声明・決議・意見書

勧告書・警告書2011.06.15

広島刑務所に対する昼夜間独居処遇に関する勧告書(1/2)

広島刑務所 所長 嶋田 博 殿

広島弁護士会 会長 水中 誠三
人権擁護委員会 委員長 足立 修一

勧 告 書

当会は、貴所在監中の受刑者Aを申立人、貴所を相手方とする人権救済申立事件について、当会の人権擁護委員会による申立人及び貴所からの事情聴取を踏まえて協議した結果に基づき、貴所に対し、以下のとおり勧告する。

第1 勧告の趣旨
申立人は、貴所において刑の執行を受けている者であるところ、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律に定める規定の趣旨に反して、平成19年4月14日から同年12月6日まで約8ヶ月にも及ぶ昼夜間独居処遇を受け、その間、工場に配役されない、所内の行事に出られない等集団処遇から除外され、また、テレビ・ビデオを視聴できない等、教養・娯楽の機会を大きく制限された。この措置は、法令の明文によらない事実上の措置として受刑者を実質的な隔離状態に置くものであるが、その合理性も必要性も認め難く、申立人の人格と品位及び人間としての尊厳を侵害するものとして、人権侵害に当たる。
よって、当会は、貴所に対し、次のようにすることを勧告する。
1 昼夜間独居処遇は、それがやむを得ない場合であっても、あくまで一時的・暫定的なものとして、できる限り短期間にとどめること。
2 昼夜間独居処遇中においても、所内の行事への参加やテレビ・ビデオの視聴を可能にすることにより、他の受刑者と共同生活をさせ、教養・娯楽の機会を得られるよう、その処遇方法を改善すること。
第2 勧告の理由
1 申立の概要
平成19年3月、申立人が、暴力団関係者から「工場を出て行け」と言われたため、担当官に処遇部門に連れて行くよう求めたところ、「反抗」により同月30日から同年4月13日までの15日間、閉居罰とされた。閉居罰が終了した後、申立人が「暴力団の回状が廻っている」と担当官に言ったところ、すぐに工場に配役されず、約8ヶ月間、昼夜間独居処遇とされた。昼夜間独居処遇とされると、テレビやビデオを視聴できず、また、進級も遅れる等の不利益を受ける。したがって、このように長期間、昼夜間独居処遇とするのは不当である。申立人ではなく、威圧した側の暴力団関係者を昼夜間独居処遇とすべきである。
2 調査の経過
平成21年
9月11日 申立人より事情聴取(面談)
10月 6日 貴所宛て照会文書送付
同月29日 貴所統括矯正処遇官野村浩二看守長(以下「野村看守長」)より事情聴取(電話)
平成22年
1月 7日 貴所宛て照会文書送付
3月 5日 貴所野村看守長より事情聴取(電話)
(以上、予備調査)
同月23日 人権擁護委員会にて報告し、本調査となる。
4月27日 貴所宛て照会文書送付
6月24日 貴所野村看守長より事情聴取(面談)
7月15日 申立人より事情聴取(面談)
平成23年
2月18日 貴所宛て照会文書送付
3月24日 貴所野村看守長より事情聴取(電話)
3 認められる事実
(1) 平成18年12月申立人は貴所に入所した。そして、19年1月、申立人は第5工場に配役された。
(2) 同年3月、申立人が、暴力団関係者2名から威圧を受けたため、担当官に処遇部門に連れて行くよう求めたところ、「反抗」により同月30日から同年4月13日までの15日間、閉居罰とされた。ほぼ同時に、上記暴力団関係者2名も、「申立人に対する威圧」により懲罰に付された。
(3) 閉居罰終了後、同年4月14日より申立人は、昼夜間独居処遇とされた。
その後、同月23日、申立人は作業中、雑誌をチラチラ見ていたため、同年5月1日「怠役」により、罰金1、000円を科せられた。また、同年10月30日、服用せずに隠していた精神安定剤(セルシン)を発見され、「隠匿」により同年11月7日から30日間閉居罰とされた。
当該閉居罰の解罰を契機として、貴所は、これ以上昼夜間独居処遇を続けることが申立人の処遇上好ましくないと判断し、同年12月7日、ようやく申立人は、工場に配役された。
結局、申立人は、平成19年4月14日から同年12月6日まで約8ヶ月間(閉居罰とされた30日を除けば約7ヶ月間)昼夜間独居処遇とされた。
(4) 昼夜間独居とされると、工場に配役されないほか、所内の行事に参加できない、テレビ・ビデオを視聴できない等の不利益を被る。
(5) なお、申立人は、昼夜間独居処遇とされると、優遇区分が4類までしか進めないから、進級が遅れると主張する。しかしながら、この点について貴所は、昼夜間独居処遇とされても、優遇区分4類までしか進めないことはないと主張しており、同処遇とされると進級が遅れるか否かについては、認定できなかった。
また、貴所によれば、本件昼夜間独居処遇の間、申立人は、内規の「制限区分評価表」に基づいて、制限区分3種に指定されていた。
4 判断
(1) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律76条について
ア 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」という。)76条1項は、受刑者を他の受刑者と隔離する際の要件を定めている。すなわち、「他の被収容者と接触することにより刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるとき(同項1号)」、「他の被収容者から危害を加えられるおそれがあり、これを避けるために他に方法がないとき。(同2号)」と定められている。
さらに、隔離期間は原則3ヶ月間と定めており、特に継続の必要があるときでなければ更新することができず、更新するときは1ヶ月ごとでなければならない(同2項)。
また、隔離の必要がなくなったときは、直ちにその隔離を中止しなければならない(同3項)としている。
イ 関連する規定として、法154条4、5項は、懲罰の手続に関し、受刑者が反則行為をした疑いがあるときは、法76条の場合と同様の方法により他の被収容者から隔離することができることを規定し、その場合の隔離の期間は2週間とし、やむを得ない事由があると認めるときは「2週間に限り、その期間を延長することができる」とし、これらの期間中であっても隔離の必要がなくなったときは、直ちに隔離を中止すべきことを定めている。
ウ このように、法が受刑者を隔離する場合の要件、期間等を厳格に規定した趣旨は、受刑者を共同生活から長期間隔離して娯楽等を奪うことが、人間の自然な感覚の働きを失わせ、その心身への悪影響が人間の尊厳を傷つけ、残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける刑罰に、容易になりうるからであるといえる。

以上