声明・決議・意見書

会長声明2012.08.08

改正貸金業法の見直しに反対する会長声明

広島弁護士会
会長 小田 清和

深刻な多重債務問題解決のため,2010年(平成22年)6月18日に,改正貸金業法の目玉である出資法の上限金利の引下げ及び収入の3分の1以上の貸付の禁止(総量規制)等の完全施行がなされてから2年が経過した。
改正貸金業法が目指したとおり,5社以上の借入れを有する多重債務者が法改正時の230万人から44万人に激減し,自己破産者は17万人から10万人に,多重債務による自殺者は1973人から998人に半減するなど,同改正は多重債務対策として大きな成果を上げている。
当会においても,この間,法律相談センター等における無料相談を実施し,地方自治体等の相談機関との連携を強化するなど,多重債務者の救済及びその生活再建やヤミ金融被害の救済等に向けて総力を挙げた活動を行ってきた。このように改正貸金業法は,極めて順調に施行されてきたと評価できる。
ところが,近時,与野党の国会議員の間では,正規の業者から借りられない人がヤミ金から借入れをせざるを得ず,潜在的なヤミ金被害が広がっている,零細な中小企業の短期融資の需要があるとして,上限金利を年30%程度まで引き上げ,総量規制を見直すことを目指す動きが活発化している。
しかし,ヤミ金については,相談件数も警察の検挙数も減っており,被害規模も小型化するなど,ヤミ金被害が広がっている根拠はない。また,日本の社会が二極化し,貧困層が拡大していることを鑑みると,正規の業者から借りられない人に対しては,簡単に借りられるようにするのではなく,高金利に頼らなくても生活できるセーフティネットの再構築や相談体制の更なる充実が重要である。
さらに,日本の基幹ともいうべき中小企業がリーマンショックによって深刻な影響を受けているが,国は緊急保証,セーフティネット貸付及び中小企業等に対する金融円滑化対策を実施し,地域金融機関等による支援策を行っている。このように,貸金業者による個人零細事業者への総量規制の例外貸付も一定の実績を有している現状下で必要な対策は,短期の高金利の資金提供ではなく,総合的な経営支援策である。
なぜなら,高金利の貸付が行われても,結局は,借入をした中小企業の経営をさらに圧迫することにしかならないからである。そして,中小企業支援対策を行うのであれば,さらなる金利の引下げと返済期間の長期化をセットにして民間の低利融資を実施させることこそが,現在本当に必要な中小企業支援対策といえる。
よって,当会は,改正貸金業法完全施行の成果を無にしかねない,金利規制・総量規制の緩和に強く反対するとともに,同改正の成果を確認しながら残された多くの課題にも積極的に取り組んでいくことをここに表明する。

以上