声明・決議・意見書

会長声明2008.01.21

生活扶助基準の引き下げに反対する声明

広島弁護士会
会長  武井康年

1  厚生労働省内の有識者会議「生活扶助基準に関する検討会」(以下「検討会」という。)は、平成19年11月30日、生活扶助基準の引き下げを容認する報告書を出し、これを受け、同年12月20日、再来年度予算編成で対応すると発表した。
当会は、かかる安易な生活扶助基準の引き下げに断固として反対するとともに、厚生労働省に対して、生活保護受給者や市民の声を十分に聴取し、慎重な検討を行うことを強く求める。
2  生活扶助基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、国民の生存権保障の水準を決する極めて重要な基準である。
また、生活扶助基準は、地方税の非課税基準、介護保険の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準、また、自治体によっては国民健康保険料の減免基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動している。したがって、生活扶助基準の引下げは、現に生活保護を受けている人の生活レベルを低下させるだけでなく、所得の低い市民の生活全体にも大きな影響を与える。
このような生活扶助基準の重要性に鑑みれば、その引き下げに関する議論は、国民の生活及び消費実態等も十分に調査した上で、その調査結果に基づいて慎重に行われるべきである。また、こうした議論は、公開の場で広く市民に意見を求めた上、生活保護受給者の声を十分に聴取してなされるべきである。
3  ところが検討会は、わずか1ヶ月半足らずの間の5回の開催をもって、市民等からの意見を聴取することもなく報告書をまとめた。また、報告書は、低い方から1割の低所得者層の消費支出統計よりも現行生活扶助基準のほうが高いことを扶助基準切り下げ容認の根拠として挙げている。
しかし、もともとわが国の生活保護の「捕捉率」(制度を利用する資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)が極めて低く(この点については、平成16年12月15日、生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書においても指摘されている。)、生活扶助基準以下の生活を余儀なくされている低所得者が多数存在する現状において、現実の低所得者層の収入や支出を根拠に生活扶助基準を引き下げることを許せば、生存権保障水準を際限なく引き下げていくこととなる。「ワーキングプア」が多数存在する中で、生存権保障水準を上記のようなことを根拠として切り下げることは、格差と貧困の固定化をより一層強化し、努力しても報われることのない、希望のない社会を招来することにつながりかねない。
厚生労働省が、来年度における基準引き下げは見送ったとはいえ、今後、十分な議論・検討を欠いたまま、検討会報告書をもとにした基準引き下げの方針を維持するとすれば、手続的にも不十分であり極めて不当である。
4  よって、当会は、冒頭に記載したとおり、安易な生活扶助基準の引き下げに反対するとともに、慎重な検討を求めて、本声明を発する。

以上