会長声明2026.09.09
国際刑事裁判所(ICC)所長等への米国による不当な圧力の行使に抗議し、ICCに対する支援を求める声明
2026年(令和8年)9月9日
広島弁護士会 会長 古 河 真 人
第1 声明の趣旨
当会は、日本国政府に対し、米国が、国際刑事裁判所(International Criminal Court。以下「ICC」という。)の長であり裁判官である赤根智子所長らを、その職務の遂行を理由として制裁の対象としたこと、及びこの間の一連のICCの関係者に対する制裁について米国に強く抗議し、これを撤回するよう申し入れるとともに、ICCに対する支援を表明することを求める。
第2 声明の理由
1 制裁措置の概要
米国政府は、2026年(令和8年)8月18日、ICCの赤根智子所長及び上級法廷法律家のアブドゥライ・セイ氏の2名を、大統領令に基づき、制裁の対象に指定したと発表した。これにより、赤根所長らは、米国内における資産を凍結され、米国への入国を禁止されるほか、事実上、米国の金融システムから遮断されることとなる。米国のマルコ・ルビオ国務長官は、両氏がICCの管轄権に同意していない国の国民等の訴追に関与してきたことを制裁の理由として挙げ、ICCを「腐敗し、致命的なまでに政治化された超国家的な裁判所」であるなどと非難したと報じられている。
しかし、ICCの設立法であるローマ規程においては、締約国内において対象犯罪を犯したときは、犯罪を犯した者が非締約国の国民であり、当該犯罪者が国籍を有する国がICCの管轄権を受諾する意思を表明しなくても、捜査対象として訴追することが認められている。したがって、赤根所長らはICCの職務を適法に遂行していたにもかかわらず制裁対象とされたことになる。
2 ICCの存在意義
ICCは、国際社会において、常設の国際刑事裁判所の設立が求められたことから、1998年(平成10年)、国際刑事裁判所に関するローマ規程が採択され、2002年(平成14年)に、世界初の常設の国際刑事司法機関として活動を開始した。我が国も2007年(平成19年)にローマ規程の締約国となっている。
ICCは、ジェノサイド罪(集団殺害罪)、人道に対する罪、戦争犯罪及び侵略の罪というコア・クライムに対して管轄権を有し、領域国の国内裁判所が処罰することが難しいこれらの犯罪について、法と証拠に基づいて個人の刑事責任を追及している。
3 「法の支配」を損ねること
ICCは、独立した司法機関として、国際社会における「法の支配」の実現、国際社会の平和と安定という国際秩序の基盤作りに重要な役割を果たしてきた。
そのようなICCの裁判官に対し、ICCとしての職務の遂行を理由に行われたこの度の制裁は、明らかに法の支配に対する挑戦である。
4 重大な人権侵害を招きかねないものであること
また、ICCが管轄権を有する犯罪は、上記のとおり、いずれも重大な人権侵害であり、普遍的に許容することのできない犯罪である。各国に処罰を委ねれば、責任を負うべき者が不処罰となることは歴史の示すところであり、米国のICCに対する対応は、重大な人権侵害を防ぐための国際社会の取り組みを瓦解させる。
5 日本国政府のとるべき役割
これまで日本国政府は、ICCの最大の分担金拠出国として、また継続して裁判官や職員を輩出する国として、ICCの活動を支えてきた。
今回の米国政府の対応は、日本国政府が一貫して追求してきた「国際社会における法の支配」を失わせるものであり見過ごすことはできない。
また、米国のとった制裁は、制裁対象者と取引した第三国の個人及び法人について、米国内での資産凍結等の不利益が及び得るものである点も問題である。
日本は、米国との間で第二次世界大戦後、長期にわたって同盟関係を継続してきた緊密な関係を有する国である。だからこそ、米国に対し、ICCに対する不当な圧力の是正を求めることが、ICC加盟国をはじめ国際社会から期待された我が国の役割といえる。国際社会における法の支配の貫徹を維持し、ICCに協力する日本国民及び日本法人が不利益を受けることを防ぐためにも、日本国政府は、速やかに対応すべきである。
第3 結語
当会は、無差別・多数の一般市民に凄惨な被害を生む戦争犯罪行為が世界から根絶されることを切に願っている。ICCは、当会の願いの実現にとって、これまでも、そしてこれからも重要な役割を果たし続けてくれるものと信じる。よって、当会は、日本国政府に対し、米国が、赤根所長を含むICCの関係者を、その職務の遂行を理由として制裁の対象としたことについて強く抗議し、これを撤回するよう申し入れるとともに、「法の支配」に基づく国際法秩序が維持されるよう、ICCへの支援を表明することを求める。
執行先:内閣総理大臣、外務大臣
参考送付先:日弁連、各弁護士会連合会、各弁護士会、報道各社
以上
2026年(令和8年)9月9日
広島弁護士会 会長 古 河 真 人
第1 声明の趣旨
当会は、日本国政府に対し、米国が、国際刑事裁判所(International Criminal Court。以下「ICC」という。)の長であり裁判官である赤根智子所長らを、その職務の遂行を理由として制裁の対象としたこと、及びこの間の一連のICCの関係者に対する制裁について米国に強く抗議し、これを撤回するよう申し入れるとともに、ICCに対する支援を表明することを求める。
第2 声明の理由
1 制裁措置の概要
米国政府は、2026年(令和8年)8月18日、ICCの赤根智子所長及び上級法廷法律家のアブドゥライ・セイ氏の2名を、大統領令に基づき、制裁の対象に指定したと発表した。これにより、赤根所長らは、米国内における資産を凍結され、米国への入国を禁止されるほか、事実上、米国の金融システムから遮断されることとなる。米国のマルコ・ルビオ国務長官は、両氏がICCの管轄権に同意していない国の国民等の訴追に関与してきたことを制裁の理由として挙げ、ICCを「腐敗し、致命的なまでに政治化された超国家的な裁判所」であるなどと非難したと報じられている。
しかし、ICCの設立法であるローマ規程においては、締約国内において対象犯罪を犯したときは、犯罪を犯した者が非締約国の国民であり、当該犯罪者が国籍を有する国がICCの管轄権を受諾する意思を表明しなくても、捜査対象として訴追することが認められている。したがって、赤根所長らはICCの職務を適法に遂行していたにもかかわらず制裁対象とされたことになる。
2 ICCの存在意義
ICCは、国際社会において、常設の国際刑事裁判所の設立が求められたことから、1998年(平成10年)、国際刑事裁判所に関するローマ規程が採択され、2002年(平成14年)に、世界初の常設の国際刑事司法機関として活動を開始した。我が国も2007年(平成19年)にローマ規程の締約国となっている。
ICCは、ジェノサイド罪(集団殺害罪)、人道に対する罪、戦争犯罪及び侵略の罪というコア・クライムに対して管轄権を有し、領域国の国内裁判所が処罰することが難しいこれらの犯罪について、法と証拠に基づいて個人の刑事責任を追及している。
3 「法の支配」を損ねること
ICCは、独立した司法機関として、国際社会における「法の支配」の実現、国際社会の平和と安定という国際秩序の基盤作りに重要な役割を果たしてきた。
そのようなICCの裁判官に対し、ICCとしての職務の遂行を理由に行われたこの度の制裁は、明らかに法の支配に対する挑戦である。
4 重大な人権侵害を招きかねないものであること
また、ICCが管轄権を有する犯罪は、上記のとおり、いずれも重大な人権侵害であり、普遍的に許容することのできない犯罪である。各国に処罰を委ねれば、責任を負うべき者が不処罰となることは歴史の示すところであり、米国のICCに対する対応は、重大な人権侵害を防ぐための国際社会の取り組みを瓦解させる。
5 日本国政府のとるべき役割
これまで日本国政府は、ICCの最大の分担金拠出国として、また継続して裁判官や職員を輩出する国として、ICCの活動を支えてきた。
今回の米国政府の対応は、日本国政府が一貫して追求してきた「国際社会における法の支配」を失わせるものであり見過ごすことはできない。
また、米国のとった制裁は、制裁対象者と取引した第三国の個人及び法人について、米国内での資産凍結等の不利益が及び得るものである点も問題である。
日本は、米国との間で第二次世界大戦後、長期にわたって同盟関係を継続してきた緊密な関係を有する国である。だからこそ、米国に対し、ICCに対する不当な圧力の是正を求めることが、ICC加盟国をはじめ国際社会から期待された我が国の役割といえる。国際社会における法の支配の貫徹を維持し、ICCに協力する日本国民及び日本法人が不利益を受けることを防ぐためにも、日本国政府は、速やかに対応すべきである。
第3 結語
当会は、無差別・多数の一般市民に凄惨な被害を生む戦争犯罪行為が世界から根絶されることを切に願っている。ICCは、当会の願いの実現にとって、これまでも、そしてこれからも重要な役割を果たし続けてくれるものと信じる。よって、当会は、日本国政府に対し、米国が、赤根所長を含むICCの関係者を、その職務の遂行を理由として制裁の対象としたことについて強く抗議し、これを撤回するよう申し入れるとともに、「法の支配」に基づく国際法秩序が維持されるよう、ICCへの支援を表明することを求める。
執行先:内閣総理大臣、外務大臣
参考送付先:日弁連、各弁護士会連合会、各弁護士会、報道各社
以上



