声明・決議・意見書

会長声明2005.07.29

共謀罪の新設に断固反対する会長声明

広島弁護士会
会長  山田延廣

1  共謀罪の新設法律案
現在,国会に,「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(国連国際組織犯罪条約)の国内法化として,「共謀罪」の新設が規定されている「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(以下「同法律案」という)」が,上程されている。
この共謀罪の新設は,以下のとおり,思想信条の自由等の基本的人権の侵害,あるいは,捜査権限の濫用等の適正手続違反を生ずるおそれがあるため,当会は,同罪の新設に対して断固反対するものである。
2  共謀罪の新設は,刑法の人権保障機能に反し,思想信条の自由等,基本的人権を侵害するおそれがあること。
共謀罪は,「死刑または無期もしくは長期4年以上の懲役もしくは禁固の刑が定められている罪に当たる行為で」,「団体の活動として」,「当該行為を実行するための組織により行われるもの」の「遂行を共謀した者」を処罰しようとするもので(同法律案第3条),犯罪対象の罪名は,実に615を数える。
ところで,近代刑法の人権保障機能の見地からすると,犯罪に向けた「実行の着手」が行われ,「結果の発生」が生じてはじめて国家が人を処罰するのが原則であり,それ以前の意思形成の段階を処罰の対象としてはならない。
ところが,この共謀罪は,未だ意思形成の段階に過ぎない共謀それ自体を処罰しようとするもので,「犯罪を行う意思」だけでは処罰の対象としないという刑法の人権保障機能の大原則に反することとなる。
また,犯罪実現に向けた行為を伴わない純粋な共謀を処罰対象とすることは,内心の状態そのものの処罰と何ら異ならず,憲法が保障する思想信条の自由を侵害する危険性が極めて高く,しかも,共謀という概念自体が極めてあいまい,かつ,不明確であることからして,共謀罪の新設は,表現の自由に対する重大な脅威ともなる。
3  共謀罪の新設は,捜査方法の根本的な変更を促し,捜査権限の濫用を招くおそれが強いこと。
共謀罪は,「意思の連絡」を処罰するものであることから,プライバシーに密接にかかわる,室内会話,電話,携帯電話,FAX,電子メールなどが捜査の対象となる。しかも,行為を処罰対象としない共謀罪では,犯罪に向けた行為や結果発生に通常伴って残される痕跡(証拠)が存在することは稀であることから,自ずと,その捜査にあっては,自白に依存し,あるいは,会話自体の証拠化のための盗聴が一般的な捜査方法とならざるを得ない。
そして,共謀罪の犯罪対象が615にも上り,捜査活動の相当程度が共謀罪に関する捜査活動で占められるようになることを考えると,共謀罪の新設は,自白偏重の捜査,盗聴による捜査を一般化させ,これまでの捜査方法を根本的に変更させてしまうおそれがある。しかも,現在,取調の可視化も実現していないことを考えると,取調の事後チェックも不可能に近い。
したがって,共謀罪の新設は,濫用を生みやすく治安維持が前面に出た捜査を常態化させるなど,適正手続違反をもたらすおそれが強い。
4  国連条約の適用範囲を超えて広く団体一般を処罰対象としていること。
同法律案の前提とされている国連国際組織犯罪条約第3条1項は,条約の適用範囲を,「性質上国際的(越境的)なものであり,かつ,組織的な犯罪集団が関与するもの」と明記しているにもかかわらず,この共謀罪では,「国際的な犯罪」との要件による絞りが外され,「組織的な犯罪集団」という限定も存在しない。
このため、共謀罪は,国連国際組織犯罪条約の範囲を超えて,政党,NPOなどの市民団体,労働組合,企業等,広く団体一般の活動も処罰対象としてしまうことから,集会結社の自由を侵害するおそれがある。
5  結論
以上のとおり、共謀罪は,刑法の人権保障機能に違反し,基本的人権を侵害し,さらには,適正手続きに違反するおそれが強いなど,極めて問題の多いものである。
よって、当会は、共謀罪の新設に断固反対する。

以上