めることができる旨の規定等、事業者と地域住民との間の意見調整に関する手続きを求める条例が多数見られた。

このような意見調整のための手続きを求める条例は、14件(93)%であった。

ⅱ 見解書の手続き

上記の意見調整のための手続きとも関連するが、事業者に対して見解書の提出を義務付ける条例も8件(53%)見られた。

すなわち、廃棄物処理法上、地域住民等は産業廃棄物処理施設設置に関して意見書を提出する機会は与えられているが、これに対して事業者が回答する義務は課されていないため、意見書に対して事業者がどのような判断をしたのかが必ずしも明らかにならない。そこで、地域住民等による意見書の提出に対して、事業者が見解書を提出することを義務付ける制度を採用したものと思われる。

これにより、意見書に示された環境保全上の意見に対して、事業者において事業計画の修正の要否等をどのように判断したのかが明らかになるとともに、その判断の合理性を検討するための資料が得られることになる。

(ウ) 許可・不許可の判断への反映

また、いくつかの条例では、独自条例による手続きの経過、結果を、法律の定める許可、不許可の要件該当性の判断にリンクさせているものもみられた(5件、33%)。

すなわち、手続条例で事業者に課される手続きを経ずに産業廃棄物処理施設の設置許可申請がなされたような場合に、当該申請について、廃棄物処理法上の許可要件である、「周辺地域の生活環境の保全及び環境省令で定める周辺の施設について適正な配慮がなされたものであること」(同法第15条の1第1項第2号)との要件を満たさないものとして不許可とできる旨を規定する条例や、あるいは、「申請者の能力がその産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画に従つて当該産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に、かつ、継続して行うに足りる」(同法第15条の1第1項第3号)との要件を満たさないものとして不許可とできる旨の規定を設ける条例がみられた。

(エ) その他

また、事業者が手続条例に従わない場合に、手続きに従うように勧告できる旨や、公表ができる旨を明文で設ける条例が多数見られた(12件、80%)。条例で定める手続きの履行確保のための手段を設けることが必要であるとの認識に基づいて、上記のような規定が創設されたものと思われる。

4 広島県、広島市、福山市、呉市において独自の手続条例が存しないこと

冒頭で述べたように、広島県内に多数の産業廃棄物最終処分場が設置されている現状からすれば、施設設置による環境影響に対する配慮はより慎重に行われなければならない。

ところが、広島県、広島市、福山市、呉市においては、産業廃棄物処理施設設置に関する事前手続きについての条例は設けられていない。広島県、広島市、福山市においては、要綱は設けられているが、要綱は、行政指導の一環であり、これに従うか従わないかは事業者の任意である。そのため、手続き条例を要綱の形で定めたとしてもその実効性に欠ける場面が生じることは避けられない。

したがって、廃棄物処理施設設置の際における環境配慮を十分なものにするためには、条例の形で環境配慮のための手続きが定められるべきである。

5 結論

以上により、声明の趣旨記載のとおり、広島県、広島市、福山市、呉市に対して、廃棄物処理施設設置の際における環境配慮手続条例の制定を求める。

以上

 

〈執行先〉

広島県知事、広島市長、福山市長、呉市長

広島県議会、広島市議会、福山市議会、呉市議会

 

以上