声明・決議・意見書

会長声明2024.04.24

離婚後の共同親権導入を含む民法等改正法案について十分かつ慎重な議論を求める会長声明

2024年(令和6年)4月24日

広島弁護士会 会長 大植 伸

第1 声明の趣旨

離婚後の共同親権の導入を含む民法等の改正法案について、法案を取り下げ、子どもの福祉を現実的に確保するために十分かつ慎重な議論を重ねることを求める。

 

第2 声明の理由

1 2024年(令和6年)4月16日、離婚後の共同親権の導入を含む「民法等の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」という。)が衆議院本会議で与野党の賛成多数で可決された。

改正法案は、「家族法制の見直しに関する要綱」の素案を審議してきた法制審議会家事法制部会(以下「法制審」という。)での審議過程において、37回の会議を重ねたものの、全会一致の慣行のある部会内の採決で複数の部会委員が反対・棄権したという異例の経過を経て答申され、閣議決定を経た。法制審が令和4年11月15日に取りまとめた試案についてのパブリックコメントにおいては個人からの意見は離婚後の共同親権の導入に対し反対意見が多かったにもかかわらず、離婚後の共同親権を採用する法案が提出され今に至っており、離婚後の共同親権を導入することそのものに国民の理解が得られているとはいえない状況にある。

また、その内容においても、改正法案には、以下のような重大な問題がある。

 

2 第一に、改正法案においては、共同親権下において各親権者が単独で行使できる「監護及び教育に関する日常の行為」と、共同して親権を行使すべきとされる重要な行為の具体的な内容がいずれも不明である。

現実に離婚後の子の監護に関し問題となるのはこれらの具体的な内容であるところ、それらについて何ら規定されないまま、共同親権を導入すれば、上記具体的な内容を巡る紛争が多発するおそれがある。

そもそも、離婚を選択する父母は、一般的に関係が悪化していることが想定される。中には、協議をすることが難しい、会話すらできない父母も存在し、そのような当事者関係において、上記のとおり不明確な内容すべてについて、「協議をして子どもに関する決定をする」ことを強いれば、協議ができないことにより決定ができないまま時間が過ぎる事態が起こることが予想され、結果として、「協議ができない」「決まらない」ことで、子どもの進学、医療などに支障が出るおそれがある。

また、「日常の行為」についての具体例が定められていないことで、風邪をひいて小児科を受診する、子どもに見守り携帯を買い与える、習い事をするなどの様々な決定事項について、他方の親権者に相談しなければいけないのかという疑問が生じる。仮に子を監護する親がそれを決めたとしても、他方の親権者が「日常の行為」ではないと判断すれば法的紛争につながり、いずれにせよ子どもの福祉に反する事態となる。

 

3 第二に、改正法案には、「急迫の事情」がある場合であれば例外的に単独で親権行使をすることができる旨の規定があるが、何をもって「急迫」とするのかが具体的に定められていない。

夫婦が離婚する家庭の中には、身体的・精神的なDVや児童虐待などが存在するものもあり、避難のために親が子連れ別居をすることがあるが、何をもって「急迫」とするかが不明確だと単独で親権を行使できるのかどうかの判断が難しく、避難への萎縮効果が生まれDVや児童虐待の環境下から逃れられない子どもを増やすことにもなりかねない。また、避難後に「急迫」に該当するかをめぐり他方の親から裁判を起こされ、裁判対応の負担を強いられることにもなりかねない。

 

4 第三に、現状では、離婚後共同親権導入に伴って発生する様々な諸問題を解決するだけの体制が、各地の家庭裁判所に備わっていない。

現在、離婚を選択する夫婦の約9割は協議離婚しており、家庭裁判所を利用した離婚は1割程度であるが、それでも、家庭裁判所においては、調停室が確保できず調停期日が指定できない、裁判官や調停委員等の日程が合わないなどの理由で、次回の調停期日までに1カ月以上期間が開いてしまうという事態が日常的に生じている。離婚後共同親権を導入した場合(過去に離婚した夫婦について、共同親権への変更を許容した場合はさらに)、親権行使をめぐる法的紛争、あるいは、共同親権を希望する父母の離婚に伴う法的紛争は、確実に増加する。

離婚後の共同親権の導入に伴い調停及び審判の件数が増加すれば、  調停申立から最初の調停期日まで数か月かかるなどの事態も起こりかねず、離婚に伴う紛争解決がスムーズにできない父母が激増するし、個々の親権行使に関する決定ができず、子の養育が立ち往生する事態が多発するものと考えられる。特に、家庭裁判所においては、児童福祉法に基づく児童の安全確保のための措置や、子どもの引き渡しをめぐる紛争、生活費をめぐる紛争など緊急性の高い紛争も多く取り扱われるところ、家庭裁判所の機能が低下して処理が遅くなるような事態は許されない。

施設や人員の十分な拡充がないまま改正法案が成立すれば、家庭裁判所の機能不全につながるばかりか、児童の一時保護の長期化、期日が指定できず婚姻費用の支払いに関する審理が進まない、子どもの安全が長期間確認できないなど、場合によっては子どもの生死につながる問題が発生するおそれがある。

 

5 第四に、改正法案は、離婚後の共同親権導入について合意がない場合でも裁判所が共同親権を命じられるとしている点にも問題がある。当事者で話し合いによる離婚がかなわず、家庭裁判所が関与することになった高葛藤のケースで、当事者の合意がないにもかかわらず裁判所が共同親権を命じるべきケースがおよそ想定できない。仮に、葛藤が高く話し合いができない場合に裁判所が離婚後の共同親権を命じることになれば、当事者の親権行使をめぐる紛争が、当事者の意思に反して離婚後も続くことになり、結果として子どもの福祉を害する。

 

6 その他、日本弁護士連合会は子どもの生活の安定確保という観点から離婚後に共同親権を選択した場合の監護者指定を必須とすべきと主張していたが改正法案ではこれが必須としないものとされた点、親子関係における基本的な規律のなかに「子どもの意見を尊重すべきこと」が明記されなかった点、「親権」という用語が維持された点等も問題である。

 

7 上記のとおり、改正法案には多くの問題がある。

当会は、改正法案が上記のような問題を抱えたまま、また、国民の十分な理解が得られているとは必ずしもいえない状況で、今国会において拙速に可決されようとしていることに対し、強い懸念を表明する。

そして、離婚後の共同親権についての国民の理解を得るため、今国会において拙速な採決をするのではなく、法案をいったん取り下げた上で、多くの当事者(離婚を選択した父母だけでなく、子ども及び子どもを取り巻くあらゆる関係機関を含む。)をはじめとする国民の意見を踏まえた十分な議論を重ねることを求める。

 

 

以上