声明・決議・意見書

会長声明2007.05.24

少年法「改正」法案の参議院での慎重審議を求める会長声明

広島弁護士会
会長  武井康年

衆議院は去る4月19日、「少年法等の一部を改正する法律案」(以下,本法案という。)を採決し、参議院に送付した。当会においては,平成17年6月30日に本法案に関する会長声明を発し、意見を述べたところであるが、今回衆議院を通過した本法案において、「ぐ犯少年である疑いのある者」に対する警察の調査権限を認める規定が削除され、また少年に対する観護措置が取り消された場合に国選付添人の選任を取り消すとの規定も削除されたことは評価できるものの、なお以下のような重大な問題点が残されている。
第一に、本法案は、現行の少年院収容年齢を引き下げ、概ね12歳以上としている。しかし、低年齢で重大事件を犯す少年ほど、複雑な生育歴を有していることが多く、そのため人格形成が未熟で規範を理解し受け入れるレベルまで育っていないことが多い現実がある。従って、再非行防止のためには、擬似的な家庭環境での生活を経験させるなどの福祉的対応がより一層必要とされるのであって、集団的規律により規範を遵守する精神を育むことを目的とする少年院収容では実効性が期待できないばかりか、かえってその弊害だけが助長されるのではないかとの懸念がある。
第二に、本法案は、触法少年に係る事件について、警察官の強制調査権限を認めている。しかし、触法少年には、児童虐待や家庭の機能不全といった問題が潜在していることが多いのであり、そのような少年に対しては何よりも福祉的観点からの対応が求められることから、警察官ではなく子どもの心理に通じた専門家が、非行に至った背景を探りながらその少年の特性に配慮した対応を行うべきである。さらに、少年の未熟さや被暗示性、迎合性の強さなども考えれば、虚偽の自白がなされる危険性も著しく高いのであるから、仮に触法少年の強制調査権限を認める場合には、弁護士の立会いやビデオ録画などによる捜査の可視化が保障されるべきである。
第三に、本法案は、保護観察中の遵守事項違反を理由に少年院送致を可能としている。しかし、これは本来保護司と少年の信頼関係によって維持されるべき保護観察制度を、監視と心理的強制によって実効あらしめようとするものであって、真に少年の更生を図る機会を喪失させることに他ならない。
当会は、本法案が抱える上記のような問題点について、参議院において慎重かつ十分な審議を行うことを求めるものである。

以上