声明・決議・意見書

会長声明2023.02.22

安保3文書の改定閣議決定に反対する会長声明

2023年(令和5年)2月22日

広島弁護士会 会長 久 笠 信 雄

第1 声明の趣旨

当会は、国が安保関連3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛整備計画)の改定により、反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有すること、及びそのために多額の財政負担を負うことを閣議決定したことに対して、強く反対する。

 

第2 理由

1 閣議決定

政府は、2022年12月16日、「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛整備計画」(以下「3文書」という)の改定を閣議決定した。これにより政府は、「敵基地攻撃能力」に代えて「反撃能力」という用語を用いて、相手国の領域内にあるミサイル発射手段等を攻撃する敵基地攻撃能力よりさらに幅を持たせた表現で武力の保有を決定し、それに伴い、防衛費の大幅な増額を決定した。

2 憲法9条との関係(専守防衛に反すること)

従来、政府は、憲法9条の下での自衛権の発動は、平和主義を基本原則とする日本国憲法においては、自衛の措置といえども無制限ではなく、あくまで外国の我が国に対する武力攻撃が発生した場合で、他にこれに対処する措置が無い場合に初めて容認されること、それはその事態を排除するためにとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものであることを示してきた(自衛権発動の3要件・専守防衛)。

しかし、政府は上記3文書の閣議決定によって「反撃能力」の保有を決定した。これにより、相手国がミサイル攻撃等の発射する前の段階では日本に対する攻撃がなされるのかを正確に判断できないのにも関わらず、相手国が「攻撃に着手」したとみなして反撃することになり、実質的に国際法上も違法な先制攻撃となりうる事態が想定される。また、安保法制の下、日本に対する武力攻撃や、「攻撃に着手」したとみなされる事態がなくとも、「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃が発生した場合に集団的自衛権の行使ができる。これにより、日本に一切攻撃を行っていない、行おうともしていない他国に日本から先制攻撃を行う事態が想定されることとなる。

「反撃能力」は、一旦これを行使すれば、当然相手国からの反撃が想定され、結局際限のないミサイル戦争になるため、必要最小限度にとどめておくことは不可能である。さらに「反撃能力」は日米の共同行使が前提であるため(国家防衛戦略)、我が国の反撃能力だけが必要最小限度にとどまることはない。その結果、相手国もこれを上回る攻撃能力を備えて際限のない軍拡競争を引き起こし、偶発的な戦争や、ひいては核兵器の使用のおそれさえ生じさせる。

このように、今回の閣議決定による3文書の改定は、集団的自衛権の行使等を容認した安保法制をさらに進めたものであり、国家防衛戦略の大転換と言える。従来の専守防衛に反して、相手国の領域に直接「武力攻撃」を行う「戦力」の保有を決定したものであり、当然に憲法9条に違反する。

3 手続きと民主主義との関係

3文書の改定の閣議決定は、先の国会が終了した後になされたものである。

しかし、先に述べたとおり、この防衛戦略の変更は、従来の政府の防衛戦略を大きく変更し憲法9条にも反するものである。さらに、防衛力の抜本的強化のためにGDP2%の予算措置をとる必要があるとされている。そのため、多額の財政負担、具体的には現在の2倍もの巨費を防衛費に投入する必要があり、国民の経済的負担増は避けられない。

それにも関わらず、国民的議論は言うまでもなく、国民の代表者による国会ですら、具体的議論はなされていない。

このような国家防衛戦略の大転換が国会審議もなく、閣議により決定されたことは、憲法原理の一つである立憲主義、民主主義、国民主権の原理にも反するものである。

4 結論

当会は、2014年以降、長年にわたり確立された政府の憲法解釈を閣議決定により変更して、集団的自衛権の行使等を容認し、またそれを法制化した安保法制に対し、強く反対してきた。これらは憲法9条に違反するほか、立憲主義、国民主権の基本原則に反するものである。この度の政府の安保関連3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛整備計画)の閣議決定による反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有も、安保法制と同様、憲法9条に反する。さらに、手続的にも、これらを閣議決定することは、憲法原理である立憲主義、国民主権、民主主義に反することから、これに強く反対する。

 

以上