声明・決議・意見書

会長声明2009.07.29

死刑執行に関する会長声明

広島弁護士会
会長  山下哲夫

昨日、大阪拘置所において2名、東京拘置所において1名、計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
昨年は1年間で、合計15名に対し死刑が執行されており、昨年9月に森英介法務大臣が就任して以来3度目、本年では1月29日の執行に続き2度目の執行がされたこととなる。とりわけ、今回は、足利事件において、無期懲役判決の決め手となったDNA鑑定が精度の低いものであることが明らかとなり再審公判が始まろうとしている状況で、同種のDNA鑑定により死刑判決が確定して昨年10月に死刑が執行された飯塚事件に関心が集まる中での執行である。
さらに、今月21日には衆議院が解散され、来る8月30日には総選挙が予定されており、死刑制度のあり方も総選挙の争点のひとつになりうる問題である。この問題に関する国民の判断を待つことなく死刑を執行することは、死刑制度に関する国民的な議論を軽視するものであり、批判を免れない。
我が国の死刑制度については、昨年来、国際社会においてかつてないほどの注目を集め、死刑執行の増加傾向に対し警鐘が鳴らされてきた。すなわち、昨年6月の国連の人権理事会は、日本の人権状況に対する普遍的定期的審査の報告書を採択し、その中で死刑執行の増加に懸念を示したうえで、死刑執行の停止が勧告された。また、昨年10月には、国連の自由権規約委員会の第5回日本政府報告書審査の総括所見においても、委員会は死刑制度の廃止を前向きに検討するよう、日本政府に勧告している。
さらに、昨年12月8日の国連総会本会議において、死刑執行の停止を求める決議が一昨年を上回る圧倒的多数の賛成で採択されたことは、世界では死刑制度の廃止が潮流となっていることを示しており、我が国をはじめとする死刑存置国に対して、死刑の執行を停止し、あるいは死刑適用の制限を求める動きがますます強まっている。
前記のような国連機関による度重なる勧告は、死刑が最も基本的な人権である生命に対する権利を否定する究極の刑罰であり、死刑制度は人権にかかわる重大な問題であるという認識のもとになされている。本年5月から裁判員裁判制度が実施され、死刑制度とその運用に対し、社会の関心が高まっている中、現行の死刑制度が抱える問題点を広く社会が共有し、改革の方向性を探るべきである。
当会は、死刑をめぐる情報が的確に開示された上、死刑の存廃についての国民的な議論が尽くされるまで、一定期間、死刑の執行を停止するよう要請してきているところ、昨日の死刑確定者に対する死刑執行について遺憾の意を表明するとともに、前記の国連総会決議が採択されたことを受け、日本政府が速やかに死刑の執行を一時停止し、制度の見直しを行う作業に着手すべきことを求めるものである。

以上