声明・決議・意見書

その他2014.01.21

携帯電話の宅下げ手続拒絶に対する申入書

福山西警察署長 殿

広島弁護士会
会長 小野裕伸

申  入  書

貴署において,当会会員らが国選弁護人として就任している被疑事件に関し,留置担当者が,被疑者所持に係る携帯電話の宅下げの手続きを不当に拒絶した件に付き,下記のとおり申し入れる。

第1 申入の趣旨
押収されていない被疑者・被告人の所持品について,今後,弁護人に対する宅下げ手続の拒絶が行われることのないようにされたい。

第2 申入の理由
1 宅下げ拒絶事案の経過
平成25年6月上旬,当会会員Aら(以下,「会員ら」という)が,国選弁護人として弁護活動を行う中で,貴署に勾留中の被疑者が,携帯電話を弁護人に宅下げしようとしたところ,対応した貴署留置係から,宅下げ手続を行うことを拒絶されるという事案が発生した。
被疑者と接見した会員らが上記経緯を把握した同月12日時点では右携帯電話について領置手続も差押え手続きもとられていなかった。
そのため,会員らが,貴署留置係に,携帯電話の宅下げができない理由について釈明を求めたところ,同会員らは右係から「回答は出来ない。」と返答を受けた。
会員らは,携帯電話の宅下げを受けずに貴署を離れざるを得なかったが,その日のうちに,A会員に対し,貴署警務課長から事情を釈明する連絡があった。
同人は,A会員に対し,「携帯は任意提出する予定と聞いていたので,宅下げできないという対応になった。携帯を宅下げ出来ない法的な根拠はなかったので,次に弁護人が来署した折,手続してもらえば宅下げする」と告げた。
しかし,右携帯電話は,同月14日に,差押手続きがとられ,結局会員らにおいて,携帯電話の宅下げを受けることができず,携帯電話の通信履歴等の内容を確認することが困難となった。

2 申入れの趣旨の説明
刑事訴訟法第39条第1項が「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。」として,被疑者と弁護人との接見等の交通権を規定しているのは,憲法第34条及び憲法第37条第3項の趣旨に則り,身体の拘束を受けている被告人等が弁護人と相談し,その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を確保するためである。その意味で,刑訴法の上記規定は,憲法の保障に由来するのであり,身体の拘束を受けている被疑者が弁護人に宅下げを行うことも,憲法及び刑事訴訟法により保障されている重要な権利である。
弁護人への宅下げの拒否は,憲法や刑事訴訟法で保障された権利を侵害する違法行為であるところ,本件では,貴署留置係の違法な行為により,被疑者の上記権利が侵害された。
特に,上記被疑事件は,裁判員対象事件という重大事件であることに加え,犯人性を争う否認事件であった。本件において被疑者は,アリバイの手がかりとして,携帯電話の通話履歴を弁護人に確認してほしいと,宅下げを行おうとしたものである。しかし,携帯電話の宅下げは違法に拒絶され,その後,直ちに,右携帯電話の差押手続きがとられた。そのため,会員らは被疑者のアリバイの一資料である通話履歴等の確認を迅速に行うという,弁護人に期待される行動をとることができず,また,履歴の確認結果を踏まえた防御活動を行うことができなかった。
本件の事実経過からは,貴署職員が,弁護活動を妨げ,当時は令状の発付がなされていなかった差押手続のために,携帯電話の宅下げを,故意に拒否したとの疑念さえ生じる。
貴署警務課課長の釈明どおり,本件の事態が,貴署担当者の重大な誤解により生じたものであるならば,今後は誤った法解釈に基づく処置がなされ,被疑者等の防御活動が妨げられることがないようにされたい。
今後も本件のような事態が繰り返されるとすれば,被疑者,被告人,弁護人の弁護活動が著しく妨げられる。当会は,かかる事態を憂慮する。
貴署において,緊急に対応を取られたく,上記のとおり申入れを行う。

以上