声明・決議・意見書

会長声明2006.01.09

依頼者密告制度について

広島弁護士会
会長  大本和則

5月18日広島弁護士会定期総会、5月26日日本弁護士連合会定期総会において、弁護士会から警察に対する依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)の立法化を阻止する決議がなされた。
依頼者密告制度は、弁護士にもマネー・ロンダリングやテロ資金の移動に利用される金融取引について、依頼者の行う「疑わしい取引」を警察に通報する義務と、通報の事実を依頼者に秘匿する義務を果すものであり、政府はそのような依頼者密告制度の立法作業を進めている。
弁護士は、法律専門家として依頼者の基本的人権と正当な法的利益を擁護することを職務の本質としている。この弁護士の職責を全うするためには、依頼者の全面的な信頼の下に、依頼者から秘密事項を含め全ての事実の開示を受けたうえで、依頼者にとって最善の方策を立案し遂行しなければならない。弁護士の守秘義務は、依頼者が、有利不利を問わずあらゆる事実を安心して弁護士に打ち明けられることを保障する制度であり、弁護士の職務の適正な遂行のために不可欠である。また、弁護士は、人権擁護のためには、国家権力の過ちも臆することなく正すことができなければならない。そのために、弁護士は政府機関から独立し、その監督を受けない職業として位置づけられており、同時に弁護士会にも高度の自治が認められている。
しかしながら、弁護士に、このような密告義務が法律上課されることになれば、弁護士制度の根幹である弁護士の守秘義務と政府機関からの独立の原則がゆるがされてしまう。市民が安心して秘密を打ち明け、弁護士の助言に従って法を遵守することができなくなれば、法の支配を実現する機会が失われるおそれがある。その結果、弁護士制度の存在意義は危うくなり、民主的な司法制度の根幹が揺らぐこととなる。
当会は、弁護士が依頼者を警察に密告する制度を決して容認することはできない。

以上