声明・決議・意見書

会長声明2021.01.13

沖縄県民の民意を尊重し,辺野古新基地建設の停止を求める会長声明

2021年(令和3年)1月13日

広島弁護士会会長  足 立 修 一

第1 声明の趣旨

当会は,日本政府に対し,速やかに,辺野古新基地建設を停止するよう求める。

第2 声明の理由

1 歴史的背景

沖縄では,第二次世界大戦の際,日本で唯一の地上戦が行われ,多数の沖縄県民が犠牲となった。敗戦後,サンフランシスコ平和条約によって日本の独立が回復した後も,沖縄は1972年(昭和47年)まで米国の統治下におかれた。その後,沖縄は本土復帰を果たすことはできたものの,結果として,現在まで,日本の国土面積の0.6%の沖縄県に,70%を超える米軍基地が存在する状態が続いている。

特に,普天間飛行場は,住宅地ときわめて密接していることから,「世界一危険な飛行場」(2010年(平成12年)7月29日福岡高裁那覇支部判決参照)と称されており,長年にわたり沖縄県民が同飛行場の返還を求めて来た。

これに対し,日本政府は,普天間飛行場の代替用地を米軍に提供するため,沖縄県北部の辺野古大浦湾海域で埋立工事を行っている。

2 沖縄県民の意向が無視され続けていること

辺野古新基地建設に関し,沖縄県では,2014年(平成26年)11月及び2018年(平成30年)9月に実施された県知事選挙において,辺野古新基地建設の是非が主たる争点となり,いずれの選挙においても辺野古新基地建設反対を公約に掲げた知事が当選している。

また,2019年(平成31年)2月24日,沖縄県において,辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票が行われ,投票者(投票率52.48%)の72.15%が反対という結果であった。辺野古新基地は,単に普天間飛行場の代替地というだけでなく,大型艦船が停泊できる新たな大規模米軍基地の建設であり,沖縄から米軍基地を減らすという県民の願いにも反するものであった。

県知事選及び県民投票の結果から,沖縄県民の多数が,辺野古新基地の建設に反対していることは明確となったのである。

それにもかかわらず,日本政府が辺野古大浦湾沿岸に土砂を投入し,埋立工事を強行しているのは,日本国憲法第8章に定める地方自治の理念に悖るものである。

3 環境の不可逆的悪化

辺野古基地飛行場建設の埋立予定地である辺野古大浦湾の海域は,深く切り込まれた独特な地形を有しており,珊瑚だけではなく,藻場,泥底,砂礫底などの多様な環境からなる世界的にも貴重な内湾性珊瑚礁生態系である。

防衛省の環境影響評価書によると,この海域には319種の絶滅危惧種の海域生物の存在が記載されている。

辺野古新基地の建築予定地には,以前から海底地盤に問題があると指摘されていたところ,日本政府も,昨年になり,海底地盤が軟弱地盤であることを認めた。そして,その軟弱地盤は最も深いところで水深90mに達しているため,7万7000本もの砂杭を打ち込む工法に設計変更がなされた。

しかしながら,この海域でこのような多数の砂杭を打ち込む工法が行われると,海域に生存している貴重な生物を絶滅させ,内湾性珊瑚礁生態系を不可逆的に破壊してしまうおそれが強い。

よって,設計変更にともなう環境影響評価を新たに実施し,設計変更について沖縄県知事の承認を得ることが必要であり(公有水面埋立法42条3項),現状での埋立は,速やかに停止すべきである。

4 建設計画と財政面での問題

上記の各問題点以外にも,当初の想定をはるかに超えた莫大な予算を必要とするという問題もある。

防衛省の説明によれば,2009年(平成21年)に「少なくとも約3,500億円程度」と総工費を見積もっていたものが,上記設計変更を受け,2019年(令和元年)12月には,見積の2.6倍である約9,300億円と総工費の変更がなされている。

今や,辺野古新基地の建設計画は,日本政府が当初想定し,国会で議決をした予算をはるかに超える規模となっている。大幅な予算増加をふまえた辺野古新基地の建設続行の是非を問う国会での審議議決を経ずに,辺野古新基地の建設を続けることは,国民の意向を反映したものとは言えず,財政民主主義にも反する。

今後も莫大な予算増加が生じる事態を想定した上でなお,軟弱地盤の上に新基地を建設すべきなのか,今一度国会で議論を尽くすべきである。

5 結論

よって,当会は,日本政府に対し,沖縄県民の声に耳を傾け,また,辺野古周辺の貴重な環境の保全及び軟弱地盤の問題にしっかりと向き合い,速やかに,辺野古新基地建設を停止するよう求める。

以上

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