声明・決議・意見書

意見書2013.05.08

「法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ」についての意見書 (後半)

<意見3>

① 項番
第3の1(3)  法曹養成課程における経済的支援について

② 意見の内容
枠内の「○ 司法修習生に対する経済的支援の在り方については,貸与制を前提とした上で,司法修習の位置付けを踏まえつつ,より良い法曹養成という観点から,経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないよう,司法修習生の修習専念義務の在り方なども含め,必要となる措置を更に検討する必要がある。」とあるのを,「○ 司法修習生に対する給費制を復活させる。貸与制実施の際に司法修習生であった者及び現に司法修習生である者については,給費制があった場合と同様となるよう遡及して適切な措置を講じる。」とすべきである。
また,(検討結果)の「そして,具体的な支援の在り方については,給費制とすべきとの意見もあったが,貸与制を導入した趣旨,貸与制の内容,これまでの政府における検討経過に照らし,貸与制を維持すべきである。その上で,司法修習生に対する経済的支援については,司法修習の位置付けを踏まえつつ,より良い法曹養成という観点から,経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないよう,司法修習に伴い個々の司法修習生の間に生ずる不均衡への配慮や,司法修習生の修習専念義務の在り方なども含め,必要となる措置を本検討会議において更に検討する必要がある。」とあるのを,「そこで,貸与制を廃止し,従来の給費制を復活させるものとする。現に司法修習生である者については,直ちにこれを適用すべきである。また,給費制の復活により,貸与制の実施期間中に司法修習生であった者については,貸与を受けた当時に給費制があったものとして,公平の観点から,貸与金の返済免除や一定額の金銭を給付するなど,遡及して措置を講じる必要がある。」とすべきである。

③ 意見の理由
当会は,かねてより,総会決議(2009年(平成21年)5月25日及び2011年(平成23年)3月1日),会長声明(2012年(平成24年)12月12日外多数)において,再三にわたり,司法修習生に対する給費制の維持・復活を求めているところである。また,日本弁護士連合会においても,2010年(平成22年)5月28日定期総会における決議及び多数の会長声明により,給費制の維持及び復活を求めてきた。
しかし,今回の法曹養成検討会議の中間的取りまとめは,給費制ではなく,既に実施されている貸与制を前提とするものとなっている。これは,司法修習の意義及び給費制の性格と役割の正しい理解に基づくものではなくい。
司法修習は,憲法上司法制度を担うこととされている裁判官,検察官及び弁護士である法曹を育成するため,同一の司法修習を受けさせるものである。司法修習を実効性のあるものにするため,修習中は司法修習生に対しては,修習専念義務が課されている一方で,生活費等最低限の資金を給付することにより,司法修習生の生活基盤を確保し,もって司法修習に専念させてきた。
法曹は,憲法上も社会生活上も,我が国の司法制度を支える公共的基盤と位置づけられている。この基盤となる人材を,給費制で支えた司法修習により育成することは,成熟した立憲主義国家そして権利を擁護される国民にとって,必要不可欠な仕組みである。
しかしながら,検討会議は,検討結果において,「貸与制を導入した趣旨,貸与制の内容,これまでの政府における検討経過に照らし,貸与制を維持すべきである。」としている。
ここでいう「これまでの政府における検討結果」とは,2011年(平成23)年5月に,関係閣僚の申し合わせにより設置された法曹の養成に関するフォーラム(以下「フォーラム」という。)における検討結果を指すと思われる。このフォーラムにおいては,司法制度全体としての財政負担を考えると,司法修習に要する経費を国庫負担とすることに加えて,すべての司法修習生の生活資金まで給与として支給する給費制を維持することについて,国民の理解を得ることはもはや困難であると考えられたことから,国民の理解を得つつ,修習に専念できる環境を確保するために,必要に応じて修習期間中の生活資金を貸与する貸与制を導入する,との意見がとりまとめられていた。
しかしながら,このとりまとめ意見においては,上記の司法修習生に対する給費制の意義が十分に考慮されていなかった。また,給費制について,その正確な制度内容はもちろん,司法修習の実態についてすら,国民には広く知られているとは言い難いものであった。したがって,フォーラムの意見においては,給費制の維持について「国民の理解を得ることはもはや困難である」とされているが,そのような検証はされていないし,給費制の重要な意義をふまえれば,「国民の理解」は十分に得られるはずである。
このたびの中間的取りまとめを示した検討会議は,裁判所法改正の際の衆議院における附帯決議に基づいて,司法修習生の経済的支援に関してさらに議論を深めるために設置されたものである。にもかかわらず,従前のフォーラムの見解を前提にしており,司法修習と給費制に関する十分な検討がされていない。
また,上記附帯決議において,検討会議は,「法科大学院志願者数の減少、司法試験合格率の低迷等の法曹養成制度の問題状況を踏まえ、その原因を探求の上、法科大学院における適正な定員の在り方や司法試験の受験の在り方を含め、質の高い法曹を養成するための法曹養成制度全体についての検討を加えた結果を一年以内に取りまとめ」るものとされている。しかしながら,このたびの中間的取りまとめは,司法修習生に対する必要な措置について「必要となる措置を更に検討する必要がある。」としか述べていない。ここで「検討する必要がある」と述べられているとおり,司法修習生の経済的支援については早急に措置がとられなければならない状況にある。ところが,このたびの中間的取りまとめにおいては,その必要な措置について,その内容も,検討のスケジュールも,具体的に明らかにされていない。司法修習生は毎年採用されるものであり,1年が経過すれば修習を終えてしまう。その間,司法修習生に対する経済的支援の必要性がありながら,具体的措置の検討をしないことにより支援を怠れば,日々,我が国の司法制度を支える公共的基盤は毀損していくことになる。
したがって,直ちに司法修習生に対する給費制を復活させるべきである。その場合,貸与制が実施されていた期間に司法修習生であった者及び司法修習生である者は,全部又は一部の司法修習期間において貸与制が適用されていたので,給費制の復活により,給費を全期間に受けていた従前の司法修習生との間で不合理な差異が生じる。そこで,修習資金の貸与を受けていた者についてはその貸与金の返済を免除し,貸与を受けていなかった者については,当該司法修習期間について給費制があったものとして一定額の金銭を遡及して給付するなどの措置を講じる必要があると考える。

以上