声明・決議・意見書

その他2025.08.06

原爆投下から80年を迎えるに当たっての会長談話

2025年(令和7年)8月6日

広島弁護士会 会長 藤川 和俊

1 本年8月6日は、1945年(昭和20年)8月6日に広島に人類史上初めての原子爆弾が投下されてから、80年となる日です。この原子爆弾によって、広島は壊滅的な被害を受けました。広島市原爆死没者名簿には、2024年(令和6年)8月6日時点で、34万4306人のお名前が記帳されていますが、80年経った今でもその数は増え続けており、被害の全容は分かっていません。

また、原子爆弾による被害に遭い辛うじて生き残った人々も、放射線による急性障害と、その後の後遺障害に長年にわたって苦しめられ続けてきました。ご本人もその子孫も、被爆したことを理由とした差別や偏見にも苦しめられてきました。原子爆弾さえなかったら、戦争さえなかったら、より健康で平穏に生きられた人々の尊い人生を一発の原子爆弾が奪っていったのです。原子爆弾は人間の尊厳を破壊する兵器であるばかりではなく、今や地球さえ破壊しかねない兵器であり、その存在は決して許されないものです。

日本国憲法は、核兵器と第二次世界大戦の悲惨さを体験し、二度と政府の行為によってこのような過ちを繰り返さないという反省に基づき、前文において全世界の国民が平和のうちに生存する権利を有することを確認し、第9条において平和主義を規定し、戦争と戦力の放棄を宣言しました。

広島平和都市記念碑には「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」と刻まれていますが、これも人々の強い決意を宣言したものと言えます。

2 しかし、現代の日本において、これらの宣言どおりに日本国憲法の理念が実現しているかといえば、決してそうとは言えません。

2015年(平成27年)9月19日には、集団的自衛権の行使を容認する安保関連法が国会で強行採決され、2022年(令和4年)12月16日には、敵基地攻撃能力(反撃能力ではなく、専守防衛を超えた攻撃力)を保有し活用する方針が明記された、いわゆる安保三文書の改定を、政府は閣議決定しました。

これに伴い、2023年度(令和5年度)から2027年度(令和9年度)までの5年間で43兆円もの巨額の防衛予算を計上する方針とし、これに従って、防衛関係費は、2023年度(令和5年度)には6兆8219億円、2024年度(令和6年度)には7兆9496億円、2025年度(令和7年度)には8兆7005億円もの巨額の予算が計上されました。

そして、現在進められている南西諸島へのミサイル基地の設置や自衛隊基地の強化、西日本各地の弾薬庫の拡大や民間空港や港湾の軍事利用化の推進をみれば、日本は、軍拡の道を進んでいると言わざるを得ません。このような情勢を踏まえて、現在を「新しい戦前」という言葉を用いて表現されることもあるなど、現在は戦後ではなく新たな戦争前夜ではないのかという声も上がっています。

3 不安定な世界情勢の時代にこそ必要なことは、軍拡ではなく、日本国憲法の理念を実践することです。第二次世界大戦の悲惨さを体験し、世界唯一の戦争被爆国となった日本は、二度とこのような過ちを繰り返さないという反省と誓いに基づき、平和主義を基本原理とし、戦争と戦力の放棄を宣言した日本国憲法を制定したはずです。軍拡の道に進むことは、第9条1項において「武力による威嚇又は武力の行使」を放棄し、同条2項において「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とする日本国憲法とは相容れません。

特に、核兵器の使用を前提とする核抑止論は、その抑止が崩れると核兵器が使用され、人類が滅亡する危険性を有するものです。また、人為的ミスや誤作動により核兵器が使用される可能性もあり、これまでも実際に、核兵器の使用寸前にまで至ったこともあります。

歴史から改めて学び、二度と政府の行為によって戦争の惨禍を招かない為に、日本はどう行動するべきなのかについて冷静に判断することが必要です。

この点、日本は唯一の戦争被爆国でありながら、核兵器禁止条約(TPNW)に署名していません。核兵器禁止条約は、2017年(平成29年)7月、国際連合において122か国の賛成の下に採択され、2021年(令和3年)1月22日、同条約は発効しました。2024年(令和6年)12月25日時点で、署名国数94、締約国数73にも昇ります。

日本は、核兵器の破壊力・非人道性・悲惨さを、身をもって知っており、先陣を切って核兵器の廃絶を訴えていく立場でありながら核兵器禁止条約に署名していません。さらに、核兵器禁止条約締約国会議にオブザーバー参加さえもしていません。このような日本の態度は、世界に対して恥ずべきものと言わざるを得ません。

4 当会は、人類最初の被爆地の法律家団体として、また、我々の先達を含む多くの市民がこの広島における原爆により命を落としたという経緯から、全国に先駆けて会内に「核廃絶と平和」を求めるための委員会である被爆50周年平和シンポジウム実行委員会(現在の平和・憲法問題対策委員会)を設立し、核廃絶と平和の維持・確立を積極的かつ継続して唱えてきました。近年でも、2020年(令和2年)10月26日会長声明、2021年(令和3年)1月26日会長談話、2023年(令和5年)3月23日会長声明、2024年(令和6年)1月22日会長声明と、核兵器根絶の推進を重ねて訴えてきました。2025年(令和7年)3月26日には、日本原水爆被害者団体協議会が2024年(令和6年)のノーベル平和賞を受賞したことを受け、核兵器禁止条約の署名・批准を求める会長声明を発出しています。

他にも、安保関連法、安保3文書が憲法9条等に反するものであり、許されないという会長声明を発出してきました(2016年(平成28年)2月24日会長声明、2023年(令和5年)2月22日会長声明)。ロシア連邦によるウクライナ侵攻を非難する声明(2022年(令和4年)3月1日会長談話)も発出しています。

5 戦後80年を迎えるにあたり、被爆地ヒロシマの弁護士会として、二度と戦争の惨禍を繰り返さず、核兵器廃絶を実現する為に、提言や意見表明などを通じて、日本国憲法の理念が社会に行き渡るよう、今後も活動を続けていくことを表明します。

 

 

以上