声明・決議・意見書

会長声明2021.07.14

少年法改正に関する会長声明

2021年(令和3年)7月14日

 

広島弁護士会

会長  池上 忍

 

第1 声明の趣旨

当会は,政府及び裁判所に対し,本年5月21日,参議院で可決・成立した「少年法等の一部を改正する法律」(以下「本改正法」という。)下においても,18歳・19歳の「特定少年」について,引き続き,「少年の健全な育成」という少年法の目的及び理念に則った適切な運用・対応を行うよう求める。

 

第2 声明の理由

1 はじめに

本改正法は,18歳・19歳の者を少年の健全な育成を目的とする少年法の適用対象としつつ,「特定少年」と位置付けた上で,18歳未満の少年と異なる取り扱いを予定している。

これは,当会が本年2月10日付け「少年法改正に反対する会長声明」で指摘した問題点が修正されないまま本改正法の成立に至ったものであり,極めて遺憾である。

本改正法の施行にあたっては,以下の問題点を考慮し,少年法の目的及び理念に則った適切な運用・対応が求められる。

 

 問題点①:原則逆送事件の対象範囲を短期1年以上の懲役・禁錮にあたる罪にまで拡大するとされたこと

本改正法により,特定少年については,家庭裁判所が原則として検察官に送致する事件(以下「原則逆送事件」という。)の対象に,多くの事件が含まれることとなる。本来保護観察や少年院送致といった適切な保護処分が相当と考えられる事件であっても,本改正法により,安易に「原則逆送」とする実務運用がなされた場合には,原則逆送事件として刑事裁判を受け,少年法の理念に沿った何らの適切な保護・教育の機会も得られないまま社会生活へ復帰することになり,「少年の健全な育成」という少年法の目的及び理念に反する結果となりかねない。

そこで,原則逆送事件であっても,家庭裁判所が,検察官に事件を送致することの当否を判断するにあたっては,様々な犯情のものがあることを踏まえ,参議院法務委員会の附帯決議でも指摘されている通り,きめ細かな調査及び適正な事実認定に基づき,犯情の軽重及び要保護性を十分に考慮する運用が行われる必要がある。

 

3 問題点②:保護処分の決定に際して犯情の軽重が考慮されること

特定少年については,特例として保護処分に際して犯情の軽重を考慮することが規定された。もっとも,これを過度に考慮することになると,要保護性が低いにもかかわらず,犯情の重さから,安易に重い保護処分を課され得る。他方で,特定少年の生活環境等の観点から要保護性が高い場合に,犯情が軽微であるが故に,相当な保護処分が課されず,結果として当該少年の課題克服を十分進めることができないといったケースが生じ得る。少年法の目的及び理念は,「少年の健全な育成」であることに照らし,家庭裁判所の保護処分は,あくまで当該少年の要保護性に応じた適切な処分を選択するべきである。この点,本改正法の国会審議においても,犯情の軽重は責任の上限を画するものであり,少年の要保護性に応じて適切な処分を選択する運用をするべきであるとの政府答弁が行われていることに鑑みれば,そのような適切な運用が行われる必要がある。

 

4 問題点③:公判請求後に推知報道の禁止が解除されること

インターネット社会では報道内容が半永久的に残り,誰でも検索すると過去 の犯罪事実を把握できる。そうすると,特定少年が就労や住居の賃借など生活基盤を得ようとしても,報道内容の存在を理由に著しく困難となり,その立ち直りが阻害される。また,家庭裁判所が,事件を検察官に送致した後に公判請求されたとしても,少年法55条により,再び家庭裁判所に送致され保護処分に付されることもあるから,最終的に保護処分相当と判断されたにもかかわらず,公判請求段階で氏名等が公表されることは,保護処分による当該少年の立ち直りを著しく阻害する結果となる。

この点,衆参両院の各法務委員会において附帯決議がなされたとおり,政府及び裁判所が,特定少年のとき犯した罪についての事件広報については,当該特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないことの周知に努める必要がある。また,報道現場において,少年法の理念及び目的が十分理解され,報道によって少年の健全育成及び立ち直りが妨げられることがないよう,事件報道の内容や在り方について,十分検討した報道がなされるよう注視する必要がある。

 

5 問題点④:不定期刑や資格制限の特例が適用されないこと

不定期刑は,可塑性に富む少年に対して,弾力的な処遇ができるように採用されている制度であり,資格制限の特例は,そのような少年に対して立ち直りの機会を与える制度である。これらの制度が特定少年について適用されないことで硬直的な処遇となり,その立ち直りの機会が奪われることになりかねない。

この点,衆参両院の各法務委員会における附帯決議でも,前科による資格制限の在り方について,政府全体として速やかに検討を進めることが指摘されている。

政府に対して,少年法の目的及び理念に則り「少年の健全な育成」に資する関係法令の法改正を含めた速やかな対応を行うよう求める。

 

6 結語

当会は,政府及び裁判所に対し,本改正法について,上記各問題点を踏まえた適切な運用・対応を求めるとともに,個別の事件において,「少年の健全な育成」という少年法の目的及び理念に沿った弁護人・付添人活動を一層充実させるよう取組を進める決意である。

以上