声明・決議・意見書

会長声明2020.07.08

最低賃金額の引上げを求める会長声明

2020年(令和2年)7月8日

広島弁護士会会長 足 立 修 一

 

第1 声明の趣旨

1 当会は、中央最低賃金審議会に対し、2020年度(令和2年度)地域別最低賃金額改定の目安についての答申において、目安を引き上げることによって地域別最低賃金額の引上げを促すことを求める。

2 当会は、広島地方最低賃金審議会に対し、主体的に2020年度(令和2年度)地域別最低賃金額の引上げを図ることを求める。

 

第2 声明の理由

1 中央最低賃金審議会は、近々、厚生労働大臣に対し、地域別最低賃金額改定の目安についての答申を行う予定である。その後、この目安答申を受けて各都道府県地方最低賃金審議会においても調査・審議を経て、賃金額改定の答申がされ、これを踏まえ各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定することとなる。

2 近年、非正規労働者の数が全労働者の4割弱にまで増加し、世帯におけ る主たる稼得者が非正規労働者であるという世帯も多数現れ、いわゆる「ワーキングプア」と呼ばれる貧困層が拡大している。

最低賃金法は、第1条において、「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障すること」によって「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」に資することを目的とする旨を明示しているところ、このような現状を踏まえれば、最低賃金制度をすべての労働者を不当に低い賃金から保護する安全網(セーフティネット)として真に実効的に機能させることが必要不可欠であり、人間らしい生活を持続的に営むことができるよう、最低賃金額が決定されなければならない。

3 最低賃金に関し、政府は、「新成長戦略」(2010年(平成22年)6月18日閣議決定)において、2020年までに最低賃金時間額の全国加重平均を1000円にするという目標を掲げ、「ニッポン一億総活躍プラン」(2016年(平成28年)6月2日閣議決定)においても、年率3%程度を目途として全国加重平均が1000円となることを目指すとした。また、2019年(令和元年)6月21日、閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2019」においても、改めて「より早期に全国加重平均が1000円になることを目指す。」と宣言した。更に、安倍晋三内閣総理大臣は、2020年(令和2年)6月3日、総理大臣官邸で開催された第8回全世代型社会保障検討会議を踏まえ、「昨年、より早期に全国加重平均1,000円になることを目指す、との方針を閣議決定いたしました。経済の好循環を回していく上で、賃上げは重要であり、中小企業の取引関係を適正化しつつ、この方針を堅持します。」と述べている。このような政府の目標を達成する上でも最低賃金額の大幅な引き上げが必要不可欠というべきである。

4 現在の地域別最低賃金額の全国加重平均額は、1時間あたり901円であ る。しかし、この金額では、1日8時間、週40時間働いたとしても月収約15万8500円、年収で約190万円にしかならない。そして、広島県の地域別最低賃金額は、2019年(令和元年)10月1日発効の額で、1時間あたり871円にすぎない。

これでは、労働者が賃金だけで人間らしい生活を持続的に営むことはできず、すべての労働者を不当に低い賃金から保護する安全網(セーフティネット)としての最低賃金制度の目的を果たしていない。

もっとも、新型コロナウイルス感染症をめぐる昨今の状況の中では、中小零細企業が置かれている厳しい状況を踏まえ最低賃金額引上げに反対する声もある。しかしながら、最低賃金額の引上げの実施は、上記貧困問題の解決に向けた喫緊の課題であり、いわば、労働者やその家族の命に関わる重要な課題である。これまでの最低賃金額引上げの流れを止めることなく、中小零細企業への支援策を充実させると同時に最低賃金額の引上げを図ることが肝要である。

5 よって、当会は、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び国民経済の健全な発展への寄与という最低賃金法の目的を達するため、改めて、中央最低賃金審議会に対し、今回の答申において目安を引き上げることによって地域別最低賃金額の引き上げを促すことを求めるとともに、広島地方最低賃金審議会に対し、主体的に地域別最低賃金額の引上げを図ることを求める。

 

以上