その他2025.05.03
憲法記念日を迎えるに当たっての会長談話
2025年(令和7年)5月3日
広島弁護士会 会長 藤 川 和 俊
1 本日は、1947年(昭和22年)5月3日に日本国憲法が施行されてから78回目の憲法記念日です。
今から80年前の1945年(昭和20年)8月6日、広島に人類史上初めての原子爆弾が投下され、同月9日には長崎にも投下されました。この2発の原子爆弾により、おびただしい人の命が失われ、生き残った人も被ばくによる甚大な被害を受けました。
原爆投下後間もない同年8月10日、日本は連合国に無条件降伏してポツダム宣言を受諾し、連合国軍の占領下において、公布・施行されたのが日本国憲法です。日本国憲法は、第二次世界大戦の悲惨さを体験し、二度と政府の行為によってこのような過ちを繰り返さないという反省に基づき、前文において全世界の国民が平和のうちに生存する権利を有することを確認し、第9条において平和主義を規定し、戦争と戦力の放棄を宣言しました。
2 しかし、海外に目を向けると、2022年(令和4年)2月24日にはロシア連邦がウクライナに対し軍事侵攻を開始し、2023年(令和5年)10月7日にはガザ地区を拠点とするハマス等パレスチナ武装勢力がイスラエル南部を攻撃し、イスラエルがガザ地区に対する大規模な報復攻撃を開始するなど、現在においても戦禍による犠牲者は増えるばかりであり、多くの人々が苦しんでいます。
人類は、平和な世界を望み、平和を目指す国際的な動きは様々あるものの、世界から争いは無くなっていません。
3 日本においても、日本国憲法の理念が実現されているのか、大変危うい状況があります。
2015年(平成27年)9月19日には、集団的自衛権の行使を容認する安保関連法が国会で強行採決され、2022年(令和4年)12月16日には、敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有し活用する方針が明記された、いわゆる安保三文書の改定を、政府は閣議決定しました。
これに伴い、2023年度(令和5年度)から2027年度(令和9年度)までの5年間で43兆円もの巨額の防衛予算を計上する方針とし、これに従って既に2023年度(令和5年度)には6兆8219億円、2024年度(令和6年度)には7兆9496億円もの巨額の防衛予算が計上されています。
このような情勢を踏まえて、現在を「新しい戦前」という言葉を用いて表現されるなど、現在は戦後ではなく戦前なのではないかという声もあります。
4 しかし、不安定な世界情勢の時代にこそ必要なことは、軍拡ではなく、日本国憲法の理念を実践することです。第二次世界大戦の悲惨さを体験し、世界唯一の戦争被爆国となった日本は、二度とこのような過ちを繰り返さないという反省と誓いに基づき、平和主義を基本原理とし、戦争と戦力の放棄を宣言した日本国憲法を制定したはずです。軍拡の道に進むことは、憲法第9条1項において「武力による威嚇又は武力の行使」を放棄し、同条2項において「陸海空軍の戦力を認めない」とする日本国憲法とは相容れません。
特に、核兵器の使用を前提とする核抑止論は、その抑止が崩れると核兵器が使用され、人類が滅亡する危険性を有するものです。また、人為的ミスや誤作動により核兵器が使用される可能性もあり、これまでも実際に、装置の誤作動により核戦争の勃発寸前に至ったこともあります。この歴史から改めて学び、軍拡ではなく、世界から争いを無くし、また、二度と政府の行為によって戦争の惨禍を招かない為に、日本はどう行動するべきなのかについて冷静に判断することが必要です。
5 当会は、被爆地ヒロシマの弁護士会として、これまでも、安保関連法、安保3文書は憲法第9条等に反するものであり、許されないと訴えてきました(2016年(平成28年)2月24日会長声明、2023年(令和5年)2月22日会長声明)。さらに、ロシア連邦によるウクライナ侵攻を非難する声明を発出し(2022年(令和4年)3月1日会長声明)、核兵器根絶の推進を重ねて訴えてきました(2020年(令和2年)10月26日会長声明、2021年(令和3年)1月26日会長談話、2023年(令和5年)2月23日会長声明、2024年(令和6年)1月22日会長声明)。
また、日本原水爆被害者団体協議会が2024年(令和6年)のノーベル平和賞を受賞したことを受け、2025年(令和7年)3月26日には、核兵器禁止条約の署名・批准を求める会長声明を発出しています。
6 憲法記念日を迎えるにあたり、被爆地ヒロシマの弁護士会として、二度と戦争の惨禍を繰り返さず、核兵器廃絶を実現する為に、提言や意見表明などを通じて、日本国憲法の理念が社会に行き渡るよう、今後も活動を続けていくことを表明します。
以上
2025年(令和7年)5月3日
広島弁護士会 会長 藤 川 和 俊
1 本日は、1947年(昭和22年)5月3日に日本国憲法が施行されてから78回目の憲法記念日です。
今から80年前の1945年(昭和20年)8月6日、広島に人類史上初めての原子爆弾が投下され、同月9日には長崎にも投下されました。この2発の原子爆弾により、おびただしい人の命が失われ、生き残った人も被ばくによる甚大な被害を受けました。
原爆投下後間もない同年8月10日、日本は連合国に無条件降伏してポツダム宣言を受諾し、連合国軍の占領下において、公布・施行されたのが日本国憲法です。日本国憲法は、第二次世界大戦の悲惨さを体験し、二度と政府の行為によってこのような過ちを繰り返さないという反省に基づき、前文において全世界の国民が平和のうちに生存する権利を有することを確認し、第9条において平和主義を規定し、戦争と戦力の放棄を宣言しました。
2 しかし、海外に目を向けると、2022年(令和4年)2月24日にはロシア連邦がウクライナに対し軍事侵攻を開始し、2023年(令和5年)10月7日にはガザ地区を拠点とするハマス等パレスチナ武装勢力がイスラエル南部を攻撃し、イスラエルがガザ地区に対する大規模な報復攻撃を開始するなど、現在においても戦禍による犠牲者は増えるばかりであり、多くの人々が苦しんでいます。
人類は、平和な世界を望み、平和を目指す国際的な動きは様々あるものの、世界から争いは無くなっていません。
3 日本においても、日本国憲法の理念が実現されているのか、大変危うい状況があります。
2015年(平成27年)9月19日には、集団的自衛権の行使を容認する安保関連法が国会で強行採決され、2022年(令和4年)12月16日には、敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有し活用する方針が明記された、いわゆる安保三文書の改定を、政府は閣議決定しました。
これに伴い、2023年度(令和5年度)から2027年度(令和9年度)までの5年間で43兆円もの巨額の防衛予算を計上する方針とし、これに従って既に2023年度(令和5年度)には6兆8219億円、2024年度(令和6年度)には7兆9496億円もの巨額の防衛予算が計上されています。
このような情勢を踏まえて、現在を「新しい戦前」という言葉を用いて表現されるなど、現在は戦後ではなく戦前なのではないかという声もあります。
4 しかし、不安定な世界情勢の時代にこそ必要なことは、軍拡ではなく、日本国憲法の理念を実践することです。第二次世界大戦の悲惨さを体験し、世界唯一の戦争被爆国となった日本は、二度とこのような過ちを繰り返さないという反省と誓いに基づき、平和主義を基本原理とし、戦争と戦力の放棄を宣言した日本国憲法を制定したはずです。軍拡の道に進むことは、憲法第9条1項において「武力による威嚇又は武力の行使」を放棄し、同条2項において「陸海空軍の戦力を認めない」とする日本国憲法とは相容れません。
特に、核兵器の使用を前提とする核抑止論は、その抑止が崩れると核兵器が使用され、人類が滅亡する危険性を有するものです。また、人為的ミスや誤作動により核兵器が使用される可能性もあり、これまでも実際に、装置の誤作動により核戦争の勃発寸前に至ったこともあります。この歴史から改めて学び、軍拡ではなく、世界から争いを無くし、また、二度と政府の行為によって戦争の惨禍を招かない為に、日本はどう行動するべきなのかについて冷静に判断することが必要です。
5 当会は、被爆地ヒロシマの弁護士会として、これまでも、安保関連法、安保3文書は憲法第9条等に反するものであり、許されないと訴えてきました(2016年(平成28年)2月24日会長声明、2023年(令和5年)2月22日会長声明)。さらに、ロシア連邦によるウクライナ侵攻を非難する声明を発出し(2022年(令和4年)3月1日会長声明)、核兵器根絶の推進を重ねて訴えてきました(2020年(令和2年)10月26日会長声明、2021年(令和3年)1月26日会長談話、2023年(令和5年)2月23日会長声明、2024年(令和6年)1月22日会長声明)。
また、日本原水爆被害者団体協議会が2024年(令和6年)のノーベル平和賞を受賞したことを受け、2025年(令和7年)3月26日には、核兵器禁止条約の署名・批准を求める会長声明を発出しています。
6 憲法記念日を迎えるにあたり、被爆地ヒロシマの弁護士会として、二度と戦争の惨禍を繰り返さず、核兵器廃絶を実現する為に、提言や意見表明などを通じて、日本国憲法の理念が社会に行き渡るよう、今後も活動を続けていくことを表明します。
以上