声明・決議・意見書

会長声明2024.05.03

憲法記念日を迎えるに当たっての会長談話

2024年(令和6年)5月3日
広島弁護士会 会長 大植 伸

1 本日は、日本国憲法が施行されてから77年目の憲法記念日です。

1945年8月6日、広島に一発の原子爆弾が投下されました。原子爆弾 は一瞬で広島の町を破壊し、数多くの命を奪い去りました。生き残った人々も放射性被ばくの影響で苦しむことになり、その苦しみは今も続いています。

平和記念公園内の原爆死没者慰霊碑に「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」と刻まれているのは、政府の行為によって、この惨禍を二度と繰り返さない、との誓いです。

この原爆投下の9日後、日中・太平洋戦争は終わり、1947年5月3日に公布されたのが「日本国憲法」です。日本国憲法は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍がおこることのないやうにすることを決意し」、基本的人権の尊重、国民主権、恒久平和主義の三つを基本理念としました。国民一人ひとりが個人として尊重されるためには、戦争を放棄した平和な世の中でなければなりません。誰もが平和な世界で基本的人権を享受するために、国民一人ひとりが主権者となり、未来を切り開いていくのです。この憲法は、戦争によって全てを失って悲嘆に暮れていた国民に対し、生きていく希望や道筋を与えたものであったはずです。

2 しかし、公布から77年を経た現在、この日本国憲法の理念は脅かされ続けています。

2015年9月19日、国会において安保関連法が強行採決され、成立しました。この安保関連法は、これまで禁止されていた集団的自衛権の行使を容認したうえ、自衛隊が他国の軍隊と一体となって戦争を遂行することを可能にするものです。さらに、政府は、2022年12月16日、いわゆる「安保3文書」の改定を閣議決定しましたが、これは、安保法制をさらに進め、相手国の領域に直接武力攻撃を行うための反撃能力の保有をも認めるものです。

現在、政府は、これらに基づき沖縄県南西諸島においてミサイル基地を設置するなどして基地機能を強化しています。呉海上自衛隊基地は、空母化されて最新鋭戦闘機F35-Bの配備が可能となった護衛艦「かが」の母港となり、さらに呉市内の製鉄所跡地に複合防衛拠点を設置することも検討されています。

また、世界に目を向けると、2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻し、さらに2023年10月には、イスラエルがパレスチナ・ガザ地区に侵攻するなど、戦争が広がっています。特に、核保有国であるロシアのプーチン大統領は、「国の存続が危機にさらされれば核兵器使用を辞さない」旨発言しており、核兵器の使用も危ぶまれる事態となっていて、日本国憲法の理念の実現が困難となっています。

3 広島弁護士会は、被爆地広島の弁護士会として、「政府の行為によって再び  戦争の惨禍がおこることのないやうに」、これまでも安保関連法、安保3文書は憲法9条等に反するものであり、許されないと訴えてきました(2016年2月24日会長声明、2023年2月22日会長声明)。さらに、ロシアのウクライナ侵攻に対しても反対(2022年3月1日会長談話)するとともに、核兵器根絶の推進を訴えてきました(2020年10月26日会長声明、2021年1月26日会長談話、2023年2月23日会長声明、2024年1月22日会長声明)。

日本国憲法の理念は、安全保障環境が変化しても、決してその内容と価値が変わるものではありません。武力に依拠するのではなく、日本国憲法が掲げる恒久平和主義の原理に基づき、「政府の行為によって再び戦争の惨禍がおこることのないやうに」、政府が関係諸国との間で主体的な役割を果たし、国際平和の維持のために最大限の外交努力を尽くすことこそが、今、必要とされているのです。

4 当会は、被爆地広島の弁護士会として、二度と戦争の惨禍を繰り返さず、核兵器廃絶を実現するために、提言や意見表明等を通じて日本国憲法の理念が社会に行き渡るよう、今後も活動を続けていくことを憲法記念日に表明します。

以上