声明・決議・意見書

勧告書・警告書2017.08.28

監視カメラ付きの居室に収容・継続の許否に関する勧告書(刑務所長あて)

広島刑務所長 光岡 英治 殿

広島弁護士会
会長 下中 奈美

広島弁護士会人権擁護委員会
委員長 原田 武彦

勧 告 書

当会は、Aを申立人、貴所を相手方とする人権救済申立事件(2016年度第8号)について、当会人権擁護委員会による調査の結果、救済措置を講ずる必要があるとの結論に達したので、当会常議員会の議を経た上、下記のとおり勧告する。

勧告の趣旨

申立人は、2016年(平成28年)6月22日に監視カメラが設置された居室に収容されたが、漫然と同年11月24日まで同室への収容を継続したことは、同人のプライバシー権を違法に侵害する措置である。
被収容者を、終日、監視カメラによる動静監視の下に置くことは、同人のプライバシー権を侵害し、同人に精神的不安や苦痛を与えるものである。同室への収容は、自殺・自傷のおそれ等、被収容者の生命・身体に対する危険やそれらに準ずる重大な危険があり、プライバシー権侵害の程度がより低い他の方法によっては目的が達成できない場合に限って実施されるべきである。監視カメラが設置された居室への収容及びその継続の許否について、上記の観点から慎重に判断するよう勧告する。

勧告の理由
第1 申立の趣旨
申立人は、平成28年6月22日、配食中の受刑者が「はいどうぞ。」と言ったのに腹を立てて、「黙っとけ。」と言ったところ(暴言)、規律違反を理由に取り調べを受け、同日から同年11月24日まで、監視カメラが設置された居室(以下「監視カメラ付居室」という。)に収容され、精神的な苦痛を受けた。

第2 当会人権擁護委員会による調査の経過概要
2016年(平成28年)8月22日 申立人からの書面による申立て
同年11月2日          広島刑務所長に文書照会
同年11月11日         広島刑務所長から文書回答
同年12月29日         広島刑務所長に文書照会
2017年(平成29年)1月17日 広島刑務所長から文書回答

第3 調査により認定した事実経過
1 申立人は、てんかん、うつ病、不安障害の診断がなされており、以前から、大声を発する、他の受刑者に対し、通路から大声で怒鳴りつける、申立人を制止した職員に対し、パイプ椅子を振り回して全治7日間の負傷を負わせるなどの粗暴動静があり、感情の統制力が低いことが認められることから、度々、保護室や監視カメラ付居室に収容されていた。
2 申立人は、2016年(平成28年)6月22日に、申立人の居室において、同居室棟で経理作業(清掃や配食等の作業)を行う受刑者に対し、突然、「黙っとけ」などと語気荒く放言し、職員が制止するにもかかわらず、居室扉を蹴り続ける粗暴動静が認められたため、同日、監視カメラ付居室に収容された。
3 同日以降、申立人に粗暴な動静は認められなかったが、同年11月24日まで、監視カメラ付居室への収容が継続された。もっとも、同年6月28日には、申立人が刑務官の指示に従おうとしなかったことなど、若干のトラブルがあったが、特に他人に危害を加えようとしたり、自傷行為に及んだりするような粗暴な言動と言えるものではなかった。また、それ以外に、同年11月24日までの間に、申立人について、何らかの具体的な問題行動が発生した事実は認められない。
4 なお、貴所によると、刑事施設においては、自身を傷つけるおそれが認められる者や他人に危害を加えるおそれが認められる者、異常行動を反復する者など、心身の状態から特に厳重な視察が必要であると認められる者について、厳重な動静視察を行うため、職員による巡回視察に加えて、監視カメラ付居室に収容の上、動静視察を行い、当該被収容者の心身の状態を確実に把握するとともに、当該被収容者の動静から、突発的に自傷行為、他害行為、異常行動等に及ぶことを未然に察知し、自殺事故、殺傷事故、逃走事故等の各種保安事故の発生の防止に万全を期しているとのことである。

第4 当委員会の判断
1 監視カメラ付居室への収容について
⑴ 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律は、「刑事施設の規律及び秩序は、適正に維持されなければならない。」(73条1項)、「前項の目的を達成するため執る措置は、被収容者の収容を確保し、並びにその処遇のための適切な環境及びその安全かつ平穏な共同生活を維持するため必要な限度を超えてはならない。」(同条2項)と定めている。
同条2項は、刑事施設の規律及び秩序を維持するためには、被収容者の権利・自由を制限することが必要になるが、規律及び秩序を維持する目的が被収容者の収容の確保及び処遇のための適切な環境並びに安全かつ平穏な共同生活の維持にある以上、その目的を達成するために必要な範囲を超えて被収容者の権利・自由を制限してはならない旨(比例原則)を明確にしたものである(逐条解説刑事施設収容法改訂版312頁)。
⑵ 監視カメラ付居室による動静監視は、通常の巡回視察による動静把握とは異なり、被収容者を、常時、継続的に監視することを可能とするもので、対象者にとっては、四六時中、一挙一動を監視下に置かれることを意味するから、プライバシー権(憲法13条)を侵害するものである。監視カメラ付居室への収容は、自殺・自傷のおそれ等、被収容者の生命・身体に対する危険やそれらに準ずる重大な危険があり、プライバシー権侵害の程度がより低い他の方法によっては目的が達成できない場合に限って実施されるべきである。
2 本件の検討
貴所によれば、精神障害を有する申立人について、大声を発する、他の被収容者に大声で怒鳴りつける、パイプ椅子を振り回して職員の制止を妨害するとともに全治7日間の負傷を負わせるなどの粗暴動静があり、感情の統制力が低いことが認められていたところ、2016年(平成28年)6月22日、申立人が、他の被収容者に語気荒く放言し、職員の制止を無視して居室扉を蹴り続けたことから、申立人の動静を厳重に視察するために、同日、申立人の動静が落ち着くまでの間、申立人を監視カメラ付居室に収容したとのことである。
確かに、申立人には、2016年6月22日当日には、実際に粗暴な言動が存在しており、その限度では動静監視の必要性が認められるものの、他方で、申立人には、自殺・自傷のおそれ等、被収容者の生命・身体に対する危険や、それらに準ずる重大な危険があるわけではなく、また、少なくとも、申立人の動静が沈静化した後は、通常の巡回視察による動静把握で目的を達成できたというべきである。
前記認定のとおり、同日以降、申立人に粗暴な動静は認められず、それほど重大とは言えない指示違反行為があったのも同年6月28日が最後であったのであるから、申立人に以前の粗暴動静歴があることを考慮しても、同人を監視カメラ付居室へ収容するのは、せいぜい1週間程度で十分であったというべきであって、漫然と同年11月24日まで監視カメラ付居室への収容を継続したことは、同人のプライバシー権を違法に侵害する措置である。
3 結論
よって、当会は、貴所に対し、勧告の趣旨のとおり勧告する。

以上