声明・決議・意見書

会長声明2005.12.14

ゲートキーパー立法に反対する会長声明

広島弁護士会
会長  山田延廣

当会は、弁護士に対して、一定の取引について警察庁に対して報告義務を課すゲートキーパー立法に対して反対する。
平成17年 11月17日、政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」は、弁護士に対しても一定の取引について報告義務を課す金融活動作業部会(以下、FATF)勧告の完全実施並びに報告先である金融情報機関(以下、FIU)を警察庁とすることを決定した。
守秘義務は、弁護士法において、弁護士の権利であるとともに義務であると規定されている。弁護士に相談ないし依頼する者にとって秘密が守られるからこそ全ての事情を弁護士に対して説明することができるのである。相談者にとって弁護士を依頼する上で秘密が守られないおそれがあれば、弁護士に対しても事実を一部秘匿するという事態にもなりかねない。そうなれば、弁護士は事実関係の全容を把握できないこととなり、相談者は適切な助言、弁護などを受けることができなくなってしまう。
弁護士がその業務を行う上で最も重要な義務の一つである守秘義務を犯すおそれのある、弁護士に対して報告義務を課す立法は原則として容認できるものではない。
さらに、前記決定は、FIUを警察庁とするものである。警察は、行政府に属する第一次的犯罪捜査機関であり、その権限の行使については、慎重でなければならないことは歴史が立証するところである。
さらに、FIUが従前の構想通り金融庁とされ、同庁が報告先である場合は、同庁において資金の流れが適切か否か検討、判断し、報告された取引マネーロンダリング等に該当すると判断した場合に、捜査機関に対して情報を提供するものと想定される。ところが、「疑わしい取引」について、警察庁に報告がなされることとなれば、その情報はマネーロンダリング等に限定されず、それ以外の犯罪についての捜査の端緒ないし捜査中の事件に関する情報として、警察内部において流用されないとの保証は存在しない。
即ち、警察庁がFIUとされることにより、マネーロンダリング、テロ資金対策だけに限らず、弁護士が相談者ないし依頼者にとって不利益となるおそれの情報を積極的に捜査機関である警察に提供する結果となりかねないのである。相談者ないし依頼者は、マネーロンダリングないしテロ資金に全く関与していない場合でも、相談者ないし依頼者が秘密と考えている情報を、弁護士が警察に対して通報しなければならなくなるおそれがあるのである。例えば、マネーロンダリングないしテロ資金に全く関係ない犯罪に関与した者について、弁護士が捜査の端緒となる情報を警察に対して提供しなければならなくなるおそれがあるのである。かかる事態にあっては、国民の適切な弁護を受ける権利の保障は剥奪されたものと言っても過言ではない。
「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」の前記決定は、弁護士制度の根幹を覆すものであり、決して容認できるものではない。

以上