声明・決議・意見書

会長声明2013.12.09

特定秘密保護法の成立に抗議する会長声明

広島弁護士会
会長 小野裕伸

特定秘密保護法が12月6日,参議院本会議で可決成立した。
当会がこれまで繰り返し指摘してきたとおり,特定秘密保護法は,国民の知る権利など憲法で保障された基本的人権を侵害し,国民主権と民主主義の根幹を脅かす極めて危険な法律である。このような法律が,慎重審議を求める野党各党,報道機関,圧倒的多数の国民の声を無視して,与党の強行的な議事運営により,可決成立したことは,国会の暴挙と言わざるを得ない。
特定秘密保護法により秘密に指定することができる情報の範囲は,広範かつ曖昧である。そのため,行政機関は,同法によって,恣意的に情報を秘密にすることができる。さらに,処罰の範囲も広範かつ曖昧であるため,情報にアクセスしたいと考える国民,国会議員,報道関係者は,処罰される危険におびえ,その行動が大きく制約されるようになる。特定秘密の指定期間も,最長期間60年を超えることが可能な例外項目が広範かつ曖昧に定められているため,政府や官僚は,国民からの批判や責任追及を回避する目的で,「不都合な真実」を秘密化し,刑罰権という強力な威嚇によって,これを永遠に闇に葬り去ることが可能になってしまう。国家が扱う情報は国民共有の財産であるという国民主権,民主主義の大原則が,ないがしろにされている。国民の知る権利が確保され,参政権を行使するために必要な情報を国民が自由に知りうることが,国民主権と健全な民主主義の根幹である。特定秘密保護法の制定は,国民主権と民主主義の破壊行為といっても過言ではない。
このほか,特定秘密を取り扱う公務員や民間人の広範なプライバシー情報を行政機関が調査する適性評価制度の問題,国権の最高機関である国会の議員であっても行政機関の判断ひとつにより秘密情報にアクセスできなくなる問題など,特定秘密保護法の問題点を挙げれば,枚挙にいとまがない。
行政機関による恣意的な秘密指定を防ぐための独立したチェック機関の設置について,政府与党は,同法施行までに,政府内に秘密を指定する省庁の事務次官級をメンバーとする「保全監視委員会」を,内閣府に「情報保全監察室」を,それぞれ設置することを言明した。しかし,特定秘密保護法の規定では,チェック機関の設置を「検討」するとされているだけであって,これが設置されることは法律上何ら保証されていないのである。当該機関が確実に設置されるものと規定され,どのような事項を対象にチェックを行い,どのような権限を持ち,特定秘密保護法の危険性を解消するに足る機関となりうるか否かを検証しなければ,法案の審議として不十分である。なぜ,チェック機関に関する具体的な議論を後回しにして,特定秘密保護法だけを先行して拙速に成立させなければならないのか,政府与党から合理的な説明はまったくなされていない。仮に,チェック機関が官僚で構成されるとすれば,第三者的なチェック機関としての機能はおよそ期待できない。チェック機関に関連する法律案をとりまとめた上,併せて特定秘密保護法の審議を行うことが必要である。
特定秘密保護法については,連日その危険性を指摘する報道がなされ,国内外の各界から反対意見が出された。報道機関の世論調査によっても,慎重審議を求める意見が圧倒的多数を占めた。それにも関わらず,政府与党が今国会での成立ありきで議事運営および採決を強行したことは,世論を無視した暴挙と言わざるを得ない。
当会は,国民主権と民主主義の根幹を脅かす特定秘密保護法が強引な議事運営によって可決成立したことに対し,強く抗議をするとともに,今後も引き続き,基本的人権を擁護する立場から,同法の運用状況を厳しく注視しつつ,同法の廃止を求めていくものである。

以上