声明・決議・意見書

総会決議2009.05.25

司法修習生の修習資金貸与制を廃止し、給費制の復活を求める決議

第1 決議事項
当会は、政府、国会、最高裁を含む関係機関に対し、2010年11月1日から司法修習生に対し実施される修習資金を国が貸与する制度(貸与制)を廃止し、給費制を復活させることを求める。
第2 提案理由
1 貸与制の導入に関する裁判所法の改正
国会は、2004年12月、給費制を廃止し修習資金の貸与制を実施することとして裁判所法を改正した(裁判所法67条の2 修習資金の貸与等)。ただし、当初の法案では、2006年11月1日からの実施予定であったが、貸与制について周知徹底するためとして実施が4年間延期され、付則で2010年11月に定められた。
その際、衆参両議院共通の付帯決議がなされ、1項で、改革趣旨・目的が、「法曹の使命の重要性や公共性にかんがみ、高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を養成する」ものであること、3項で「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」が明記された。
2 裁判所法改正の当時の理由
(1)  給費制の見直しの必要性は、①国家公務員の身分をもたない者に対する支給は極めて異例の取扱いである。②司法修習は個人が法曹資格を取得するためのものであり受益と負担の観点からは必要な経費は修習生が負担すべきである。③現行の給費制は法曹人口が希少であった戦後間もなく導入されたが、法曹人口に係る情勢は大きく変化したなどが理由として挙げられた。
(2)  しかし、その実質的な理由として、第1は、司法試験合格者数を平成22年には年間3000人にすることを目指すという法曹人口の急激な増大等による財政的支出の拡大のほか、法科大学院制度の導入による財政的支出の拡大が不可欠であるなど司法予算に関する支出増の危惧である。第2は、司法修習生の多くが弁護士という民間人となるのに、国家が給与を与えることへの国民の理解が得られないというものであった。
3 裁判所法改正後の実情
(1) 法科大学院の乱立・多数入学者、低合格率
法科大学院(ロースクール)は、現在、全国各地に74校が設立されている。そして、法科大学院には、入学が始まった2004年~2008年度までに、毎年5800~5400名の入学者があった。当初の司法制度改革審議会では、合格率からみて1学年3500から3600名とされていたが、現実には、これを大幅に上回る入学者数となっており、いわば法科大学院の乱立状態となっている。この法科大学院の乱立状態と入学者数の増加等は、司法制度改革審議会の期待した司法試験合格率である約7~8割をはるかに下回る大きな原因のひとつとなり、現実の合格率は、2006年度が48%、2007年度が40.2%、2008年度が33%にとどまっている。
(2) 多様な入学者・志願者全体の減少傾向等
司法制度改革審議会が望ましいとした法学部以外の未修者や社会人入学者は、2006年度と2008年度を比較すると、約300名減少しており、他分野からの有為の人材の集まりに翳りが見られる。
そればかりか、法科大学院への志願者全体につき、2007年度では4万5207名であったものが、2008年度では3万9555名と約6000名減少している。
(3) 費用等
法科大学院の費用として、入学金がおおむね20万円から30万円、年間授業料が80万円から130万円、その他の負担も年間20万円から30万円を要する。それに、社会人入学者は家族の生活を支えなければならない。現実には未修者が法科大学院で学ぶということは「1000万円もかかる大事業」となっている。そして、司法試験合格後の司法修習生時代においては、職務専念義務によりアルバイトさえ行うことができない。更に、司法修習生には就職困難が次に待っている。すなわち、急激な法曹人口増により弁護士事務所への就職が困難になっているうえ、公務員・社内弁護士など他分野への進出も現状では増員に見合うものにはなっていないし、裁判官、検察官の増加はわずかである。このような状況の中で、当初予想されていた7割から8割程度の合格率が実現していないため、ロースクール卒業後、司法試験に合格するまでの間、しばらく期間を要する受験生も存在し、司法修習期間の1年間の生活費に加えていわゆる浪人中の生活費も必要ということになる。法科大学院を設置するにあたり、経済的な理由による入学者に配慮するということが、司法制度改革審議会における意見書においても指摘されているところであるが、司法修習にあたっても、経済的理由により入学することが困難にならないように配慮する必要がある。
4 司法修習生に対する給費制の役割及び現状での廃止に伴う弊害
司法修習生に対する給費制は、有為な人材の確保、司法修習への専念、多様かつ重要な修習への参加支援、公共心の醸成された人材の育成、あるいは、司法修習後に弁護士になった者の社会への貢献・還元という諸点からも以下のとおり極めて重要な役割を果たしてきた。
(1) 有為な人材の確保
我が国の従来の法曹の人材確保については、改革すべき諸点が多数存在したものの、法曹資格の取得については貧富の差を問わず広く開かれた門戸となり、従来の法曹養成制度は、決して「金持ちにしか法曹になれない制度」ではなく多様な人材が、裁判官、検察官、弁護士として輩出されてきた。この点、非常に高く評価すべきであり、また、将来もそのようでなくてはならない。司法制度改革審議会も「資力のない人、資力が十分でない者」が法曹となる機会を求めている。
法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度の下においては、大学卒業後、さらに法科大学院に2年ないし3年間在学することが必要とされ、法曹を志す者は司法修習生となるまでに上述のとおり多大な経済的負担を負っている。そのうえ、司法修習生となっても、給費制が廃止されれば、経済的負担の更なる増大は避けられない。給費制が廃止されれば、21世紀の司法を支えるにふさわしい資質・能力を備えた人材が、経済的事情から法曹への道を断念する事態も予想され、その弊害は極めて大きい。現在問題となっている格差社会が法曹の世界にも発生する危険性が強くなる。
(2) 確保した人材の育成
司法修習制度は、法曹三者を養成するための制度である。法曹三者のうち弁護士は、現行制度上、民間に属する者とされているが、憲法上、司法権の一翼を担う存在として条文上規定されており、公的職務活動の一部として、刑事被疑者・被告人のみならず、抑留・拘禁された者に対する弁護活動を行うことも条文上規定されており、弁護士の養成は、法曹一元の実現のためにも裁判官、検察官と同様に考える必要がある。そして、給費制は、現行司法修習制度の下、法曹、とりわけ弁護士の公共性を制度的に担保する役割を歴史的に果たしてきた。当番弁護士制度、法律相談センター事業、過疎地における公設事務所の開設など弁護士・弁護士会による各種の公益活動は、弁護士の公共性・公益性を具体的な形としてあらわしたものである。また、弁護士の人権擁護のための諸活動(例えば、人権救済、子どもの虐待防止活動、消費者保護運動、犯罪被害者支援活動等)をボランティアで支えてきたのは、弁護士の強い使命感である。
また、弁護士は、法科大学院の運営のために実務的教育をボランティアに近い状態で懸命に行っているほか、資金的に十分でない法科大学院生のために奨学金制度を設置し運営するなどの努力も尽くしている。これも弁護士の強い使命感の現れである。
さらに、被疑者国選制度が、2006年10月から法定合議事件に、2009年5月から必要的弁護事件にと拡大され、全国の弁護士会がこれについて責任をもった弁護体制の確立に努力しているところである。弁護士会・弁護士の社会的責任がこれまでより飛躍的に大きくなってきている。
これらの活動、そして制度構築の使命感は、給費制という経済的支援が行われてきた現行司法修習によって醸成されてきたものといっても過言ではない。
法科大学院制度が導入され、費用負担増となっている現状において、従来実施されてきた給費制を廃止することは、弁護士になろうとする者の社会的責任(公益性)の役割分担によい影響を及ぼすことはない。
5 結論
このように、裁判所法改正後の実情を踏まえた場合、給費制を廃止し貸与制を実施することは、司法制度改革の理想を損ない、付帯決議が危惧した状況を顕在化させることになりかねない。
また、付帯決議においては、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこととされているが、これまで十分な議論がされてきたとは到底思えず、このまま貸与制に移行することは、付帯決議にも反することになる。
そこで、法曹教育の一端を担う当会としては、次世代の法曹を養成するためには、政府・国会・最高裁判所等関係機関で協議を行い、2010年11月1日から実施される修習資金貸与制を廃止し、司法修習生に対し給与を支給する給費制を復活させることを求めるものである。

以上