声明・決議・意見書

会長声明2025.05.27

日本学術会議法案に反対する会長声明

2025年(令和7年)5月27日

広島弁護士会 会長 藤川 和俊

第1 声明の趣旨

当会は、2025年(令和7年)3月7日、政府が国会に提出した日本学術会議法案(以下「本法案」という。)について、学問の自由を堅守する観点から、以下の理由により、これに反対し、衆議院での本法案可決に強く抗議するとともに、良識の府である参議院において十分な審議を行い、その問題点を明らかにした上、廃案とすることを求める。

 

第2 声明の理由

1 政府は、現行の日本学術会議法(以下「現行法」という。)を改正し、国の特別の機関として1949年(昭和24年)1月に設立された日本学術会議を廃止し、特殊法人「日本学術会議」(以下「新法人」という。)を新設すること等を定める本法案を国会に提出した。同法案は2025年(令和7年)5月13日、衆議院本会議で可決された。

法律の改変には、その必要性・正当性を根拠づける立法事実が必要であるが、現在の日本学術会議を廃止しなければならない立法事実は示されていない。さらに、本法案は、日本学術会議の独立性を失わせ、憲法第23条に保障された学問の自由を侵害するものであり、到底容認できない。

2 日本国憲法第23条が学問の自由を特に保障している趣旨は、大日本帝国憲法の時代に、国家権力が学問の自由を侵害し、滝川事件や天皇機関説事件など、研究者に対する弾圧がなされ、その結果科学者が戦争に協力させられる体制がつくられた歴史を反省し、学問に対する国家権力の介入を排除することにある。

3 現行法は、このような歴史的背景と憲法第23条に基づいて、日本学術会議は「独立して・・・職務を行う」(現行法第3条)と規定されたものである。すなわち、「科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし」(現行法前文)、「わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的」(現行法第2条)として、1949年(昭和24年)に国の特別の機関として設立された。以降、日本学術会議は、独立して、科学的根拠に基づいた知見をもって、時の政府や社会に対し、提言等を行う重要な役割を担ってきた。そのため、日本学術会議は、ナショナルアカデミーとしての5要件である、①学術的に国を代表するための地位、②そのための公的資格の付与、③国家財政支出による安定した財政基盤、④活動面での政府からの独立、⑤会員選考における自主性・独立性、を満たす必要があるとの一貫した考えの下に、運営されてきた。

これまで培ってきた日本学術会議の独立性・自律性は堅持されなければならない。

4 本法案の最大の問題点は、運営の独立性、人事、財政の独立性を害し、日本学術会議が「独立して」(現行法第3条)職務を行うことを阻み、政府を含む外部の介入を許容する新たな仕組みが幾重にも盛り込まれていることである。

まず、運営の独立性については、①中期的な活動計画や年度計画の作成、予算の作成、組織の管理・運営などについて意見を述べる運営助言委員会(本法案第27条、第36条)、②中期的な活動計画の策定や業務の実績等に関する点検・評価の方法・結果について意見を述べる日本学術会議評価委員会(本法案第42条第3項、第51条)の設置により、運営の独立性が害される可能性が高い。

また、人事について、①学術会議の会員は新法人の会員となるが3年後には再任されず(本法案附則第11条)、現在の日本学術会議との連続性が絶たれることになる。新法人が発足する際の会員については、②会員予定者を選考する候補者選考委員会の委員の任命にあたって、内閣総理大臣が指名する有識者と協議しなければならず(本法案附則第6条第5項)、③その後の会員の選定については選定助言委員会が意見を述べることとされており(本法案第26条、第31条)、人事の独立性が害される可能性が高い。

さらに、財政の独立性については、これまで日本学術会議は、国の特別の機関とされ、財政については国庫の負担とされていたが(現行法第1条第3項)、新法人は特殊法人とされ、政府の財政措置は補助にとどまるとされた上、内閣総理大臣が任命し、業務を監査して監査報告を作成し、業務・財産の状況の調査等を行う監事(第19条、第23条)が設置されることにより、財政の独立性が害される可能性が高い。

以上より、本法案は日本学術会議の独立性・自律性を害する可能性が非常に高いものである。

5 今回の改正法は、2020年(令和2年)10月1日、当時の菅内閣総理大臣による任命拒否問題を端緒として、立法事実がないにもかかわらず日本学術会議の組織改編についての議論が開始された結果である。この任命拒否に対して当会は、2020年(令和2年)11月12日、「日本学術会議の新規会員任命拒否に対する会長声明」を発出し、強く抗議するとともに、任命拒否を撤回することを求めた。

本法案が成立すれば、学術会議は、独立性を失って戦前のように軍事研究をはじめ政府の意向に沿う方向に動員されるおそれがあり、学問の自由を奪うばかりか、学術の衰退をもたらすおそれがある。

よって、当会は、現在の日本学術会議を廃止する立法事実はなく、本法案は日本学術会議の独立性・自律性を害し憲法が保障する学問の自由を侵害するものであることから、これに反対し、衆議院での本法案可決に強く抗議するとともに、良識の府である参議院において十分な審議を行その問題点を明らかにした上、廃案とすることを求める。

 

以上