声明・決議・意見書

会長声明2007.04.11

憲法改正国民投票法案の慎重審議を求める会長声明

広島弁護士会
会長  武井康年

本年1月に始まった通常国会において、憲法改正国民投票法案が審議され、重要法案として会期中の成立が目指されていたが、この間に開催された地方、中央公聴会での反対意見を受けて、3月27日には同法案の修正案が提出された。この修正により法案の問題点が解決されたかのような報道もなされているが、次の通りこの修正によっても本法案の持つ本質的な問題点の多くはまだ解決されていない。
日本国憲法は、第9章に憲法改正についての規定(第96条)を設けている。前文及びこの規定においては徹底した民主主義が採られ、「国会の発議」と「国民の過半数の賛成」とが必要とされて、他の立法とは異なり、憲法改正権があくまで国民の直接的な意思を基礎とするという国民主権原理が示されている。
しかしながら、本法案では、この「国民の過半数の賛成」について、『有権者総数の過半数』ではなくて有権者の『有効投票の過半数』とされており、且つ最低投票率の定めもない。これでは、有権者の多くが国民投票の際に憲法改正の是非を判断できないまま棄権などすれば、国民全体から見ればごく少数の賛成者によって憲法が改正されかねない事態を招くこととなる。
また、改正の発議から投票までの期間は、60日以後180日以内とされているが、広く国民に改正の内容が周知され、十分な国民的議論が尽くされるためには極めて不十分な期間であり、短すぎると言わざるを得ない。
かつ、憲法改正問題については、広く国民の意見を求めること、国民の間の自由で活発な討論を最大限に保障することが強く求められる。ところが、本法案は、国民投票運動を規制し、公務員及び教育者の地位を利用しての運動を禁止している。当初、罰則によっていた規制を外したことは評価できるとしても、なお禁止を全面的になくしたわけではなく、違反したとみなされれば公務員法制上の行政処分の対象となりうるため、およそ500万人の公務員らによる自由な討論を萎縮させてしまうことは必至である。
さらに、本法案によれば、国会が憲法改正を発議すると、国会に「国民投票広報協議会」が設置されるが,この「広報協議会」は、原則として各会派の所属議員数の比率によって構成することとされているため、少数意見が十分に反映されず、国民が中立公正で十分な情報を受け取ることができないおそれがある。
また、本法案がテレビ等の有料意見広告について、投票日前の2週間しか禁止していないことは、国民に十分な情報提供とそれをふまえた自由な議論を保障する上で重大な問題があると言わざるを得ない。なぜならば、テレビ、新聞等の有料意見広告が投票日2週間以前には自由に行えるとすれば、資金力を持つ者が国民に対して圧倒的に大量の情報を提供することが可能となり、自由な判断を阻害する危険性があるからである。このことは、税金による公的な意見広告が、改正の賛成、反対を問わず、全く平等に行われることとしている法案の基本的な趣旨にも反することにもなる。
加えて、投票は、「内容において関連する議案ごとに」行われると規定されているが、条文ごとに賛否を問うのでなければ、自らが改正について是としない部分のみに反対するという選択肢を奪い、改正案に対し賛成・反対のいずれの態度を取るべきか決められないまま棄権せざるを得ない場合が予想され、前記で指摘した問題点と相まって、国民の意思が正確・公平・公正に反映されないおそれが大きい。
その他にも、本法案にある国会法の一部改正についても、両院に常設の憲法審査会を設置して国会閉会中の改憲案の審議を行わせることや、両院合同協議会の設置を認めることは、審議の公開性や各議院の独自性などからみて疑義がある。
そして、日本国憲法第96条が厳格な改正要件を定めている硬性憲法であることを考えれば、国民投票法案それ自体についても、国民に広くその内容を知らせ、十分に審議すべきである。未だもって法案・修正案の内容が国民の間に広く知らされているとは言えず、当会は、その審議の不十分さを深く憂慮する。

以上のように、本法案には、国民主権など憲法の原則に関わる様々な問題点が残されており、その内容につき、現時点での制定の必要性の有無を含め、いっそう慎重に審議することを求めて、本声明を発するものである。

以上