声明・決議・意見書

総会決議2014.05.27

特定秘密保護法の廃止を求める決議

広島弁護士会

決 議 事 項

当会は,政府及び国会に対して,憲法の基本原理に矛盾抵触する特定秘密保護法の廃止を強く求める。

提 案 理 由

1 特定秘密保護法(平成25年法律第108号)が2013(平成25)年12月6日,参議院本会議で可決成立した。本法律は,同月13日に公布され,公布から1年以内に施行される予定である。しかしながら,本法律は,以下のとおり,知る権利を侵害するなど,憲法の基本原理に矛盾抵触する重大な問題点を数多く含んでいる。
2 第一に,本法律は憲法が保障する知る権利,取材・報道の自由を侵害し,国民主権や民主主義の理念を踏みにじるものである。
本法律により秘密に指定できる情報の範囲は,広範かつ曖昧である。しかも,秘密指定の適正性をチェックする独立の第三者機関は存在しない。正当な内部告発者を保護する制度もない。このため,行政機関が,国民からの批判や責任追及を回避する目的で,「不都合な真実」を恣意的に秘密にすることが懸念される。
また,故意の漏えい行為のみならず,過失の漏えい行為,取得行為,未遂行為も処罰対象とされ,さらに正犯の実行着手にかかわらず共謀行為,教唆行為,扇動行為が独立した犯罪行為とされるなど,処罰の範囲も広範かつ曖昧である。情報にアクセスしたいと考える報道機関や国民,内部告発者に著しい萎縮効果を与えることは明白であり,取材・報道の自由や知る権利を侵害するとともに,罪刑法定主義にも反するおそれがある。
国家が扱う情報は国民共有の財産であるという大原則のもと,国民の知る権利が確保され,参政権を行使するために必要な情報を国民が自由に知りうることが,国民主権と健全な民主主義の根幹である。本法律は,国民主権と民主主義の破壊行為といっても過言ではない。
3 第二に,特定秘密を取り扱う公務員や民間人の個人情報を行政機関が調査する適性評価制度は,憲法が保障するプライバシー権を侵害し,思想信条を理由とした差別につながりかねない重大な問題をはらんでいる。
適性評価による調査事項は,精神疾患,飲酒についての節度,信用状態その他の経済的な状況など,極めて広範であり,通常他人には知られたくない個人情報が多く含まれている。対象者の同意を要件とはしているものの,対象となる行政機関の職員等は,調査を拒絶することによって不利益が生じることをおそれ,事実上同意せざるを得ない状況にあるため,その同意は調査を正当化する根拠にはならない。また,対象者の家族や同居人に対しては,本人の同意を得ることなく,住所や国籍等を調査することとしており,プライバシー権を著しく侵害する。
さらに,調査事項には,特定有害活動との関係に関する事項が含まれており,調査対象者やその家族等が一定の思想信条や信仰を有していること,一定の国籍を有していること,一定の民族に属していること自体をもって,秘密漏えいのリスクがあるとして,特定秘密の取扱者から除外される可能性がある。これは,思想信条等を理由とした差別の増長につながりかねないものである。
3 第三に,本法律は,憲法が規定する国会による国政調査権や最高機関性をおびやかすものである。
本法律では,国会に特定秘密を提供する要件として,安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと行政機関の長が認めることが求められている。このため,憲法が保障する議院の国政調査権や議員の質問権が,行政機関の長の裁量で制約されかねない。国会議員が国会(秘密会)において特定秘密の提供を受けた場合でも,その漏えい行為は処罰対象となるため,秘密会に出席していない他の国会議員等と議論をすることができず,効果的な議員活動を行うことが困難となる。
このような制度は,国会による行政への監視機能を弱体化するものであって,国会の最高機関性や議院内閣制を定める憲法の趣旨に反し,権力分立の形骸化に結びつくものである。
4 第四に,本法律に違反して起訴された場合に,公平公正な裁判を受ける権利等を侵害し,弁護人による弁護活動を不当に制約するおそれがある。
本法律では,公開の法廷で裁判を受ける国民の基本的権利について何らの言及をしていない。政府は,特定秘密の内容を明らかにしないまま実質秘性を立証するいわゆる外形立証の方法を取る方針を示しているが,特定秘密の具体的内容を非公開としたまま刑事裁判が進行するとすれば,被告人(特に,漏えい行為に至る前の教唆や共謀等で起訴された被告人)は,どのような事実で処罰を受けるのか分からないまま裁判を受けることとなる。これは,公平公正な裁判を受ける権利を侵害し,実質的な防御権,弁護権を奪うものである。
また,本法律は,被告人や弁護人への情報提供を予定していない。このため,弁護人が,特定秘密に接近することとなる関係者への事情聴取等の調査活動や証拠収集活動を行うと,これが教唆や共謀等に問われる可能性が否定できない。この結果,弁護活動自体が萎縮して,著しい制約を受けることになる。
5 当会は,これまで,本法律が,国民の知る権利など憲法で保障された基本的人権を侵害し, 国民主権と民主主義の根幹を脅かす危険な法律であるということを繰り返し指摘してきた。しかしながら,当会が指摘した問題点が改善されることはなく,慎重審議を求める野党各党,報道機関,圧倒的多数の国民の声を無視して,法案提出からわずか40日余りで本法律は可決された。与党の強行的な国会運営による拙速な採決と言わざるを得ない。
さらに,国会においては,政府答弁に不一致や変遷が頻発したほか,本法律の衆院通過後の参院審議において突如として「保全監視委員会」等の設置が表明されるなど,国会審議が大きく混乱した。
これらは,本法律が十分な審議に耐えることができない未成熟な法律であったことを指し示している。
6 以上のように,本法律は,看過することのできない憲法上の重大な問題点を数多く含んだ法律であって,部分的な改正でこれを解消することは不可能である。本法律はいったん廃止し,情報公開法や公文書管理法の改正と合わせ,抜本的に見直す必要がある。基本的人権の尊重と国民主権は,恒久平和主義と並ぶ憲法の基本原理であり,これらをないがしろにする本法律の施行は到底許されない。
したがって,当会は,政府及び国会に対して,憲法の基本原理に矛盾抵触する特定秘密保護法の廃止を強く求めるものである。

以上