声明・決議・意見書

会長声明2023.02.22

ノン・ルフールマン原則等に反する入管法改正案に反対し国際基準に沿った出入国管理・難民保護制度の確立を求める会長声明

2023年(令和5年)2月22日

広島弁護士会 会長 久笠 信雄

 政府は今通常国会(第211回)に、2021年の国会に提出されたが廃案となった出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)改正の法案(以下「改正法案」という。)をその骨格を維持したまま再提出する方針である。

しかし、改正法案に盛り込まれている難民申請者に対する送還停止効の例外規定の創設は、迫害を受けるおそれのある領域の国境への追放や送還を禁じる国際法上のノン・ルフールマン原則(難民条約第33条等)に反し、難民申請者を命の危険に晒すことになりかねない。

当会は、改正法案には、送還停止効の例外規定の他にも、刑事罰で強制する退去命令制度の創設等、多くの問題点があることから、2021年3月25日付け「出入国管理及び難民認定法改正案に対する意見書」で反対を表明し、2022年7月13日付け「入管法改正案の再提出に反対し国際基準に沿った適正な難民保護制度の確立を求める会長声明」を発出した。

この間に、国連の国際人権(自由権)規約委員会は、2022年11月に、日本における自由権規約の実施状況に関する総括所見を発表した。

同委員会は、2017年から2021年の間に出入国管理当局の収容施設で3人の被収容者が死亡したこと、仮放免者の不安定な状況、難民認定率の低さについて懸念を示し、難民を含む外国人の問題について、国際基準に沿った包括的な難民保護制度を早急に採用すること、収容期間の上限設置や収容に対する司法審査を導入すること、収容施設での処遇について医療へのアクセスを含め国際基準に沿った改善を行うことなどを勧告した。この勧告はフォローアップの対象とされている。

そもそも、憲法上認められている身体の自由は、外国人にも認められており、自由権規約第9条は、「すべての者は、身体の自由及び安全についての権利を有する(第1項)。」、「いかなる身体の拘束についても遅滞なくその合法性を審査するため裁判所において手続きをとる権利を有する(第4項)。」と規定しているのであるから、本来は、収容期間の上限を定めるとともに、収容の必要性についての司法審査の導入等を設ける改定が必要である。

しかし、改正法案は、そのことには全く目を向けていない。

また、欧米諸国に比べて極端に少ない難民認定数と極めて低い難民認定率が続く現状では、日本が難民条約加入国として期待されている責務を果たせていないことを反省し、独立した難民認定機関の創設など国際基準に沿った適正な難民保護制度こそが検討されなければならない。

しかし、改正法案はこれに逆行し、送還の強化を図ろうとしている。とりわけ、難民申請者を締め出す送還停止効の例外規定を創設することは、ノン・ルフールマン原則に反するもので極めて問題である。

今必要なのは、国際人権法違反の疑いがあり、個人の尊厳と人権をないがしろにする出入国管理における収容政策や難民認定制度を根本から見直すことであり、当会は、出入国管理当局の独善が際立つ改正法案に断固反対する。

以上