声明・決議・意見書

総会決議2018.05.23

いわゆる「谷間世代」の救済につき国に対して不公平・不平等な事態を是正する措置を講じることを求める決議

広島弁護士会

第1 決議事項
1 当会は,国に対し,司法修習新第65期から第70期までの司法修習を終了した者(いわゆる「谷間世代」)に生じている不公平・不平等な事態を是正する措置を講じること及び同是正措置が講じられるまでの間,貸与された修習資金の返還を猶予する措置を講ずることを求める。
2 当会は,日本弁護士連合会に対し,国が前項の措置を講ずるよう「谷間世代」に寄り添い,主体的,積極的に活動するよう求める。

第2 提案理由
1 司法は,三権の一翼として,法の支配を実現し国民の権利を守るための重要な社会的インフラである。法曹(弁護士,裁判官,検察官)は,この司法の担い手であるから,本来,国には公費をもって法曹を養成する責務がある。事実,日本国憲法下で司法修習制度が開始された1947年(昭和22年)当初から,司法修習生には国費による給費が支給されてきた(以下「給費制」という。)。
2 しかし,2011年(平成23年),司法修習生の大幅な増加,司法制度改革を実現するための財政負担等の理由により,給費制は廃止されてしまい,新第65期以降の司法修習生は給費を受けることができなくなった。そのため,新第65期から第70期の司法修習生の多くの者が,大学や法科大学院での奨学金に加え,貸与金の返還債務を負担することとなり,経済的負担が重くのしかかることとなった。給費制の廃止による経済的負担や,若手弁護士の就職難・経済的困窮に対する不安から,法科大学院進学者及び司法試験受験者は減少の一途をたどり,三権の一翼を担う司法権の弱体化が強く懸念されている。
これに対し,当会は,市民向けのシンポジウムを実施し,会長声明を発出する等して,日本弁護士連合会,全国の各弁護士会,ビギナーズ・ネット(司法修習生に対する給費制の復活を求める大学生,ロースクール生・修了生,司法修習生,若手法律家のネットワーク)をはじめとする市民団体と共に,給費制の復活に向けて活動を展開してきた。
3 その結果,2017年(平成29年)4月19日,裁判所法改正により,第71期以降の司法修習生に対して月額13万5000円の基本給付金,住居が必要となる者にはさらに月額3万5000円の住宅給付金を給付する修習給付金が支給されることになった。修習給付金は,従前の給費と比較して低額であり,その給付額が安心して修習に専念できる十分な額かどうかという点はあるものの,上記国の責務の一部を果たす措置として評価できる。
4 しかしながら,この裁判所法改正は,無給での司法修習を強いられてきた「谷間世代」の合計約1万1000人には遡及適用されなかった。「谷間世代」との呼称は,制度の狭間で,給費も,給付も,支給されてこなかったという意味である。
この「谷間世代」も,前後の世代と同様,修習専念義務(兼職の禁止),守秘義務等の職務上の義務を課され,司法制度の担い手として必要な能力・素養を習得してきた。そして,司法修習で築いた基礎をもとに実務に就き,現在,国の三権の一翼を担う司法制度及び国民の基本的人権の擁護に不可欠な存在として活動しており,司法を支える重要な担い手となっている。この「谷間世代」に対しても,前述した国の責務が存在することは何ら変わるところがない。裁判所法改正の法案審議の過程において,与野党を問わず,国会議員から「谷間世代」の救済の必要性が訴えられていたにもかかわらず,誠に遺憾なことに,何らの具体的な救済策が講じられていないのが現状である。かかる不平等・不公平は決して許容されるものではない。
5 この点,「谷間世代」には,給費に代わって,国からの金銭の貸与がなされてきた。これらの司法修習生の多くは貸与金を借り入れて生活せざるをえなかったところ,最も早い新第65期司法修習修了者の貸与金返還開始日が2018年(平成30年)7月25日に迫っている。返還が一部でも開始されてしまうと,不平等・不公平の是正に関する具体的方策の検討が複雑となり,是正のための制度設計が著しく困難になってしまう。その意味からも,この是正は喫緊の課題である。
6 当会は,法曹人口の約4分の1(約1万1000人)を占める「谷間世代」に対する当該不平等・不公平が法曹の世代間に歪みを生じさせ,司法権の弱体化につながることを強く危惧し,上記不平等・不公平を是正するための措置を日本弁護士連合会,全国の弁護士会,ビギナーズ・ネットをはじめとする市民団体と共に求めていく。
また,かかる是正措置は,「法曹人材確保の充実・強化」という上記裁判所法改正の趣旨にかなうものであると共に,国の三権の一翼を担う司法制度及び国民の基本的人権の擁護に不可欠な存在としての活動を保障するものであり,ひいては国民全体の権利擁護にも資するものである。
7 「谷間世代」に生じた不平等・不公平な事態を是正する必要性について国会にて質問がなされた際,「谷間世代」を救済することについては「国民の理解が得られない」という政府からの答弁がなされた。しかし,「国民の理解が得られない」ということについてはそもそも何らのエビデンスも無い誤った理屈であり,むしろ,当会としては,「谷間世代」に生じた不平等・不公平な事態を是正することは必ず国民の理解が得られるものであると確信しているところである。このことは,同様の答弁が用いられて廃止されるに至った給費制が僅か6年間で実質的な復活を果たしたことからも明らかである。
8 以上,当会は,国に対し,司法修習新第65期から第70期までの司法修習を終了した者(いわゆる「谷間世代」)に生じている不平等・不公平な事態を是正する措置を講じること及び同是正措置が講じられるまでの間,貸与された修習資金の返還を猶予する措置を講ずることを求め,日本弁護士連合会に対し,国が前項の措置を講ずるよう「谷間世代」に寄り添い,主体的,積極的に活動するよう求める。

以上