声明・決議・意見書

会長声明2026.10.16

再審法の改正を受け、真にえん罪被害者を救済するための更なる法整備を求める会長声明

2026年(令和8年)10月14日

広島弁護士会 会長 古 河 真 人

第1 声明の趣旨

当会は、先般成立した刑事再審手続に関する「刑事訴訟法の一部を改正する法律」(以下「本改正法」という。)について、次の更なる法整備を求める。

1 再審請求人及びその弁護人に包括的かつ実効的な証拠開示請求権を保障する制度を設けること

2 再審開始決定に対する検察官の不服申立てを全面的に禁止すること

3 検察官から裁判所へ提出された証拠の複製を再審請求やその準備以外の目的で使用することを一律に禁止する規定を削除すること

 

第2 声明の理由

1 本改正法は、2026年(令和8年)7月17日、参議院本会議において可決され、成立することになった。

2 本改正法は、これまで、「再審格差」といわれた、裁判所の訴訟指揮のあり方によって再審請求手続における証拠開示のありようが異なった点などについて、審理の進行、裁判官の除斥、証拠提出命令等に関する規定を新たに設けるとともに、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを原則禁止と位置付けた。

当会は、従前より、再審請求手続における証拠開示の制度化と再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止を大きな柱として再審法の改正を求めてきた。長年にわたり再審手続の法整備が進まなかった中で、「再審格差」といわれた制度の不透明さや検察官の不服申立てによる救済の長期化に一定の対応を示した点は、極めて限定的ながら前進と評価できる。

3 他方で、本改正法には、えん罪被害者の早急な救済という観点から、以下に述べるような看過できない重大な問題が残されている。

(1)再審請求人及びその弁護人に包括的かつ実効的な証拠開示請求権を保障する制度が設けられていない点について

① 本改正法が設けた検察官保管証拠等の提出命令は、再審請求を受けた裁判所が、初期の書面審査(スクリーニング)を経て、「この事件は、本格的な審理(事実の取調べや証拠開示手続など)を行うに値する事件である」と判断した際に出す中間的な決定(審判開始の決定)をした後、「再審の請求の理由に関連すると認められる証拠」について、関連性の程度、提出の必要性及び提出によって生じる弊害等を考慮し、相当と認める場合に、検察官に対して証拠を裁判所に提出するよう命じる制度である。これは、裁判所を介した証拠開示として機能するものではあるが、再審請求人及び弁護人に証拠開示請求権を認め、検察官に開示を義務付けるものではない。

このため、この規定が証拠提出を認め得る範囲の上限として運用されれば、従来、裁判所の柔軟な訴訟指揮によって行われてきた幅広い証拠提出及び開示がかえって制約されるおそれがある。すなわち、従前は、裁判所は、職権主義の下で、検察官に対して、必要と認める証拠の提出や開示を要請する権限があると解され、従来の運用においても、裁判所の要請に応じて検察官が証拠を開示することはあった。

例えば、被告人の無罪に繋がる証拠がありながら検察官が証拠請求していなかった事実が明らかになり、再審で無罪となった事件として、近時では、袴田事件や福井女子中学生殺人事件がある。しかし、今回、証拠に関するルールを明文化した結果、実際に提出又は開示される証拠の範囲が従前より狭くなるのであれば、えん罪被害者の救済をかえって困難にする危険をはらむものとなっている。

➁ その上、本改正法では、証拠一覧表の作成・提出を検察官に命じる制度が設けられていない。証拠一覧表は、検察官が保管する証拠の全体像を明らかにするものであり、再審請求人や弁護人に対して証拠の提出・開示を請求するための手がかりを与えるものとして重要であると同時に、検察官が証拠の保管状況を把握する上でも有用なものである。この点に関し、過去のえん罪事件では、検察官が「不見当」、「不存在」と回答した証拠について、後日、その存在が判明した事例も複数あり、検察官による証拠の保管が適切に行われていないことを示している。それにもかかわらず、本改正法では証拠一覧表に関する制度が設けられていないため、証拠の提出・開示に向けた手続が円滑に進まなかったり、再審請求の審理のために必要な証拠の提出・開示に漏れが生じたりすることが懸念される。

したがって、再審請求人及びその弁護人に包括的かつ実効的な証拠開示請求権を保障する制度を設けるべきである。

(2)再審開始決定に対する検察官の不服申立てを全面的に禁止せず、例外を残した点について

再審開始決定に対して、検察官の不服申立ては原則としては、禁止されるが、例外的に認められる要件は、「取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠」があるときとされる。しかし、この要件では、検察官が自ら要件を満たすと判断して不服申立てを行うことは妨げられない。この例外が広く運用されれば、不服申立ての制限が有名無実化し、従前と同様に、えん罪被害者の救済が長期化するおそれがある。

したがって、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを全面的に禁止することが必要である。

(3) 検察官から裁判所に提出された証拠の複製を再審請求やその準備以外の目的で使用することを一律に禁止し、その違反に対して罰則を設けている点について

被害者等関係者の名誉・プライバシーの保護は必要であるものの、証拠の内容に応じて適当と認める利用の条件を付するなど、個別に対応すれば足りるのであって、弊害の有無・程度を問うことなく、全ての証拠について一律に目的外使用を禁止するのは過度の制約といわざるを得ない。このような目的外使用の一律禁止により、再審請求人や弁護人が証拠の内容を支援者や報道機関に提供することを躊躇し、事件の問題点を広く知らせることや、新証拠の獲得に向けた活動に支障を来すことが懸念される。

したがって、検察官から裁判所へ提出された証拠の目的外利用を一律禁止する規定は削除されるべきである。

4 当会は、本改正法を受けて、個々の事件での弁護実践を注視しつつ、真にえん罪被害者を迅速に救済する再審制度の実現に向けての取り組みを今後も継続する所存である。

以上