声明・決議・意見書

総会決議2013.09.04

憲法第96条の発議要件緩和に反対する決議

決 議 事 項

当会は,憲法第96条第1項を改正して,憲法改正発議要件を緩和することに強く反対する

提 案 理 由

日本国憲法第96条第1項は,「この憲法の改正は,各議院の総議員の三分の二以上の賛成で,国会が,これを発議し,国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には,特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において,その過半数の賛成を必要とする。」と定めているところ,近時,同条項の発議要件について,衆参各議院の総議員の過半数の賛成に緩和すべきとの憲法改正議論がなされている。
憲法は,国家権力の濫用を防止して,国民の自由と権利を保障するために,国家権力に縛りをかける国の基本法である(立憲主義)。
第96条第1項が発議要件を総議員の3分の2以上の賛成とした理由は,憲法は「侵すことのできない永久の権利として」基本的人権を国民に保障する(第11条,第97条)国の最高法規(第98条)であるため,これを改正するには,国会において慎重かつ充実した十分な議論を尽くし,多数の議員による合意が形成された後に国民に対して発議すべきとする議会制民主主義原理に基づくものである。
発議要件を過半数に緩和した場合,政権与党が議会の過半数を握りさえすれば,憲法改正案を発議できることとなり,憲法の最高法規性も低下し,国の基本的なあり方を定める憲法の安定性を損なう。
そればかりか,立憲主義の観点からは縛りをかけられている立場にある政権与党が,過半数の賛成をもってその縛りを解くための憲法改正案を発議することが容認されることとなり,立憲主義を大きく後退させ,殊に,弱者や少数者の人権が国家権力に侵されやすいという歴史的経験的事実に思いを致すならば,日本国憲法が保障する基本的人権に関する規定の存在も脅かされかねない。
このことは,自由民主党が発表した「日本国憲法改正草案」において,国民主権主義,基本的人権の保障規定,平和主義という基本原理に関する各規定についても改正案が示されていること,現内閣総理大臣らが,まず改正要件を緩和して憲法改正のハードルを下げ,その後に他の条項の改正を考えている旨を明言していることからも明らかである。
当会は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする弁護士によって構成されているものであり,これまでも,立憲主義を尊重して,基本的人権の擁護に力を尽くしてきた。当会は,憲法第96条第1項を改正して憲法改正発議要件を衆参各議院の総議員の過半数の賛成に緩和することは,立憲主義を危うくし,ひいては基本的人権を脅かすおそれがあることに鑑み,憲法第96条第1項の発議要件緩和に強く反対する。

以上