声明・決議・意見書

勧告書・警告書2011.03.14

広島県内の私立高等学校に対する子どもの人権侵害に関する警告書(2/2)

3 人権侵害の内容
(1) 第1に、平成22年6月23日の貴校のH校長によるYに対する「邪魔しに来たならX(元の学校)に帰ってちょうだい。」との発言は、生徒に高校を辞めるよう求める発言であり、生徒の人格権(憲法13条)を侵害する発言といえる。
この点、生徒に対する「邪魔」という発言は当該生徒の人格・尊厳を無視した発言であり当該生徒を著しく傷付ける発言であり、どのような理由があっても決して許される発言ではない。また、Yは元在学した中高一貫校の中学校を卒業したが、同校の高等学校には入学すらしておらず、したがって、戻るということはありえない。「転校する」となれば、受け入れができるかどうか不明であり、仮に可能だとしても、様々な手続が必要であって、未成年のY一人の判断でできることではない。結局、Yに対して「元在学した学校への転校」を求めることは当該生徒に事実上不可能を強いる発言であって当該生徒にとっては非常に酷な発言であり、他方で、教師が生徒にこのような形で転校を求める発言をすることは、教育者が自らの教育を放棄する発言であるから「教師の職務としての発言の正当性」も認められない。
従って、上記発言はYの人格権(憲法13条)を不当に侵害しているといえる。
(2) 第2に、平成22年6月30日の貴校のH校長によるYに対する「あなたのように学校のルールを守らない、学校の指導に乗ってない子に、生徒会に立って欲しくないの。」「直してないのに、なんで立つんですかって聞いてるの。」との発言は、「学校の指導に乗らないと評価した生徒」の生徒会役員への立候補を制限する発言であるところ、本来は生徒会役員は生徒であれば自由に立候補でき全生徒の自由な投票で選ばれるのが原則であり、「学校の評価」と「立候補資格」は無関係であると考えられ、また貴校には生徒会役員の立候補資格に関する規則は存在せず、したがって、Yに、立候補を妨げる特段の事情はなかったものであり、生徒の人格権(憲法13条)を侵害する発言といえる。
また、同日の貴校のH校長によるYに対する「ほんと、入れるべきじゃなかった。」「Xに帰りんさい。」との発言は、前述(1)の発言と同様に、生徒に高校を辞めるよう求める発言であり、生徒の人格権(憲法13条)を侵害する発言といえる。この点、前述のとおり、Yは元在学した学校には戻ることはできない状態であるため、Yに対して「元在学した学校への転校」を求めることは当該生徒に無理を強いる発言であって当該生徒にとっては非常に酷な発言であり、他方で、教師が生徒に転校を求める発言は教育者が自らの教育を放棄する発言であるから「教師の職務としての発言の正当性」も認められない。
更に、同日の貴校のH校長によるYに対する「どこが真面目なの。どこが勉強できるの。どこがいい子なの。ほんとに騙された。」「Z教師の言われることを真に受けて、あなたを入れたのは間違い。」「転校しないんだったら、静かに迷惑かけんようにおって。」との発言は、「(紹介者に)騙された」「(高校に)入れたのは間違い」「迷惑」という表現で生徒を批判する発言であるところ、個人の尊厳を著しく傷付ける発言であり、生徒の人格権(憲法13条)を侵害する発言といえる。この点、仮に、貴校の指摘のとおりYに教育指導上問題があったとしても、「教育的配慮」を前提に、個別具体的な行為についての指導及び注意により、また、場合によっては懲戒等の対応により、対応すべきであり、「(紹介者に)騙された。」「(高校に)入れたのは間違い。」「静かに迷惑かけんようにおって。」等の発言には「教育的配慮」が認められず「教師の職務としての発言の正当性」も認められない。
従って、上記各発言はYの人格権(憲法13条)を不当に侵害しているといえる。
(3) 第3に、平成22年6月30日から同年7月1日にかけて、貴校は、Yが貴校の指導に乗らない生徒であることを理由として、その生徒会役員の立候補を制限したが、その扱いは、生徒の(年齢に応じた)意見表明の権利(子どもの権利条約12条)及び平等権(憲法14条)を侵害する扱いといえる。そもそも、貴校には生徒会役員の立候補資格に関する規則(立候補資格を制限する規則)は存在しておらず、立候補制限する正当な理由は何もない。
本来、生徒会役員は(学校の評価に関係なく)生徒であれば自由に立候補でき全生徒の自由な投票で選ばれるのが原則であり「学校の評価」と「立候補の資格」は無関係と考えられるので、生徒会役員の立候補資格について「学校の評価」によって特定の生徒を他の生徒と区別する合理的理由(不平等な扱いの正当性)は認められない。
従って、上記扱いはYの意見表明の権利(子どもの権利条約12条)及び平等権(憲法14条)を不当に侵害しているといえる。

4 改善策の有無
H校長がYの自宅を訪問し両親と面談する等の一定の対応をした事実は認められるが、調査時点において、人権侵害の防止に向けての具体的な改善策(H校長に対する注意・指導、生徒会役員の立候補資格に関する規則の制定等)は認められない。

5 結論
以上から、当会は、貴法人及びH校長に対し、警告の趣旨のとおり警告する。

以上