声明・決議・意見書

会長声明2008.10.09

いわゆる「懲戒請求扇動違法判決」を受けて、刑事弁護人の地位と役割及び弁護士懲戒制度についての会長声明

広島弁護士会
会長  石口俊一

去る10月2日、広島地方裁判所民事第2部(橋本良成裁判長)は、いわゆる「光市母子殺害事件」の差戻し裁判において弁護人を務めた当会所属の弁護士らが原告となり、テレビ番組での発言をめぐり大阪弁護士会所属の弁護士に対して損害賠償を請求した訴訟において、原告の主張をほぼ全面的に認容する判決を言い渡した。当会は、この判決に接し、刑事弁護人の地位と役割及び弁護士懲戒制度の趣旨について、改めて広く市民に理解されることを期待するとともに、今後も刑事弁護に携わる全ての弁護士がその職責を全うできるよう最大限支援していくことを表明するために、本声明を発表するものである。

1  弁護人依頼権は、人類が過去の刑事裁判の歴史の中から、その叡智をもって生み出した被告人にとって極めて重要な権利である。憲法第34条は、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない」と規定し、また憲法第37条3項は、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」と規定しており、弁護人依頼権は憲法の明文で認められている。
また、被告人の弁護人依頼権の保障は、被告人に適正な裁判を受ける権利を保障するうえでも不可欠なものである。さらに、弁護人依頼権を十分に保障することは、①裁判所による真実の発見(冤罪の防止)、②罪刑の均衡の実現、③被告人の更生、④社会安全の維持といった重要な社会的利益の確保にも資するものである。
このような被告人の弁護人依頼権の重要性から、弁護人の刑事訴訟手続における弁護活動(主張・立証活動)については、その自由な活動が最大限保障されなければならない。
本判決は、『弁護士は議会制民主主義の下において、そこに反映されない少数派の基本的人権を保護すべき使命をも有しているのであって、そのような職責を全うすべき弁護士の活動が多数派に属する民衆の意向に沿わない場合がありうる。』、『被告人は有罪判決が確定するまでは無罪の推定を受け、弁護人はそのような被告人の保護者としてその基本的人権の擁護に努めなければならないのであって、その活動が違法なものではない限り、多数の者から批判されたことのみをもって当該刑事事件における弁護人の活動が制限されたり、あるいは弁護人が懲戒されることなどあってはならないことであるし、ありえないことである。』と述べ、刑事弁護活動の重要性を明確にしたものであり、高く評価できるものである。
2  過去にも刑事弁護活動に対する理解が不十分なことから非難が寄せられたこともあったが、今回の訴訟で問題とされたテレビ番組における発言は、本判決も指摘するとおり、これまで述べてきたような重要な役割を担う弁護人の使命や職責を正しく理解しないものであり、市民に誤解を与え、さらには助長するものであった。そして、弁護士自治の根幹たる懲戒制度についても、市民に対してその趣旨を外れた誤解を引き起こしたため、刑事弁護活動に対する一種の抗議活動の手段のように用いられたことも極めて遺憾である。
このような誤解は、結果として、弁護人による刑事弁護活動に対する様々な圧迫、制約を生み出すだけでなく、ひいては裁判所による真実の発見、冤罪の防止、罪刑の均衡の実現、被告人の更生、社会安全の維持などの重要な社会的利益をも損なうものである。
3  当会は、本判決が、刑事弁護人の使命及び職責に対する正しい理解の一助となることを期待して、本声明を発表する。

以上