声明・決議・意見書

勧告書・警告書2019.05.31

学生団体更新手続きに関する要望書

A大学
学長 B 殿

広島弁護士会
会長 今井 光

広島弁護士会 人権擁護委員会
委員長 原田 武彦

【要 望 書】

当会は,Cを申立人,A大学を相手方とする人権救済申立事件(2017年(平成29年)度第6号) について,当会人権擁護委員会による調査の結果,救済措置を講ずる必要があるとの結論に達したので,当会常議員会の議を経た上で,下記のとおり要望する。

【要望の趣旨】
2017年(平成29年)5月31日,申立人がA大学(以下「相手方大学」という。)に対し,当時申立人を構成していた10サークル(以下「申立人傘下の各サークル」という。)の学生団体更新手続き(以下「本件更新手続き」という。)を申請するに際し,上記各サークルの構成員を記載した名簿(以下「団体構成員名簿」という。)を提出しなかったところ,相手方大学は,2018年(平成30年)9月14日改正前の「A大学学生生活に関する規則」(以下「本件旧規則」という。)上の根拠がないまま,従前と異なり団体構成員名簿の提出がないとして本件更新手続きにおいて提出された各学生団体更新届を受理しなかったこと(以下「本件不受理行為」という。)は,申立人傘下の各サークル及び申立人代表者を含む各構成員の結社の自由を侵害する行為というべきである。
ただし,2018年(平成30年)9月14日に本件旧規則が改正され,現時点では,団体構成員名簿の提出が規則上に根拠のある取扱いとなっていることなどの事情を勘案して,当会は,相手方大学に対し,以下のとおり,求める。
1 今後,学生団体の結成及び更新手続きにおいて,2018年(平成30年)9月14日の改正により新設された規則(以下「本件規則」という。)に根拠のない運用を行なわないよう要望する。
2 今後,提出された団体構成員名簿は,本件規則第5条4項6号の制定趣旨に従い,学生団体更新届記載の所属学部別の構成員数の裏付け資料及びサークル内で事件・事故等が発生した際の学生の連絡先としてのみ使用し,これら以外の目的で使用しないよう要望する。

【要望の理由】
第1 申立の趣旨
相手方大学の教育室教育学部学生生活支援グループ(以下「本件支援グループ」という。)が,申立人に対し,2017年(平成29年)5月31日に,本件更新手続きに際し例年の姿勢を覆して申立人傘下の各サークルの団体構成員名簿の提出を強要して本件不受理行為を行い,それ以降サークル助成の不供与などの不利益な取扱いを行っていることを改めさせ,今後とも同様の対応が行われないよう求める。

第2 申立人の主張と相手方大学の反論
1 申立人の主張
(1)申立人が団体構成員名簿の提出を拒否してきた理由と従前の相手方の対応
相手方大学は,本件旧規則が制定されて以降,団体更新手続きに際し団体構成員名簿の提出を求めるようになった。しかし,申立人は,1990年(平成2年)に公安調査庁によるサークル活動への介入が発覚したにも関らず,相手方大学が再発防止のため十分な措置を行わなかったことをはじめとする相手方大学に対する不信感を背景に,提出を求められる根拠が不明確であること,本件旧規則の制定が学生を排除したものであったこと等を理由として,表現や思想の自由を守るため団体構成員名簿の提出を拒否する姿勢を堅持してきた。
これに対し,相手方大学は,「今年も,Cは名簿を出さないのですね。」と発言することはあったものの,それ以上に団体構成員名簿の提出を求めることなく,更新手続きを受理していた。
(2)本件不受理行為
申立人が,2017年(平成29年)5月31日,本件申請手続きを申請したのに対し,相手方大学は,それまでの対応は誤りであったとして,本件旧規則を根拠として団体構成員名簿がなければ団体更新手続きを受理できないことを理由に本件不受理行為をした。
(3)本件不受理行為が申立人に及ぼした不利益と人権侵害
本件不受理行為により,申立人傘下の各サークルの更新手続きは行えなかった。これにより,上記各サークルは,本件人権救済申立がなされている状況下ではともかく,将来的には,相手方大学から従来得られていたポストやボックスの使用,助成金の取得等の大学公認団体としての権利を行使し得なくなる可能性が高い。
のみならず,相手方大学の本件不受理行為により,申立人と申立人傘下の各サークル団体との信頼関係が破壊され,上記サークルのうち5サークルは申立人を脱退して,別のサークル団体に所属して活動する結果を招いている。
上記からすると,相手方大学の本件不受理行為は,申立人傘下の各サークル及びサークル構成員が有する結社の自由及び表現の自由の侵害であるというに十分である。
なお,本件不受理行為に見られる相手方大学のサークル活動への無理解や高圧的態度からすると,相手方大学は,今後,申立人のみならず他のサークル活動に対する不当な干渉を行い,また,大学の姿勢を疑問視する個々人への人権を侵害することが危惧される。
2 相手方大学の反論
(1) 団体構成員名簿の提出について
ア 団体構成員名簿の提出を求めてきた経緯
相手方大学では,遅くとも1993年(平成5年)以降,学生がサークルを結成する際は,団体結成(更新)届に団体構成員名簿の提出を依頼する取り扱いを行っており,申立人を除く団体は,大学の指示を遵守してきたところであり,2017年(平成29年)度も,「平成29年度学生団体結成・更新手続に伴う書類の配布について」という文書で,団体構成員名簿を必ず提出するよう周知していた。
イ 団体構成員名簿の提出を求める目的
団体構成員名簿は,本件旧規則5条4項5号に規定する所属学部別の構成員数の裏付けとなる資料であるとともに,サークル内での事件・事故等が発生した場合の連絡のための情報として使用される目的で提出を求めてきた。また,団体結成(更新)届を提出した団体は,大学公認サークルの活動スペースであるボックスの使用が可能となり,また,物品の助成も受けることができることから,このような受益団体たる実態を有するか否かを判断するうえでも,団体構成員名簿の提出は必要であり,これを求めることが思想信条の自由の侵害やプライバシーの侵害に当たらないことは明白である。
(2)申立人の実態
申立人は,2017年(平成29年)5月31日当時,D,E,F,G及びHの5つのサークルで構成されていたが,当時の申立人代表者を含めて4名しか構成員がいなかった。4名の構成員は,複数のサークルを掛け持ちして活動しているように見せかけることで5つのサークルを維持して,ボックスを占有し,助成物品を受け取ってきた。実態として1つのサークルにすぎないにもかかわらず,5つのサークルとして利益を受けることは不適切である。また,申立人は,A大学学生自治会(以下「学生自治会」という。)とは別の団体であるが,申立人所属の4名と学生自治会所属の4名は同一人物であり,また,ビラ等による大学に対する批判ないし中傷内容はほぼ同じで,いずれの立場での発言か区別がつかない状況にある。このような申立人の実態を把握するために団体構成員名簿の提出は不可欠である。
なお,申立人は,再三再四にわたって学生の共有掲示板に同一内容のビラを数十枚掲示して他の学生の掲示を妨害したり,所定の場所以外にも立て看板を掲示したりした。施設使用許可を得ていない場所でビラを配布したり,拡声放送を行ったりするなど繰り返してきたため,大学側はしばしば注意,警告をしてきた。これらは,学生生活に関する規則に違反する学生団体に対する統一的な対応であり,申立人の思想信条の理由に行ったものでないことは明らかであり,表現の自由を侵害するものではない。

第3 調査の結果認められる事実
1 サークル活動における申立人の位置と現状
(1)相手方大学には,200を超えるサークルが存在し,このうち現時点では,6個のグループがサークル団体を結成しており,申立人は,その一つである。
(2)2017年(平成29年)5月31日当時,相手方大学には,申立人を含め,5つのサークル団体があり,これら5つのサークル団体で五者会議を組織し,会議を開いて相手方大学との交渉内容等を決定していた。各サークル団体にはそれぞれ複数のサークルが所属しており,申立人には,同日当時,本件届けをした時点では,①D,②E,③F,④G,⑤H,⑥I,⑦J,⑧K,⑨L,⑩Mの10サークルにより構成されていたが,このうち,⑥ないし⑩の各サークルは,2017年(平成29年)10月に本件不受理行為を契機として申立人から脱退し他のサークル団体に加入した。
(3) 申立人代表者等について
2017年(平成29年)5月31日当時の申立人代表者(以下「当時の申立人代表者」という。)は相手方大学の学生で申立人の代表者であったほか,学生自治会の委員長を務めるなど特定の政治団体の活動も行っていた。
(4)申立人の活動について
ア 申立人では,申立人傘下の各サークルの代表者を集めた定期的な会議を実施してサークル活動に関する意見を取りまとめ,五者会議を通じて相手方大学と交渉してきた。また,新入生勧誘のための広告や店出し等を行っていたほか,申立人で使用するコピー機の管理を行っていた。
イ これに対し,相手方大学は,上記第2の2(2)のとおり主張する。
しかし,相手方大学の主張の根拠は,本件支援グループの受付窓口に来たり,相手方大学との意見交換会に出席したりした人数が4名であったというだけで,そのほかに構成員が存在しなかったという資料はない。当会の調査の結果,申立人傘下の各サークルのうちの複数を掛け持ちしている学生は認められたものの,当会に氏名や所属学部が判明した学生だけでも総数9名の確認はできており,各構成員は,各サークルで定期的に学習会を開催するなど,申立人としての活動は別に,サークルごとの活動を行っていたことも認められており,申立人が実態として1つのサークルにすぎないという相手方大学の主張は認められない。なお,申立人に所属する一部の学生が,学生自治会にも所属していることは認められたが,両団体の構成員が全て一致しているわけではない。
また,相手方大学は,申立人が,ビラ配りや立て看板の設置等を行っていたと主張している。しかし,申立人が,学生団体更新届が不受理とされた2017(平成29)年5月31日以降において,本件不受理行為を原因として発生したと思われる助成物品等の問題点を訴えるビラ配り等を行っていることは認められるものの,同日以前にビラ配りや立て看板の設置を行っていた事実は認められない。他方,学生自治会が,同日以前からビラ配りや立て看板の設置を行っていたことは認められるが,ビラや立て看板には,学生自治会の名称や連絡先が明記されており,申立人の行為とは異なるものと認定できる。
ウ なお,当時の申立人代表者は,申立人の活動とは別に,学生自治会の委員長を務めていたほか,特定の政治団体の活動も行い,大学構内に立て看板を設置したり,学外で「8.6ヒロシマ大行動」に参加したりするなどしていた。
これに対して,本件支援グループは,2016(平成28)年4月,新入学生全員に対して,学生自治会は相手方大学とは一切関係のない団体であるとし,いわゆる「カルト」とともに,学生自治会の勧誘活動に注意するよう注意喚起のメールを送信している。
また,当時の申立人代表者に対しても,学生自治会の設置した立て看板の撤去を求めたり,当時の申立人代表者が「8.6ヒロシマ大行動」に参加したことについて相手方大学の名を辱める行為は慎むよう求めたりする内容のメールを送信している。そして,これらのメールは,学生自治会が連絡先として指定しているメールアドレスではなく,当時の申立人代表者個人のメールアドレスに送信されており,その内容を見ても,申立人が学生団体更新届を提出していないことを理由に,大学会館の集会室を貸すべきではなかった,今後は全学部に部屋を貸さないよう周知することにするなど,申立人の活動と学生自治会の活動を混同した記載が見られる。
2 相手方大学における学生生活に関する規則の定め
(1)相手方大学には,2017年(平成29年)5月31日当時,本件旧規則があり,サークルの結成及び更新にあたっては,下記に掲げる本件旧規則5条に基づき,学生団体の届出を提出しなければならないとされていた。

第5条 学生が,単一の学部の学生をもって団体を結成するときは,代表責任者は,その所属学部の長に所定の学生団体結成届を提出するものとする。
2 団体の構成員が2学部以上にわたる団体であるときは,代表責任者は,学長に所定の学生団体結成届を提出するものとする。
3 結成された団体の活動が継続する場合は,毎年5月末日までに,第1項に基づく学生団体の代表責任者にあってはその所属学部の長に,前項に基づく学生団体の代表責任者にあっては学長に,所定の更新届を提出するものとする。
4 前3項に規定する届には,次に掲げる事項を記載するものとする。
⑴ 団体の名称
⑵ 団体の目的
⑶ 連絡先
⑷ 代表責任者の氏名
⑸ 所属学部別の構成員数
以上
(2)本件旧規則は,2018年(平成30年)9月14日に改正され,上記した本件旧規則5条4項の⑴~⑸に加え,「(6) 団体の構成員の氏名及び連絡先」が新たに追加されている(「平成30年9月14日規則第117号」)。
相手方大学によれば,上記改正は,上記第2の2(1)イの目的で求めてきた団体構成員名簿の提出を規則上も義務化する趣旨のものである。
3 本件不受理行為に至る経緯
申立人は,2016年(平成28年)度まで毎年,所属するサークルの学生団体更新届を取りまとめて提出していたが,本件支援グループは,団体構成員名簿が添付されていなくとも申立人の提出する学生団体更新届を受理していた。その際,申立人は,同グループから団体構成員名簿の提出を求められることがあったが,1990年(平成2年),相手方大学の学生が,公安調査庁の公安調査官から,学内外のサークル活動等の様子について情報提供を求められ,謝礼を受け取っていたことが発覚したことがあった(なお,上記事案については,当該学生及び申立人から当会に対して人権救済申し立てがなされており,当会は,1992年(平成4年)4月20日,中国公安調査局に対して,公安調査官の調査活動が,思想・良心の自由等を侵害する疑いが払拭できないなどとし,今後公安調査官の調査活動にあたって,基本的人権の侵害の疑いをうけないよう,十分な配慮を要望する旨の要望書を提出している⦅広弁第127号⦆。)ことなどから,学生のプライバシー等の保護を理由に団体構成員名簿の提出を拒否していた。
そして,2016年(平成28年)度までは,学生団体更新届が受理されれば,相手方大学による公認が得られたものとされ,後記4(1)のような大学公認サークルとしての各種便益を受けることが可能であった。
しかし,申立人が,2017年(平成29年)5月31日,本件支援グループに,申立人に所属する10サークルの学生団体更新届を持参し提出したところ,同グループは,従前の取扱いが誤りであったとし,誤っていたと判断した理由や今回それを是正し取扱いを変更した理由について申立人に明確な説明を行うこともしないまま,申立人が提出した学生団体更新届に,団体構成員名簿が添付されていないことを理由に,学生団体更新届を受理しなかった。
4 本件不受理行為に伴う不利益
(1)学生団体更新届が受理されなければ,当該サークルは,大学公認サークルとしての便益(具体的には,①ボックス(サークル活動スペース)の利用,②ポスト(配布物の受け取り等に用いられる)の利用,③物品の購入等の助成(もっとも,大学から交付される助成金は全サークル合計で300万円程度,1サークル当たり2万円程度であり,必ずしも確実に必要な助成がなされるとは限らない),④相手方大学ホームページ「N」への公認サークルとしての掲載,⑤新入生に配布されるパンフレットへの公認サークルとしての掲載等)が受けられなくなる,という不利益を被ることとなる。もっとも,現時点でも,申立人及び申立人傘下の各サークルによるボックスの利用は継続している。
(2)また,これまで申立人は,サークル活動に関する意見等を取りまとめ,五者会議を通じて相手方大学と交渉を行ってきた。しかし,申立人の提出した学生団体更新届が不受理とされて以降,申立人は,五者会議から排除されることとなり,相手方大学も,公認サークル団体としての申立人が存在しなくなったことを理由に,申立人からの意見等を受け付けず,申立人との交渉を拒否している。

第3 当会の判断
1 本件不受理行為は従来の取扱いを変更したものか
本件支援グループは,2017年(平成29年)5月31日,団体構成員名簿の提出がないこと理由に,申立人が提出した学生団体更新届を不受理とした。
本件不受理行為について,相手方大学は,従前から,学生団体結成(更新)届に団体構成員名簿の提出を依頼する取り扱いを行っており,2017年(平成29年)度も,「平成29年度学生団体結成・更新手続に伴う書類の配布について」という文書で,団体構成員名簿を必ず提出するよう周知していたと主張する。
しかし,2017年(平成29年)5月31日当時,更新手続きを定める旧規則も改正されておらず,団体構成員名簿の提出を義務付ける規則上の根拠はなかった。そして,旧規則制定以降,2016年(平成28年)度までは,団体構成員名簿の提出がなくとも,申立人の学生団体更新届は受理されていたのであるから,従前から団体構成員名簿の提出が義務付けられていたとは言えず,2017年(平成29年)度から,団体構成員名簿の提出がなければ学生団体更新届を受理しない運用に変更したものと認められる。
2 上記取扱いの変更は申立人傘下の各サークル及びその構成員の人権を侵害したものとなるか
(1)サークルの結成等と憲法上の保障
日本国憲法は,21条において,結社の自由を保障している。結社とは,「共通の目的のために複数人が継続的に結合すること,及びそうして結合した団体」を指し,結社の自由の保障内容とは,「①個人による団体の結成・不結成,既存団体への加入・不加入,加入した団体からの脱退について,公権力から干渉を受けないこと,②団体による意思の形成,それに基づく団体としての活動について公権力からの干渉を受けないこと」とされている。
このことからすると,学生が,学内において様々な目的をもってサークルを結成すること,当該サークルが団体として意思を形成しそれに基づき活動することは結社の自由として憲法上保障される。そして,学内における組織者・管理者としての地位と非代替性を考えると,大学当局が,上記サークル構成員及びサークル自体が有する結社の自由を制約することは,公権力が結社の自由を制約した場合に準じて考えられるから,大学は,学内における学生のサークル活動を制約することは,学生及びこれを構成員とするサークルの結社の自由を制約するものというべきである。
よって,大学が従前の運用を変更し,団体構成員名簿を提出しないサークルに対して更新申請手続きを受理せず,大学公認サークルとしての便益を与えないとすることは,間接的にせよ,サークルの活動を制約するもので,ひいては当該サークル及びその構成員たる学生の結社の自由を制約するものといわざるを得ない。したがって,規則上の根拠もなく,このような運用変更を行うことが許容されるためには,必要不可欠な目的のために,規則の改正を経ることなく運用を変更しなければならない特段の事情がなければならないというべきである。
(2)本件不受理行為に上記特段の事情があるか
ア 相手方大学は,団体構成員名簿の提出を義務付ける目的について,本件旧規則5条4項5号に規定する所属学部別の構成員数の裏付けとなる資料であり,受益団体たる実態を有するか否かの点からも,団体構成員名簿の提出は必要であり,またサークル内での事件・事故等が発生した場合の連絡のための情報として使用されてきたと主張している。
確かに,相手方大学の予算から物品助成等の利益供与を行うことになる以上,学生団体更新届に虚偽の記載がないかを確認する必要性は認められること,また,サークル内で事件・事故等が発生した際の安否確認は,学生の生命・身体にも関わることからすれば,団体構成員名簿の提出を義務付けることが必要不可欠でないとまでは言えない。
イ しかし,学生団体の結成及び更新は,相手方大学が制定・改正の権限を有する規則に基づいて実施される手続きであるから,学生あるいは学生団体に対し,上記の各目的を達成するために団体構成員名簿の提出を義務付けるのであれば,まず,規則を改正し,この規則の対象となるサークルに改正の経緯及び目的を告知したうえでこれをなすべきであり,相手方大学において,規則の改正を待って運用変更をしたのでは,相手方大学や学生等に重大な損害が生じる可能性があるといった事情は全く見当たらない本件において上記特段の事情があったとはいえない。
したがって,相手方大学は,特段の事情もないにもかかわらず,規則の改正を経ることなく団体構成員名簿の提出を義務付け,本件不受理行為を行ったことになるから,本件不受理行為は,申立人傘下の各サークル及び申立人代表者を含む各構成員の結社の自由を不当に侵害するものと言わざるを得ない。
また,申立人傘下の各サークルの中には,サークル構成員のプライバシー権等に配慮すべきと思われる団体もあることからすると,本件不受理行為は,この点からもサークル構成員の人権を侵害する恐れもある。さらに,上記不利益な運用の変更が,規則上の根拠もなく,申立人らに対し事前に何らの説明もなく行われたことは,手続的にも,憲法に定められた適正手続きの保障(告知と聴聞を受ける権利)を侵害するものでもある。
3 要望にとどめた理由
以上のとおり,相手方大学が,規則上の根拠がないまま,団体構成員名簿の提出がなければ学生団体更新届を受理しない運用に変更して行った本件不受理行為は,申立人傘下の各サークル及び当時の申立人代表者を含む各構成員の人権を侵害するものであった。
しかし,2018年(平成30年)9月14日に規則が改正されたことにより,今後,団体構成員名簿の提出それ自体は,本件規則上に根拠を有する取扱いとなり,根拠がない規制を行うことによる結社の自由に対する侵害は,その恐れも含めて一応解消された結果となった。
ただし,申立人傘下の各サークルやその構成員のように,団体構成員名簿が,相手方大学のいう目的を離れて利用される恐れを危惧する学生が少数とはいえ存在すること,そして,本件不受理行為をした経過をみるに,相手方大学が,申立人の行った本件更新手続きに際し,事前に何らの説明もなく,事後においても相手方大学が申立人と学生自治会等を混同したまま対応し,申立人の申入れを真摯に受け止める姿勢を取ったとは認めるに足りる資料のないこと等を併せ考えると,団体構成員名簿の提出を規則に定めたことのみをもって,今後の人権侵害の恐れが皆無となったともいい難い。また,相手方大学が,サークルに対して団体構成員名簿の提出を求める目的は,実態のないサークルによる助成金の不正取得を防止することや災害や事故発生時における学生の安否確認等に限定されるものであって,その限度で名簿取得の合理性が認められるにすぎないから,これを超えて,取得した団体構成員名簿を捜査機関や情報機関に開示することなど,他の目的に使用することは許されないと考えられる。
4 結語
以上を総合勘案し,当会としては,相手方大学に対し,人権侵害を是正することを命ずる勧告までは不要とするものの,上記【要望の趣旨】記載のとおり,本件規則に根拠のない運用を行わないこと及び改正の趣旨に沿った目的で団体構成員名簿を使用することを要望する。

以上