声明・決議・意見書

会長声明2014.11.17

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明)

広島弁護士会
会長 舩木孝和

2014年6月,衆議院の内閣委員会において,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」,以下「本法案」という)の趣旨説明が行われ,現在開催中の臨時国会においても継続審議となっている。
本法案は,魅力ある滞在型観光を実現し,地域経済の振興に寄与することを理念としており(第3条),本法案に賛成する立場からは経済効果が強調されている。一方,同法案においては,カジノ施設への暴力団の関与,風俗環境の保持,青少年の健全育成,カジノ施設を利用したことに伴う悪影響等,カジノ設置によって生じる懸念が掲げられてはいるものの(第10条),これらに対する対応策は示されていない。
まず,カジノ施設への暴力団等反社会的勢力の関与については,カジノ施設が反社会的勢力の資金源となる可能性が指摘されている。
一方,カジノ施設を利用したことに伴う悪影響等として,特に懸念されるのが,ギャンブル依存症患者の増加と多重債務問題である。
ギャンブル依存症は,慢性,進行性,難治性で,放置すれば自殺に至ることもあるという極めて重篤な疾患であるが,今年8月の厚生労働省研究班の発表によれば,ギャンブル依存症の疑いがある人が,国内に536万人いると推計されている。これは,成人全体では国民の4.8%(男性は8.7%)にあたり,世界各国と比較して極めて高い数値であるから,国としても早急な対策が必要な状況にある。しかし,カジノの合法化は,更にギャンブル依存症患者を増やすことにつながりかねない。
また,日本弁護士連合会による調査によれば,破産した者のうちギャンブルが原因と見られる者が5%程度にのぼる。2006年の貸金業法改正等,官民一体となって取り組まれてきた一連の多重債務者対策によって,この間,多重債務者が減少してきたにも関わらず,カジノの合法化は,これら一連の対策に逆行して,多重債務者を再び増やす結果をもたらすおそれがある。
更に,本法案に賛成する立場が強調する経済効果についても,カジノ施設が反社会的勢力の資金源となることの防止等上記の懸念の解消に向けた取り組みや,ギャンブル依存症患者の増加や多重債務問題等カジノ設置から生じる悪影響への対応に要する社会的コストの増加に鑑みれば,これを上回る経済効果が果たして本当に見込めるのかは疑問であり,少なくともそのような観点からの検証はなされていない。
そもそも,カジノを含めた賭博は,社会の風俗を害する行為として刑法において処罰の対象となっているところ,現時点においてこれを合法化するだけの合理的な理由は見当たらない。
このように,本法案は,日本で初めて完全な民間賭博を認めるものであるにもかかわらず,カジノによって生じうる負の側面への対応が十分に検討されていない。
よって,当会は,本法案に反対するものである。

以上