声明・決議・意見書

会長声明2025.09.10

臨時国会での再審法改正の実現を求める会長声明

2025年(令和7年)9月10日

                  広島弁護士会 会長 藤 川 和 俊

 

本年6月18日、衆議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)が野党を中心とした議員立法として提出され、その後、衆議院法務委員会に付託されて、閉会中審査となっている。

再審については、近時も、昨年9月26日、いわゆる袴田事件の再審公判において、静岡地裁は無罪判決を言い渡して、その後、無罪判決が確定し、また、いわゆる福井女子中学生殺人事件の再審公判(金沢地裁の一審無罪判決に対して検察官が控訴し、その後、名古屋高裁金沢支部による逆転有罪判決・最高裁の上告棄却によって確定した有罪判決に対する再審公判)において、本年7月18日、名古屋高裁金沢支部は、検察官の控訴を棄却する判決を言い渡して、一審金沢地裁の無罪判決を支持し、8月1日、名古屋高検が上訴権を放棄したことで、金沢地裁の一審無罪判決が確定するなどの動きがあった。この両事件は、えん罪を救済するまできわめて長期間を要するなど、現行再審法の不備を明確にしたものであり、再審法改正の必要性があることは論を俟たない。

本法案は、「再審制度によって冤(えん)罪の被害者を適正かつ迅速に救済し、その基本的人権の保障を全うする」という観点から、①再審請求審における検察官保管証拠等の開示命令、②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止、③再審請求審等における裁判官の除斥及び忌避、④再審請求審における手続規定を定めるものである。これは、当会がこれまで求めてきた再審法改正の方向性と軌を一にするものであって、高く評価できる。

「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(再審法改正議連)は、昨年3月に発足して以来、全国会議員の半数を超える議員の参加を得て、えん罪被害者、最高裁、法務省、日本弁護士連合会等からのヒアリングを実施し、それを踏まえて改正項目や条文案を検討するなど、精力的な活動を重ねてきたものであり、今般、それが本法案として結実したものである。当会は、再審法改正議連をはじめとする関係各位のこの間の尽力に深い敬意を表する。

一方で、再審法改正に関しては、本年4月21日以降、法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下「法制審部会」という。)において審議が行われ、本法案の定める4項目も審議対象となっている。

しかし、上記4項目の改正について、検察官と密接な関係を有する法務省が事務局を務める法制審議会が主導的な役割を担うことについて、まず、強い懸念を表明せざるを得ない。

再審法改正は、何よりもえん罪被害者の速やかな救済に資するものでなければならない。そして、上記4項目は、数多くある論点の中でも、えん罪被害者の速やかな救済を実現する上で根幹をなすものであるから、これらの点については、早急に法改正がなされるべきである。

しかしながら、この間の法制審部会での審議では、いわゆる袴田事件や福井女子中学生殺人事件などの著名えん罪事件を通じて明らかになった再審法の不備を指摘して法改正を求める意見がある一方で、再審手続における証拠開示の範囲を新証拠及びそれに基づく主張に関連する限度にとどめようとする意見や、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止することに消極的な意見も見受けられるところであり、これを受けて、事務局を務める法務省が原案を取りまとめる形で、上記4項目の改正に関する是非を含む全14項目に及ぶ論点が提示されている。法制審議会での早期の取りまとめを目指すとしても、その法案化までには相当な期間を要することは明らかで、改正が速やかに進む目処は立っていないと言わざるを得ない。

このような状況に照らせば、まずは「国の唯一の立法機関」である国会において、速やかにあるべき再審法改正の方向性を示すことが重要である。そして、法制審議会では、その方向性に沿って、残された論点も含めて審議を尽くす役割を担うべきである。

よって、当会は、国会に対し、速やかに本法案の審議を進め、今秋にも予定されている臨時国会において本法案を可決・成立させることを求めるものである。

以上