声明・決議・意見書

意見書2016.03.04

消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の機能を損なう移転に反対する意見書

広島弁護士会
会長 木村 豊

第1 意見の趣旨
消費者庁,国民生活センター,及び消費者委員会の機能を低下させるかたちでの移転は,我が国の消費者行政の機能を阻害しかねないので,このようなおそれのある移転には反対する。

第2 意見の理由
1 はじめに
政府は,政府関係機関の地方移転に係る道府県の提案を受け,目下「まち・ひと・しごと創生本部」に「政府関係機関移転に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)を設置し,政府関係機関移転を審議している。その中で,消費者庁,国民生活センター,及び消費者委員会を徳島県に移転することが審議されている。
東京圏への一極集中は,人口や各機関の集中,災害による被害の大規模化,地域経済の一層の縮小などの事態を生じる。政府関係機関の移転は,これらの事態から生じる問題の解消に資する政策として評価できる。
ただし,地方移転に伴い当該政府関係機関が果たすべき本来の機能が大きく低下することとなっては本末転倒である。この点,有識者会議の考え方として,道府県からの提案のうち「官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関」や「中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関」に係る提案,「現在地から移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案」などについては,移転をさせない方向性が示されている。
消費者庁,国民生活センター,及び消費者委員会は,以下に述べるとおり,多数の省庁に分散している消費者行政を総合的に推進する司令塔としての機能を担っている。また,国民の安心安全を脅かす重大な事態が発生したときには,官邸と一体となり緊急対応を行う政府の危機管理機能を担っている。
消費者庁,国民生活センター,及び消費者委員会がこれらの機能を果たすためには,担当大臣,各省庁と同一地域に所在することが必要であり,消費者庁,国民生活センター,及び消費者委員会を移転させることには反対である。
2 消費者庁の地方移転について
(1) 消費者行政の司令塔機能の低下
消費者庁の機能は,縦割りでかつ極めて大きな権限を持つ他省庁が所管する行政行為に対して,消費者の視点からチェックを行い,修正を求め,時にはブレーキをかける消費者政策推進の司令塔としての機能である。
消費者問題は,食品や製品の生産・流通・販売・安全管理,金融,教育,行政規制・刑事規制など多くの領域に関わり,経済産業省,金融庁,農林水産省,厚生労働省,国土交通省,文部科学省,警察庁等をはじめとする多くの省庁と関連している。消費者庁が消費者政策推進の司令塔としての機能を十分に果たすためには,消費者庁が,連携先である各省庁及び担当大臣と同一地域に所在することが必要である。
(2) 緊急対応機能の低下
消費者庁は,消費者の安心安全を脅かす重大事態が発生した時には,官邸と一体となり緊急対応を行う政府の危機管理機能を担っている。そのために,消費者庁は,重大事態が発生した時には,関係大臣等を本部員とする緊急対策本部を速やかに開催し,関係省庁と連携して,即時に各方面から被害情報収集をし,消費者の安全のための施策を適切に行う必要がある。
たとえば,2013年(平成25年)12月29日,冷凍食品から農薬(マラチオン)が検出され,事業者から自主回収するとの発表がなされた事件では,消費者庁は,消費者安全法を踏まえ,消費者に対し注意喚起するとともに,食品衛生法を所管する厚生労働省をはじめ,食品安全委員会,農林水産省,警察庁等と連携し,情報の共有と被害の拡大防止等の対応にあたった。
こうした緊急事態においては,対応の遅れが深刻な事態を引き起こすおそれがある。そのため,消費者庁は,事態発生から数時間以内に会議を開き,官邸や省庁を回って情報収集と情報共有を行い,対策を講じる必要がある。場合によっては問題になった物品そのものを関係省庁に示すなどして迅速・確実な情報伝達をすることも危機管理上必須である。
このような緊急対応の機能を十分に果たすためには,消費者庁は,官邸及び関係省庁と同一地域に所在することが必要である。
(3) 小括
以上のように,消費者庁は,多数の省庁に分散している消費者行政を総合的に推進する司令塔として重要な機能を担っており,また,国民の安心安全を脅かす重大な事態が生じたときには,官邸と一体となり緊急対応を行う危機管理機能を担っている。
消費者庁が官邸及び関係省庁から離れた場所に移転すると,これらの機能が損なわれるおそれがあるため,消費者庁の移転を進めることには反対である。
3 国民生活センター及び消費者委員会の地方移転について
国民生活センター及び消費者委員会は,消費者庁と相互に連携しつつ一体的に消費者政策の司令塔機能を果たすことが求められる組織である。
国民生活センターは,全国の消費生活相談情報を集約・分析し,消費者庁との間で情報分析についての定期的な協議会を開き,この結果に基づいて,各省庁の消費者関係法制度の不備や見直しの問題提起を行う機能を担っている。消費者委員会は,消費者庁からの諮問事項を審議する役割を担っている。
国民生活センター及び消費者委員会が,消費者庁及び関係省庁から離れた場所に移転すると消費者庁の司令塔機能を具体化する情報分析や政策提言機能が低下していくことが強く懸念されるため,国民生活センター,消費者委員会の移転を進めることにも反対である。

以上