声明・決議・意見書

意見書2011.07.13

提携リース契約を規制する法律の制定を求める意見書(1/2)

衆議院議長   横路 孝弘 殿
参議院議長   西岡 武夫 殿
経済産業大臣  海江田 万里 殿
消費者庁長官  福島 浩彦 殿
中小企業庁長官 高原 一郎 殿
法制審議会会長 野村 豊弘 殿
衆議院経済産業委員会委員 各位
参議院経済産業委員会委員 各位

広島弁護士会
会長 水中誠三

意見の趣旨

第1 提携リース契約において,客観的に見て極めて不適切・不合理な内容の契約により多数の被害が生じている現状を踏まえ,これを適切に規制する下記内容の立法措置を至急行うことを求める。
1 リース会社とサプライヤーとの一体的取扱い
サプライヤーがユーザーに対して行なった説明は,リース会社が行ったものとして扱うという明示の規律を行うこと
2 リース物件の市価と乖離したリース料総額設定の禁止
リース会社は,リース物件(リース契約の対象物件)の市場価格の調査義務を負い,これを著しく超えるリース料総額になるリース契約の締結を禁止すること
リース物件が市販されていない場合,同様の用途とする他に容易に入手し得る物件に比して価格が高額であるならば,それが高額である事実及び特にその比較において高額な物件をリース物件とする理由を明示すること
また,物件価格が不適切であったり,リース契約の対価に役務提供の費用が実質的に含まれていた場合には,ユーザーは,当該リース契約を取り消すことができるものとすること
3 リース物件の限定
リース物件は,動産およびソフトウェアに限られるものとし,役務はリース物件とはできないことを明示するとともに,契約書面上においてリース物件を「ソフトウエア○○ 一個」ではなく「ソフトウエア○○ 一式」と記載する等,実質的にリース料に役務提供の対価を含める脱法的な扱いを明示的に禁止すること
4 残リース料上乗せリースの禁止
既存のリース契約の解約を伴う場合において,その残リース料を清算するための費用を,新たなリース契約のリース料に上乗せすることを禁止すること
5 リース料率の規制
リース料率の適正な制限利率を設けること
6 適切な契約内容の説明義務
リース会社及びサプライヤーは,リース契約の内容についてのリース会社の概要書面及び契約書面作成交付義務を負い,その内容は,動産及びソフトウェアの名称及びその価格,当該動産等に附帯する損害保険費用がある場合はその内容及び価格,当該動産等の設置・設定のための費用がある場合はその内容及びその価格,リース料率,中途解約の可否等とすること
7 クーリング・オフ
ユーザーは,第6項が定める契約書面を受領した後相当期間はリース契約のクーリング・オフができるものすること
8 不招請勧誘禁止
リース契約についての不招請勧誘を禁止すること
9 支払能力調査義務・過量販売の禁止
リース会社は,ユーザーの支払能力調査義務を負い,その額を超える契約の締結や過量販売を禁止すること
10 厳格な行政ルールの導入
提携リースについては,販売信用に準ずるものとして,割賦販売に準じた規律を設け,経済産業省等への届出・登録義務を課した上で,報告徴求,立入検査,業務改善命令等の行政ルールを導入すること

第2 併せて,法制審議会における民法(債権法)改正の検討作業において,提携リース契約被害について考慮がされないままに,ファイナンスリース契約が典型契約として規定されることのないよう,十分慎重に議論を行うことを求める。

意見の理由

第1 提携リースとその被害
1 提携リースとは,販売店(以下「サプライヤー」という)とリース会社との間に提携関係があるため,サプライヤーがファイナンス・リース契約締結の交渉・申込手続を代行するリース契約のことである(なお,経済産業省は提携リースのうち,訪問販売の形式が取られるものを「リース提携販売」の用語で呼んでいる。本意見書においては,フルペイアウト方式のファイナンス・リースでリース会社とサプライヤーとの間に提携関係があるものを「提携リース」という。)。
この仕組みを利用して,リース会社と提携関係のあるサプライヤーの販売員が自宅の一部を店舗あるいは作業場として利用しているようなユーザーを訪問して,「今使っている電話機はいずれ使えなくなる」「この電話機に交換すれば電話代が今よりも安くなる」,「既にリースを組んでいるならば,当社(サプライヤー)が既リースの解約手続きをしておく」といった詐欺文言による勧誘を行い,これをもって「今の電話機が使えなくなる」,「電話代が安くなる」,「既リースについては今後リース料を払わなくても済む」等と信じたユーザーが,いわゆる「ビジネスフォン」と呼ばれる高機能事務用電話機について,その物品価格を遙かに上回る高額な価格設定でリース契約を締結させられる事例が多発している。
また,近年,100万円(場合によっては200万円)を超えるホームページ作成という役務提供の対価を2万円程度で市販されているホームページ作成ソフトと機能的に変わらないソフトウェア等のリース契約を装って契約させる事例や,警備契約という役務提供の対価をリース料総額に比較してはるかに安価な警備システム(防犯カメラ,録画システムなど)等をリース物件に設定してリース契約を締結させる事例が発生している。
本来的なリース契約においては,ユーザーが自らの事業に使用する機器について,導入の必要性を感じて販売店と価格を含めて協議を行い,与信を得る方法としていくつかの選択肢の中からリース契約を選択するため,ユーザーは機器の必要性についても,価格(リース料総額)の相当性についても認識を有している。
ところが,提携リースにおいては,訪問販売の方法により突然訪れた販売員が,前述の欺罔文言によって,機器導入の必要性についての欺罔を行い,価格(リース料総額)の相当性についての検討機会を奪う上,ユーザーは自ら必要性を感じていた機器ではないため,その相当価格についての知識を事前に有することはない。更に販売員は月額リース料のみを強調し,ユーザーがリース料総額を認識しないようにしむけるのである。
そして,後日,当該機器を導入する必要がなかったことや,あまりに高額なリース料総額を知ったユーザーが,リース会社に対して解約を申し入れても,リース会社は,サプライヤーの勧誘行為はリース会社には無関係である,リース契約上中途解約が認められない,事業者には特定商取引法が適用されずクーリング・オフは認められない,といったことを理由に一切解約に応じようとしない。
このように,リース会社は,リース会社とサプライヤーは別法人格であり,リース契約の当事者はあくまでもユーザーとリース会社の2当事者のみであることを殊更強調し,サプライヤーの販売方法に問題があったとしても,リース契約の帰趨には影響がない旨を主張する。
しかしながら,このリース会社の主張は,提携リースの特徴を敢えて無視したものであり失当である。
なぜなら,提携リースにおいては,サプライヤーが熱心に勧誘を行う等の営業努力によってリース会社は利益を獲得するという密接な依存関係が築かれているためである。
即ち,リース会社は,自ら経費を掛けて営業をかけることなく,サプライヤーの営業努力により,ユーザー数を確保し,リース料を収得できる。そして,サプライヤーは,ユーザーからリース契約を取れさえすれば,リース会社からリース物品代金名目の収益を得ることができるため,ユーザーへ熱心にリース契約の勧誘行為を行なうのであり,その結果,上述したような,物品価格を遙かに上回る高額な価格設定をしているにも関わらずそれを秘した詐欺的な勧誘が行なわれるのである。
このように,提携リースにおいては,リース会社はサプライヤーの営業によって収益を上げ,また,その構造上,サプライヤーがリース契約の成約のために無理な勧誘を行なう危険性が必然的に内在しているのであり,リース契約自体が,無知な消費者,あるいは限りなく消費者に近い事業者から,利用するリース物件との対価的均衡を欠く,本来必要のない金員を支払わせるための道具として利用されている実態がある。
2 このような提携リースの特質を利用した悪質なリース契約に関する相談件数は,国民生活センターの集計によると,平成12年から平成17年にかけて年々増加し,平成12年度には2618件であった相談が,平成13年度3511件,平成14年度4853件,平成15年度5830件,平成16年度7352件,平成17年度8696件と急増してきた。
その後,平成18年度5498件,平成19年度3807件,平成20年度2973件と減少はしているが,この減少傾向は,経済産業省が平成17年12月6日付で特定商取引法の通達を改正したことや,平成18年,京都弁護士会の有志による弁護団が結成され,その後も全国各地で電話機等リース被害弁護団が結成されて,リース会社に対応してきた結果ではあるが,未だ決して少ない相談件数ではない。
又,リース事業協会に対する相談件数は平成19年度が3,778件,平成20年度が4,249件,平成21年度が4,532件でありむしろ増加している。
更に,リースの契約対象として,電話機等から電話機等の事務用機器以外の物件,ホームページ作成用ソフトに変化し,リース契約を巧妙に利用した新たな被害事案が増加している。

以上