声明・決議・意見書

会長声明2023.03.23

G7広島サミットに際し核兵器禁止条約への署名・批准等を求める会長声明

<執行先>
内閣総理大臣
<参考送付先>
 衆参議院議長、広島選出の国会議員、メディア、日弁連、各単位会
 G7広島サミット参加国(仏、米、英、独、伊、加)大使館、広島県知事、広島市長

2023年(令和5年)3月22日
広島弁護士会 会長 久 笠 信 雄

第1 声明の趣旨

当会は、核兵器廃絶のため、G7広島サミットに際して日本政府に対し、速やかに核兵器禁止条約に署名・批准することを求める。また、核兵器禁止条約の締約国会議が開催されるときは、たとえ未署名であったとしても、核保有国との橋渡しのためにオブザーバーとして参加し、核兵器廃絶のため積極的に関与することを求めるとともに、日本政府が、G7参加国に対し、核兵器廃絶に向けて積極的に働きかけることを求める。

 

第2 理由

1 G7広島サミットの開催

2023年(令和5年)5月19日から21日、広島においてG7サミット(主要国首脳会議)が開催される予定である。そこでは、仏、米、英、独、日、伊、加(議長国順)の7か国並びに欧州理事会議長及び欧州委員会委員長が参加して、自由、民主主義、人権などの基本的価値を共有するG7首脳が世界経済、地域情勢、様々な地球規模課題について、意見交換を行うとされている。

そこで当会は、被爆者たちに「安らかに眠ってください。過ちは二度と繰り返しませんから」と誓った被爆地広島の弁護士会として、以下の理由により、G7サミットを広島の地で開催する意義を踏まえ、日本政府に対し、上記声明の趣旨のとおり求める。

2 核抑止論は日本国憲法と相容れないこと

G7広島サミットの議長を務める広島選出の岸田首相は、G7サミットを被爆地広島の地で開催するにあたり、核軍縮・不拡散についても議論を深め、議長国として主導していきたいとしている。

しかし日本は、2017年(平成29年)7月に国連において122か国の賛成の下に採択され、2021年(令和3年)1月22日発効した核兵器禁止条約に署名・批准していない。

そればかりか、現在日本政府は、「核兵器の使用をほのめかす相手に対しては通常兵器だけでは抑止を効かせることは困難であるため、…核兵器を有する米国の抑止力を維持することが必要」として、「核兵器を直ちに違法化する条約に参加すれば、米国による核抑止力の正当性を損ない、国民の生命・財産を危険に晒すこと…になりかねず、日本の安全保障にとっての問題を惹起」するなどとして、核兵器禁止条約には署名しないと表明している。

日本国憲法は、前文において、「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意し」、第9条において、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定する。核兵器の使用をちらつかせる核抑止論は、特に、武力による威嚇」を放棄している日本国憲法とは相容れない。核抑止論は、核兵器の使用を前提とする議論であり、その抑止が崩れると核兵器が使用され、人類が滅亡する危険性を有する。また、意図的ではなくとも、人為的ミスや誤作動により核兵器が使用される可能性もあり、これまでも実際に、核攻撃があったとする装置の誤作動により核戦争の勃発寸前にいたったこともある。

核兵器禁止条約は、核兵器が再び使用されないことを保証する唯一の方法は、核兵器を完全に廃絶することにあるとするものであって、合理性と正当性が認められ、上記日本国憲法と合致する。

さらに、2000年の核不拡散条約(NPT)再検討会議では、「核兵器の完全廃棄への核兵器保有国の明確な約束」が盛り込まれた最終文書が採択されており、2010年の同会議の最終文書においてもこの内容が確認されている。G7広島サミットの参加国であり核保有国である米、英、仏もこれに参加しているのであり、日本政府はG7広島サミットにおいて、核兵器廃絶に向けて一歩でも前進するため、参加国に対し、積極的に働きかけるべきである。

3 核兵器の廃絶が唯一の戦争被爆国である日本の責務であること

日本は、広島と長崎への核攻撃による被爆、そしてビキニ環礁における核実験による被爆を経験した、世界唯一の戦争被爆国である。核兵器は、熱戦・衝撃波・爆風により一瞬で数多くの人々の命を奪うばかりではなく、核分裂により放出される放射線は、長期間にわたって人体に影響をもたらす。戦後78年が経過しようとする現在においても、未だ多くの被爆者が苦しんでいる。

日本政府は、これら被爆者の受けた被害から目を背けることなく、二度と同様の経験を人類に与えることのないようにと願う被爆者の思いに応え、核兵器の廃絶に向けた行動を取るべき責務がある。 被爆地広島でG7を開催する意義は、『核兵器のない世界』の実現にあり、まず日本政府が、速やかに核兵器禁止条約に署名し、批准するべきである。それが「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占める」(日本国憲法前文)ことにもつながる。

仮に批准していなくとも、日本政府は、締約国会議にオブザーバー参加し、核保有国との橋渡しを行い、核兵器廃絶のため積極的に関与するべきである。実際、G7サミット参加国のドイツはNATO加盟国であるが、2022年6月の締約国会議にオブザーバー参加、核兵器廃絶に向けての意見を述べている。

岸田首相も、2023年1月13日のバイデン大統領との会談で、「核兵器の惨禍を二度と起こさないとG7首脳と発信したい」と述べている。

4 結論

当会は、これまでも、2020年(令和2年)10月26日に会長声明を、2021年(令和3年)1月26日に会長談話を発出、日本政府に対し、核兵器禁止条約への署名・批准等を繰り返し求めてきた。

この度はさらに、G7サミットを世界最初の被爆地である広島で開催することの意義に鑑み、核兵器の廃絶に向けて、G7広島サミットに際して日本政府に対し、速やかに同条約に署名・批准するよう求める。また同条約の締約国会議が開催されるときは、たとえ未署名であったとしても、核兵器廃絶のためにこれに参加し積極的に関与するとともに、日本政府が、参加国に対し、核兵器廃絶に向けて積極的に働きかけることを求める。

 

以上